第23話 ノース/ウエストガーデン05。
キヨロスがザンネの相手をしている間にマリオンがガクから何があったかを聞き出す。
和平交渉の場に現れた神の使いを名乗る女。
女の指示のままにノース王を殺してウエスト王を傷つけたザンネ。
孤立無援の中、ウエスト王の知識でアーイの「奇跡の首飾り」が発動して「瞬きの靴」を再現してウエスト城に瞬間移動できた事。
「奇跡の首飾り」の問題点。30日の昏睡でアーイが寝ている間にノースは兵士達に「龍の顎」を装備させて侵攻を開始した事、そしてイーストにも進軍を始めてここで会敵した事、ガクとアーイの目的がザンネを倒して戦争を終わらせる事だった。
「…わかった。会談は何日前?」
「40日前だ。だがそれが何になる?」
「それは後、場所は?」
「ノースの城、会議などを行う部屋だ」
「…そこまで行ければ…」
「んだよ、説明してくれって」
ガクもマリオンが勝手に納得していく事が気になってしまい食い下がるので「アイツが今からノースのその部屋に行ければ何とかなるの!アイツは全部うまくいかせる奴だからやる事が決まったよ」と説明をする。
「だからなんだって?」
「面倒くさいなぁ!アイツのアーティファクトは「時のタマゴ」で時間を…過去に跳ぶ事ができるの!40日前ならイーストの問題も解決してるから、知っている場所ならすぐにその場所にも行けるんだって」
「なら…キヨロスがノースの会議室に行ければこのジリ貧が何とかなるんだな?」
「うん。問題はアイツが付いてくると無事にたどり着けないって事だよ」
「わかった…。俺をおろせ」
「ガク?」
「俺がアイツを足止めするからお前達が城に行け」
「…うん。じゃあ40日前に会おうね」
「信じてる」
マリオンがガクを下ろしてキヨロスに作戦を伝える。
今のキヨロスは光の剣だけでザンネの相手をしている。
説明を聞いたキヨロスは抱きかかえるアーイに「アーイ!ノースの会議室に俺達を案内しろ!」と言った。
「何故そうなる!?」
「あー…そうなるか、アーイ!今はそうすればいい!俺を信じろ!幼い頃に戦争を止めたいと誓った思い出を信じてくれ!」
ガクは自分と同じアーイにいちから説明するのではなく自分自身を信じるように説明をした。
「ガク?」
「いいから、キヨロス!アーイを任せる!」
キヨロスは「了解」と言った後で「でも今のままだとガクは瞬殺されて意味ない気がすんだよな」と漏らす。
これにはマリオンが「でもここで魂を浪費したらダメだって」と注意をする。
ここで止めないと最終的にザンネの撃破も何もかもキヨロスがやってしまいそうな気がしていた。
「魂?何の話だ?」
「アイツのアーティファクトは全部魂を使うんだよ。今は私の魂を一緒に使ってるから何とかなってるけど本当はサウスの戦いで使い切っちゃってたんだ」
ガクはニヤリと笑うと「…成る程な。アーイの為に男を見せるチャンスだな」と言った。
マリオンが「は?」と聞き返すがガクはマリオンを無視して「キヨロス!その光の剣を全力で放てばザンネは倒せるな?」と聞く。キヨロスは「余裕だ。だがそんな出力にしたらマリオンに悪影響だ」と言う。
ガクはあのザンネを余裕で倒せると聞くと高揚した顔で「任せろ!俺のアーティファクトは「自己の犠牲」。能力は指定した人間が使うアーティファクトの問題点を俺が肩代わり…丸被りするんだ」と言った。
これを聞いたアーイは驚いて「ガク!?」と言うがガクはアーイを見て少し申し訳なさそうに「本当はアーイの昏睡を代わってやりたかったんだがウエストの事もあってな…」と言った。
マリオンが「いいの?」と聞くがガクは「構わねえ!マリオンの言う通りなら40日前の俺に戻れるんだろ?」と言った。
ここで先に心が決まっているキヨロスが「よし…一度剣をしまうからガク、頼むぞ?」と言う。ガクも問答よりは話が早い方が良い。
「おう!「自己の犠牲」【アーティファクト】!」と言うとガクとキヨロスの身体が光を放つ。
「よし!「革命の剣」全ての力で敵を切り裂け!【アーティファクト】!」
キヨロスの放った光の剣は見たことのない輝きでザンネに向かう。
