第20話 ノース/ウエストガーデン02。
ガクとアーイは5日かけてノースの城下町まで来ていた。通常10日の道のりを半分でこられたのはガクとアーイの身体能力や決意、覚悟なんかの賜物だったと思う。
目にうつる街並みはボロボロで陰気な気配が漂っていてこの戦争の影響を物語っていた。
「アーイ、突撃を仕掛けるか?」
「バカを言え、国境沿い…前線で見えた兵達が少なかった。きっと戦力を温存している」
アーイの見立てではノースの進軍が通常の半分だった事で残りの半分は城で温存していると読んでいた。
まずは情報を収集する為、隠れるように城下町を歩くアーイとガク。
2人は夜中に城に入り一気にザンネを倒す事にしていた。
路地裏で比較的人通りの少ない場所に隠れていると泣き腫らした少女に出会う。
「あの子は何故泣いている?」
ガクが不審がると我慢ならないアーイは前に出て少女に「何があった?」と聞いてしまう。
少女はアーイを言っていて「姫様?」と言った後で「悪いウエストに連れて行かれたのにいるの?」と聞いた。アーイは優しく微笑むと「私の事はいい、何故泣いている?」と聞き返した。
アーイの言葉に少女はまた泣き始める。
そして少し落ち着くと「お父さんが戦争で連れて行かれたの」と言った。
「徴兵されたのか!?」と言って驚くアーイの所に少女の母が現れてウエストに連れ攫われたアーイがいる事に目を丸くしながら家に通してくれた。
「何があった?」
「35日前…、ノース王が会談の場で殺されて亡骸諸共姫様もウエストにつれ攫われたとザンネ様が発表をなさいました。
カーイ様はお身体の調子が悪いと言う事で未だお姿を見ていません。
そして10日前、ザンネ様がウエストの戦争中だがイーストが進軍してくると情報を得たのでザンネ様自らが出立されると言う事で主人は徴兵されました」
「…ザンネは城に居ないのか?」
「はい。そして5日前に主人はイーストに向けて出立を…」
少女の母はそう言うと泣いてしまう。
家中に…町中に漂う陰気な空気の正体が見えた気がした。
ガクとアーイは目配せをして頷く。
「アーイ、どうする?この状況で城を押さえてしまうか?」
「いや、城を落としてもウエストとイーストに出した兵を戻されてはどうする事も出来ない…」
「なら追うか…」
「それしかあるまい」
このやり取りを訝しむ少女の母が心配そうに「姫様?」と声をかける。
アーイは悔しそうな申し訳なさそうな顔で「ノースは既に魔女の手で傀儡となっていた。父はそれを止めようとしてザンネに殺された。私は今からイーストに赴きザンネを討つ」と言う。
「そんな!?」
「何も聞かなかったことにしてせめて健やかに暮らしてくれ。さらばだ」
アーイとガクは最低限の食料を分けて貰うとイーストに向けて旅立った。
城が小さくなって来て夕陽が差し込んできた頃、ガクが一つの質問をした。
「なあアーイ。ノースは何がしたいんだ?ウエストの王族を根絶やしにすればノースのお妃様が生き返る与太話でノース王は戦争に踏み切った。だがイーストに攻め込んで何になる?」
「わからない。だがイーストは大破壊と呼ばれた事故で疲弊していると聞く。ザンネ…あの女の目的が世界征服ならば遂に動いたのかもな」
2日後には最後尾のキャンプに追いついたが兵達の顔は暗い。
列を離れて川で洗い物をする兵士を見つけて確保をしてみたが何を話しかけても要領を得ない。
「薬物中毒か?ノースは戦意高揚に何か薬物を使うのか?」
「まさか…そんな訳は…」
アーイは今まで何も知らなかった自分を恥ながら藁にもすがる思いでキャンプを見回ったがその全てで兵達の顔は暗く前後不覚の状態だった。
そのお陰と言うのは憎々しいが食料の調達は簡単に出来た。
それから1日、最前列が近付き、イーストとの国境が見えた所で異変が起きた。
既に何者かと兵達は戦闘状況になっていた。
怒号と金属音。そして火や氷、雷なんかのアーティファクトが発動した音がする。
「遅かった!?もう戦闘に?」
「だがこれならイーストも進軍をしてきたことになる。どうなってんだ?」
乱戦になれば関係ないとガクとアーイも列に飛び込んでザンネを探す。
「ザンネを討つ!そして兵達に戦いをやめさせる!」
「わかってる!イーストにも停戦を受け入れさせるぞ!」
だがまだザンネは見つからない。
恐らく先頭で戦っているのだろう。
ここで異常事態が発生した。
ノースの兵達はアーイを見てアーイだと気付いたのに抜刀をして切り掛かってきた。
口々に「剣姫…見つけた…殺す」と言っている。
アーイは真っ青になって「どうした!?私がわからないのか!?」と声をかけるが兵士は止まらない。
ガクは少女の父親が居る可能性も考えたが心を殺してアーイを狙う兵士を斬りながら「アーイ!薬物か精神支配のアーティファクトでも使われてるのかも知れん!多分ザンネの奴は前に居るだろう!向かってくる奴は最低限怪我だけさせて放置だ!」と声をかける。
ガクとアーイは剣を抜くと一気に駆け抜ける。
なだらかな丘の先で戦いが広がっているのだろう。
どんどん声が大きくなってくる。
だが聞こえる声は聞き馴染んだ戦闘の声ではない。
まるで猛獣の声。
そんな違和感の中、丘の上に立つと眼下には地獄が広がっていた。
「な…なんだこれは?」
「んだこれ…」
灰色の体毛で物語に出てくるような悪魔の姿をした何かが1人の少年と濃紺色の全身鎧の兵士に襲いかかっていた。
「イーストの兵よ!よくやるね!諦めて道を譲ることだ!」
そう言ったのはザンネで次々に兵士をけしかけている。
少年は「ちっ!ウゼェ!なんで国境抜けてすぐに戦闘なんだよチクショウ!」と声を荒げて剣を振るう。
少年の剣が当たると悪魔は霧散し、次の兵士が少年に斬りかかる。
少年は兵士の右手ばかりを狙い「ちっ!なんで「龍の顎」がこんなにあるんだよ!」と言っている。
「アーイ!チャンスだ!ザンネを討つぞ!」
ガクの言葉で我にかえったアーイは前に出た。
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