第22話 悪化する雲行き
それから報告の為、俺と守部は警視庁に戻り報告書制作に勤しんでいると、新たな問題は静かに俺たちの元に忍び寄り、姿を表す。
「ご苦労、今回もお手柄だったねぇ野神君」
刑事課に似つかわしく無い大きな声で話しかけて来たのは白髪まじりの男、組織犯罪対策部の責任者、
目上の人間の登場に、俺は挨拶をする為立ち上がろうとするが、浅井警視長に「大丈夫だ」といわれてしまい着席したまま警視長を見上げる。
組織犯罪対策部。
彼らは組織的な犯罪、つまりはテロや暴力団などの対応などを専門としている部隊だ。
ちなみに麻薬や銃器にまつわる事件も基本は奴らの受け持ちである為、正直様々な場所にも通じている厄介な存在でもある。
そんな奴らがここに来た理由はある程度想像がつく。
「ココまで少人数で大変だったろう。後は我々に任せてゆっくりしたまえ。
あぁ、とは言っても今回の爆弾事件にまつわる捜査状況の調書の提出はお忘れなく」
偉そうに俺達の手柄を横取りしようとするこの物いい、つまりは爆弾事件の管轄が組織犯罪対策部の受け持ちになったという事だ。
「ちょと待ってください!
我々はこの事件を直接現場で解決して来ました。
それを突然関わりのなかった部署が受け持つ何て!」
話を聞いていた守部はまるで納得してないのか、立ち上がり浅井警視長に強気で反論をすると、それを聞いた浅井警視長は眉を潜め、困った様にため息をついた。
「だから調書が必要なんだと言っただろう、それに私はご苦労様とも、ゆっくりしたまえとも、労いの言葉をかけ、君達を評価している。
刑事課には刑事課の、組織犯罪対策部には組織犯罪対策部のやるべき事があるはずだ。
こんな場所で我々に噛みつき、時間を浪費させてみろ、又国民に税金泥棒だと非難されるぞ」
いい過ぎでは有るが、最もな論破だ。
だからこそ守部はそこから返す言葉が見当たらなかったのか、悔しげに歯を噛みしめ大人しく又着席した。
ここは俺も一言質問してみるか。
「爆発物が液体爆弾だったからですか?」
「確かにそれも有るな、アレは個人で入手するのが困難な代物だ。
とにかく調書だけは頼んだよ」
浅井警視長はそういうと忙しげに刑事課から出て行き、爪痕を残された刑事課の空気は一気に陰鬱な雰囲気を漂わせて始めた。
無理もない、俺たち刑事課は、今後爆破事件には関与することが出来なくなったのだから。
「あー!納得いかねぇ!」
アレから数時間後、俺達は個室居酒屋で酒を飲み交わし、守部は不満を声に出して叫んでいる。
何故犬猿の中ともいえる俺たちが共にこんな場所にいるのか、正直俺もよく分からない。
「ちょっと、声を小さくしてください、個室の意味がないじゃないですか」
加奈には断りを入れてここに居るが、既に帰りたい気分だ。
「所で、私に聞きたいことが有るんですよね」
飲みに誘われた時、深刻な表情をしながらそんな事をいわれた事もありここに居るのだが、一向にそんな話題を出さない所か、守部は既に出来上がっている。
その為、目的を思い出させる為にもそんな質問を投げかけて見ると、守部は串焼きの串を突然俺に向けて来た。
「いやいや、コレも大事な話しの1つだぞ。
だってお前もそう思わないか?
組織犯罪対策部の奴、突然ぽっと出てきて俺達が散々頑張って集めた資料掻っ攫って、いい蜜だけ吸って逃げやがってよ。
そもそも、最初から出て来るならもっと早く出て来いって!
絶対、アイツら楽したい為に刑事課に投げてたんだよ」
「それは、偏見では……」
「しかも、今回駆けつけた応援の奴らの話しによると、現場に遅れた理由が、送られたマップが違っていたとか、事故の渋滞に巻き込まれたとか言いやがって、あいつら無能さには程々あきれてくるよな!」
こいつ、全く俺の話しを聞く気がないな。
「なぁ、この事件匂わねぇか?」
「匂う?」
「あぁ、どうもキナ臭いと言うか……キナ臭いと言えばお前もそうだな」
守部の愚痴は遂に俺に矛先が向き、又あの嫌味が始まるのかと思った時、守部から漂う空気が変わった。
どうやら、漸く本題に入る様だ。
兎に角、ここは相手の出方を探る為にもまずは軽く様子見をするべきだろう。
「お決まりのサイコパスですか?」
「しらばっくれるなよ、そもそも今回の事件はお前が逮捕したあの佐々木から始まっている。
そして、1度目の病院爆発事件で佐々木は行方を晦まし、爆弾魔と思わしき人物はグロテスクな姿で殺害されていた。
なあ、佐々木はお前にえらくご執心だったらしいな?」
「えぇ、本当にいい迷惑ですよ」
「そして、まるで分かっていたかの様にお前は遺体からUSBメモリーを取り出した」
「……つまり、爆弾魔江原を殺したのは私だと言いたいのですか?」
「そうだ、お前だろ!
って言えたら楽だったんだけどなぁ」
守部はそういうと、又ビールを一気に飲み干して呼び鈴を鳴らす。
何だか、俺の思っていた流れと違う。
「飲み過ぎですよ」
「良いんだよ、まだ理性があるんだから」
そういう時点でかなり危険なのだが、守部は入って来たウエートレスに酒の追加注文をした。
どうやら、守部は俺を疑っているわけではないらしい。
なら、いよいよここに呼ばれた理由が見当もつかなくなって来る。
「じゃぁ何ですか、キナ臭い私だから分かることがあると助言を求めているんですか?」
「そう結論を焦るなよ」
守部はそう答え、ウエートレスが注文したビールを追加しに来るまで待ち、受け取ると、漸く俺の方に向き直す。
「自分が狙われる心当たりはあるか?」
「心配してくれているんですか?」
「冷やかすな、他の事件もそうだが、江原の死亡推定時刻、お前は刑事課で俺と共に残業をしていた事が判明した。
つまり、お前にはアリバイがあるんだよ。
だが、最近の事件は全てお前を中心に起きている」
「そこから、私が誰かに恨まれ、この様な惨事を生み出してしまっているのではないかと思った訳ですね」
「そうだ」
成る程、疑う為には証拠をと思い、こそこそ集めていたら寧ろ俺の無実が証明された訳だ。
恨まれる心当たりか、加奈の時の男は最近すぎる為あり得ないだろう。
剪定した相手の関係者ならこのタイミングは出来過ぎている気がして予想すら出来ないな。
そもそもあんな大掛かりな事、普通の人が俺を恨んだ程度で出来るだろうか。
「狙われる心当たりなんて、警察をやってれば数え切れないぐらいありますよ」
「あのなぁ、コレは犯人発見の大事な糸口となる部分なんだよ、少しは協力する心を見せろこのサイコパス野郎!」
「私もかなり精神的に追い詰められているんです。
そんな事わかってますよ」
人のアイデンティティーを汚され、自分の行動を常に監視され、脅迫され続けて、正直俺も腹が立っている。
可能なら今すぐにでもそんな犯罪者、見つけ出して剪定したが、それが出来ない歯痒さをお前は理解出来ないだろう。
「そうだな……辛いのはお前の方だな」
守部はそういうと、少しバツの悪そうな表情をして酒から手を離した。
漸く自分の飲み過ぎにでも気付いたのか。
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