第32話 世界の中心・神殿07。
静寂。
攻撃の音が耳の奥に残る。
ジョマは消え去ってしまっても傷ついた神殿の床なんかが戦闘をあった事を物語り、細かいマリオンの破片が先程までマリオンが居た事を物語る。
キヨロスはマリオンの亡骸の前に進んで座り込むと「…僕の魂は後どれくらいだろう」「マリオンが居ないなら解脱もどうでもいい」「このまま消えたいな…」と思ったままを呟く。
キヨロスは呟きながらマリオンの頭を拾い上げて抱きしめて「ごめんマリオン。「記憶の証」が壊されてしまったんだ」と言って泣いた。
「トキタマで跳ぶことも叶わないらしい…」
そう呟いて初めてトキタマの気配はするのに姿が見えない事にキヨロスは気付いた。
「あれ?トキタマ?」
読んでも返事がない。
キヨロスはトキタマを探したが見つからない。
途中から探すことをやめてマリオンの頭に再度語りかける。
「トキタマが居ないや。居たら僕の魂の残りを聞けたのに…」
「ありがとうマリオン。僕はマリオンを忘れない。魂が尽きてマリオンと同じ所に行けなくても忘れないよ」
その瞬間、「なにメソメソしてるのよ?」と確かにマリオンの声が聞こえた気がした。
「マリオン?え?」
キヨロスは抱えているマリオンの頭を見て今の声が聞き間違いかとジッと見つめる。
「バカ、そっちじゃないって」
「聞こえた!?え!?」
今度は頭を持ち上げて唇に指を当てて口を開けてみるキヨロス。
そのまま唇を耳に押し当てて声がしないかを確かめると「恥ずかしいからやめてよ!こっちだよキョロ」と聞こえた。
確かに聞こえたマリオンの声にキヨロスは慌てて振り返るとそこには肩にトキタマを乗せたマリオンが立っていた。
キヨロスが震える声で「ま…幻?マリオン?」と聞くとトキタマが「ふふ。お父さん困ってますねー」とマリオンに笑いかけてマリオンも嬉しそうに笑って「本当だね。泣いちゃってるしね」と言った。
ごく自然なトキタマとマリオンの会話。
話について行けないキヨロスが「え?」と言って2人を見ていると「本当、人形さんの頭を抱いたままですねー。持って帰るんですかね?」「えぇ?やだよ。夜中に見たら怖いもん」と話している。
「え?え?え?」
「まだわかってないですねー」
「まあ2個同時のご都合主義だからね」
いよいよキヨロスが「トキタマ?マリオン?」と聞くとトキタマが羽根を広げて「ふふふふふ。お父さんありがとう!」と言い、マリオンが嬉しそうに「うふふ。キョロ、アンタの頑張りが実を結んだんだよ。おめでとう「時のタマゴ」は解脱したよ」と言った。
「え?」
「沢山の経験をしました。僕に足りない最後の経験はお父さんが死の瞬間すら自分の意思で時を跳ぶ事でした」
「アンタ、ジョマを何遍も痛めつけるのにわざと攻撃を喰らってその度に台無しにしてきたよね?だからそれが最後の経験だったんだってさ。途中で解脱したから「時のタマゴ」を使うのに魂は使わなくなったって。それに剣も鎧も靴もこの戦いで解脱したってさ」
まさかの状況にキヨロスが「え?解脱…?」と驚くとトキタマが「もう一つですよお父さん。人形さんを見てあげてください」と言う。
キヨロスは今も抱いているマリオンの頭をもう一度持ち上げて見てみるとマリオンが真っ赤な顔で「バカ、そっちじゃない!こっち!」と言う。
キヨロスは「え?」と言ってトキタマを肩に乗せるマリオンを見るとトキタマが「お父さん、人形さんを見て気付きませんか?」と聞いてくる。
ここでキヨロスが不思議なことに気付いた。
「…あれ?女の子が着る服を着てるね」
「へへ、可愛いよね。私さ、今までこんな可愛い服を着た事が無かったんだよ。肘や膝の隠れる服。理由はわかるかな?そこの私のカケラを見てよ」
キヨロスが見るとマリオンの肘や膝といった関節にはつなぎ目が出来ていた。
そしてトキタマを肩に乗せたマリオンの関節にはつなぎ目がなかった。
「あ…」
「ふふ。やっとお父さんは気付きましたね」
驚くキヨロスにマリオンが本当に嬉しそうに「キョロ、私ね。人になったの」と言った。
「え?」
「神様がガーデンに来てくださったんだよ。
知らせる者が呼んで神様はすぐに来てくださったんだよ。与える者が私たちが世界の為にやり切れたらご褒美を与えてくださいってお願いしてくれていて見守ってくれていたの」
この説明でようやくキヨロスが「じゃあ…マリオンは本物?」と聞く。
「そうだよ。まだ幻だとか思ってたの?
あのアーティファクト・キャンセラーを破壊した瞬間、バラバラになった私は神様の姿を見た。
キョロにお別れを言って神様に呼ばれた私は半身半人で世界の為に命を使ったお礼って言われたの。そのお礼は「時のタマゴ」で死ねないキョロを死ねるようにするモノで私と同じ所に行かせてくれるって最初は言ってくれたの。
でもキョロなら「時のタマゴ」を解脱もさせられるから、解脱したら人間にしてって頼んだんだよ」
「マリオン?」
「だからジョマを倒して解脱したキョロのお陰で私人間になったよ」
マリオンはニコニコと笑顔でキヨロスの前に立つと手を伸ばして「ほら、いつまでも私の頭を抱きしめてないで立ちなよ」と言う。
人形の頭を床に置いたキヨロスは「マリオン!」と言いながらマリオンに飛びつく。
キヨロスは「わぁ!?」と驚くマリオンを抱きしめながら泣いて「良かった」と何遍も言う。
「そんなに嬉しい?」
「嬉しいよ!」
「私は一緒の人間になれて嬉しい。そしてキョロが解脱してくれた事も嬉しいよ」
「ありがとうマリオン!」
暫くしてキヨロスが泣き止んだところでマリオンが「神様、お待たせしました」と言うと目の前に神の使いを連れた神が降り立つ。
神は優しい面持ちの青年で「やあキヨロス。はじめまして。僕が神です」と名乗って穏やかに微笑んだ。
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