第28話 世界の中心・神殿03。

アーティファクト・キャンセラー発動した瞬間、トキタマは目の前から姿を消し、世界からアーティファクトが失われる。

外からはアーティファクトに頼っていた人達の困惑の声が聞こえてくる。

きっと火を起こす事にも苦戦することになる。


そんな中、授ける者が「作戦会議です。この場合、かなり分が悪い賭けですがマリオンに賭ける事になります」と話し始めた。


「マリオン?」

「ええ、マリオンは生まれながらに擬似アーティファクトや人工アーティファクトにしか触っていません。「誓いの指輪」は主ではなくキヨロスの相方としての立場であれば無効です。

仮にアーティファクト・キャンセラーがマリオンを使用者として認めればアーティファクト・キャンセラーは停止して世界にアーティファクトが戻ります」


この説明に「うん。行くよ」と言ったマリオンはガクにアーイが持つようなショートソードと軽い鎧を注文する。


「もしマリオンが認められなかったらどうするんですか?」

キヨロスの質問に神の使い達は言葉に詰まった後で「神殿からアーティファクト・キャンセラーを持ち帰ってください。人々の代表を決めてアーティファクト・キャンセラーを破壊します」と言う。


神の使いの態度が気になったキヨロスが「その理由は?」と聞くと一瞬の間の後で「…アーティファクト・キャンセラーは破壊時に衝撃波を生み出します。範囲こそ狭いのですが耐えられる人間は居ないでしょう」と答えた。


「槍で突くとかそれこそ城の屋根から落とすとかは?」

常継の提案に「可能性はあります」と答える。


常継が名案とばかりに「じゃあマリオンでダメなら持って帰ってきて城から投げて壊そうぜ」と言うのだが授ける者から「ルル、伊加利常継、あなた方には地獄門に行ってもらいたい」と言われる。


「あ?別行動かよ」

「なぜです?」

授ける者は北の方角を見て「万一攻め込んで地獄門にいかれた後では話になりません。なので戦力を分けます」と説明をする。きっと見ている方角に地獄門があるのだろう。


「俺は行っていいのか?」

「ガクはノースの民をウエストに避難させてください。地獄門が開く前に何としてでもやり遂げるのです」

ガクはアーイの立場を慮っているのでノースの民の事を思えば受け入れるしかなく、「くそっ、キヨロスとマリオンだけを送り出すのかよ」と言って憤っている。


「仕方ないって、皆がやれる事をやる」

「うん。私達も頑張るから皆も頑張ってね」

キヨロスとマリオンは水や食料を貰うと授ける者の手で神殿への道の入り口に送られたがそれはサウスの山の中だった。


キヨロスは見覚えのある景色に「あれ?ここって三の村の…毒竜が住んでた山?」と言っているとマリオンが「あ、お爺ちゃん神の使いが居た」と言って老人の神の使い、導く者を見つけた。


「よく来たね〜。ごめんね。助かるよ〜」

そう言った導く者はキヨロスが毒竜退治で散々使った坑道に行って何も無い所を掘り進めると立派な石造りの道が出てきた。


「今更だけど、多分毒竜は女の神の使いが地獄門の隙間から呼んだんだろうね。神殿に行かせない為にここを毒の山にしたかったんだ」

この説明にキヨロスは「…それでノースから飛んできたって…」と言って納得をする。


「神の使いのお爺ちゃんは一緒に行くの?」

「僕達はこの道から神殿には行っちゃダメなんだ。だからここまでだよ」


「じゃあ皆が心配だから皆と居てよ」

「平気だよ。カムカと新しい王様達がサウスの人間を全部城に集めようとしてるからね」


「良かった。カムカとマリー達なら大丈夫だね」

「うん。私達は神殿に行こう!」


キヨロスとマリオンは一本道をただ真っ直ぐ歩いていく。

ガクに見せて貰った地図だとサウスの山の中から世界の真ん中はかなりの距離があった。

平坦で真っ直ぐだから一の村から三の村くらいで済むかも知れないとキヨロスは思っていた。


洞窟なので時間の概念が消えてしまい空腹を覚えれば食事を摂り、睡魔に襲われれば眠る。

眠る前には2人で少し話をする。


簡単に敷物の上に寝転がるとキヨロスが「ねぇマリオン」と話しかける。マリオンは「何?指輪は外さないよ」と即答をする。


その返事に「いいよ」と言ったキヨロスは指輪を見ながら「今は繋がり切れているだろうから、もしもアーティファクト・キャンセラーを停止できなかったら僕が壊すよ」と言った。


「はぁ!?何言ってんの?」

「今なら僕は人として死ねる。トキタマの力がない今なら死んで強制的に時を跳ぶことは無くなるからね」


確かに言っている事は何となくわかる。

解脱とはまた違う方法。停止中に命を絶つ。

これならば人として死ねる。

だがそれを聞いたマリオンは「…それなら後追いするからね」と言った。


「えぇ?ダメだよ」

「ならアンタもダメだよ」

このやり取りの中でキヨロスが「ふふ」と笑う。


「何?」

「そう言えば前にマリオンは僕の名前を呼んだよね」


「…戦闘中?呼んだよ」

「また呼んでよ。アンタとかコイツとかより嬉しかったよ」

この会話にマリオンが「生き残ったらね」とそっけない態度をとる。


「じゃあ生き残ったらの話をしようか?ウエストにはまだ行ってないから行こうよ」

「うん。あの鳥に沢山の経験させないとね」


「その後はどうする?世界は回ったし人が入れない神殿にも来たんだ。もうガーデンで僕達が行ってない場所はないよね?」

「あー…そうだね。もう一周する?」


「良いけどしたいの?」

「したいって言うかサウスに住むのは嫌かな」


「なんで?」

「マリーが王様するから。そっくりの私が居たらマリーの迷惑だもん」


「そうなの?でもそうならマリオンとマリーはもう別の人間だね」

「そうかな?でもアンタは本当に人間扱いしてくれるね」

キヨロスがマリオンとマリーが別の人間と言うとマリオンは嬉しそうに人間扱いをすると言う。


「マリオンは人間だよ」

「ありがと。でもお陰で私が前はどんな話し方してたかとかわかんなくなっちゃったよ」


「成長したんだね」

「アンタは懲りずに魂無駄遣いするけどね」


「それが僕だよ。さあ寝よう」

「うん。また明日」


こうして2人は眠りについた。

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