ザンネはただの一度も迎撃する事は敵わずになます斬りにされて死んだ。
「へっ、本気出せりゃこんなもんだってんだ」
キヨロスの言葉を聞きながらガクは倒れ込む。
アーイがガクに駆け寄って抱き起こす。
「ガク!」
「…アーイ…。俺はもう死ぬ。わかる…。身体に力が入らない…何も残ってない…」
アーイはボロボロと涙を流して「そんな…死なないで!」と言うがガクは辛そうに微笑んで「大丈夫、また会える。キヨロスをノースの会議室に…連れて行けば全部うまく行く」と言った。
「でも…それでガクが死んだら…」
「その顔…、昔のままだ。キヨロス…行ってくれ。アーイに死に顔は見せたくない」
悲し気な顔のキヨロスが「わかった。ありがとうガク」と言ってお辞儀をする。
キヨロスの豹変にガクが「あ…?」と驚きを口にするとマリオンが「怖いのは戦いの時だけだよ」と言った。
ガクは「んだ…そりゃ…」と言いながら目を閉じて目が開かれる事は無かった。
「アーイさん、城までお願い」
「わかった」
キヨロスはアーイを抱えて城まで高速移動をする。脇目も振らずに会議室にたどり着いたキヨロスは「トキタマ!跳ぶのは40日前だ」と声をかける。
トキタマはキヨロスの肩にとまると「お父さん!何時にしますか?」と聞く。
「あ、それか。アーイさん、会談は何時?」
「10時に始まってすぐに戦闘になった」
「ならアーイさんとガクがここに来たのは?」
「私は10時10分前にここにくる。戦争をしているウエストの連中と顔を合わせたくなかったんだ」
「よし、僕は10時15分前にくる。神の使いを名乗る女との戦闘も考えられるから仲間と来る。人が多くても敵視しないで」
「…わかった」
キヨロスはそのままマリオンの顔を見ると「よし…、その前にマリオン。向こうに着いたら「誓いの証」を外してくれないかな?」と言った。
「…なんで?」
「もうイーストでもさっきの戦闘でも使ってしまったからマリオンの魂も残り少なくなってるよ」
「私は人形だからべつにいいんだって!また私を作って貰えればやり直せるって!」
「確証は無いよね?マリオンじゃなきゃ嫌だし、マリオンを犠牲に助かりたいなんて思わないんだ」
マリオンは目を三角にして「それなら私だって死んでくアンタを見たくないよ!」と怒る。
アーイは話について行けずに「2人とも何を話している?」と聞くとマリオンが「コイツのアーティファクトは全部S級。しかも問題点は全部コイツの魂をすり減らす。魂を力に発動する。そして時を跳ぶ「時のタマゴ」のせいでコイツはさっきのガクみたいに死ぬ事も出来ない」と言った。
「な…何を…」
「嘘じゃ無い。だから私はコイツの「時のタマゴ」が解脱をするように旅をしてる。解脱できるようにこの「誓いの証」で魂を共有してるの。そのおかげでまだコイツは死なないで済んでいる。今コイツは自分の魂が残り少ないからと私との共有をやめようとしてるの」
一通りの説明を受けたアーイは「それはキヨロスが悪い」と言った。
「アーイさん?なんで?」
「お前はガクを見送る私の気持ちを理解できるか?ガクはまた会えると言ったからまだ私は冷静だがマリオンはそうではない。マリオン、最後まで行きたいよな」
「うん。私はコイツに生きてて貰いたい。私の人間化はその先でいい」
「人間化?さっきも人形だと言っていたな」
「私は人形兵士。お爺ちゃんが生み出してくれた命だよ」
「…どう見ても少女にしか」
「お爺ちゃんが凄いからだよ。この話は今度でいいや。とりあえずさっさと跳んで戦争回避するよ」
話が有耶無耶になってしまったが戦争回避は重要なのでキヨロスも諦めて「…わかった。とりあえず跳ぶよ。アーイさん。跳んだ先では僕たちが急に現れるから驚かないでね。後は15分前にここに来てね」と言う。
アーイは「わかった」と言って頷いた。
「トキタマ!跳ぶのは40日前の10時15分前だ!」
「はいはーい」
キヨロスは時を跳んだ。
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