第21話 爆弾
避難は既に完了したらしく、外には人が溢れかえり、病院内に入ると既に医者が数名居る程度で人気は殆どなくなっていた。
前回の爆破予告と違い、今回は爆破までに時間の余裕があった為だろう。
行動の早かった守部に感謝だ。
病院の作りは2つのビルに分かれ、途中途中に連絡通路が存在し、俺が西を、守部が東を担当する事に決め、直ぐ二手に分かれる。
遅れて到着予定の爆弾処理班が後ほど1階からスムーズに調べれる様に配慮し、俺達は一気に最上階へと駆け上がった。
そして病室から、関係者以外立ち入り禁止の区域まで徹底的に調べて行く。
予告からして、今回爆発物のサイズはそれ程小さくないはずだが、それでもふたりでは間に合いそうな気が全くしない。
応援はまだ来ないのか。
焦る気持ちを必死に抑え、それいて急ぎながら、各部屋を調べていくと、突然仕事用の携帯が鳴り響いた。
液晶に映し出された名前は“守部”。
『まずいぞ!』
通話に出ると同時に守部の切羽詰った声が聞こえてくる。
「どうしたんですか?」
『お前の相棒だよ! アイツだけ、何故かまだこの病室で眠っていた!』
「はい?」
『しかも手足が拘束具で固定されていて、ベッド事態もガッツリ地面に鎖で固定されているんだ!』
「ちょっと待って下さい。
我々が駆けつけた時は、既に病院の関係者の大半が外に避難していましたよね?
患者を残したままなんて……」
『だが実際にはそんな事態が起きてる。
それに、更にまずい事に1つ目の爆弾もここで発見された』
「それは良かったじゃないですか」
『お前の相棒の体に固定された状態だがな』
「……」
ご丁寧に俺の相方をピンポイントで狙う辺り、どうやら俺は随分とその爆弾魔に嫌われている様だな。
何だ、俺に大切な誰かでも剪定されたか。
「取り敢えず爆弾処理班が到着次第、解除を彼らにお任せしましょう。
到着まで立花をお願いします、私は引き続き捜索を続けますので」
『それにしても、応援が遅すぎないか?』
やはり守部もそう思っていたか。
「渋滞に引っかかっているんですかね」
『何を流暢に構えているんだ、それで間に合わなかったらどうするんだよ!』
「目の前にいるのは貴方です。
そう思うなら、自分でどうにかして下さいよ」
そう答え、俺は強制的に通話を切った。
こちらはまだ、もう1つの爆弾を探さなければならないのだ、そんな奴に構っている余裕はない。
それに、多分応援が遅れているのも爆弾魔の策略が関係している可能性が高い。
つまり、ここは俺達ふたりで何とかしなければならないという事になる。
考えろ、爆弾魔が爆弾を設置する可能性のある場所。
犯人は俺に挑戦状を送りつけてきた。
俺の裏の顔を何処からか知り、それを俺にわかる様に伝える事で、自分の存在を警戒させる。
そして、1つ目の爆発物は立花の体に接触された状態で発見された事から、多分2つ目の爆発物も俺に何かしらのダメージを与える場所に設置しているはずだ。
この病院で、俺がされて困る事か。
いや、まてよ、俺個人ではなく俺が警察としての立場なら、あの状況は困る。
警察は一般人が爆破に巻き込まれる事を一番に避ける為、今回のように非難勧告を発令した。
つまり一般人を救えなかった場合、俺の出世の道は確実に遠退くという事だ。
正直病院が現段階で爆破されたところで死ぬのは守部と立花と言うふたりの警察官のみ。
コレは、最悪どうとでもいい訳が出来る。
だが、一般人から死人や重傷者が出れば、警察はマスコミや様々な方面から非難を一途に受ける事になるだろう。
俺もこうなれば世間体を気にして、最悪クビもあり得る。
それに考えてみろ、病院内で大量殺人をする場合、様々な場所に大量の爆弾を設置する必要となるが、ターゲットが一点に集まれば、少量の爆弾で大きな被害を生み出せるじゃないか。
つまりこの状況を爆弾魔が予測していたとした場合、狙う可能性がある場所は現在皆が避難している病院の駐車場。
駐車場か……佐々木の時と重なるな。
そう結論にたどり着いた時、何処からか突然銃声が鳴り響いた。
多分、守部が立花をその場から逃がすため銃を使ったのだろう。
本当に責任感の強い男だ。
俺も早速1階へと駆け下りると、急いで皆が非難する駐車場へと向かった。
目的の場所に辿り着くと、一般人とは違う雰囲気で動き回る俺に気づいた数名に目をつけられ、
避難させられた不安からだろうが、今はそんな奴に相手をする余裕はない。
一頻り全てを受け流すと、直ぐに可能性のある場所を次々と探し始めた。
停車している車から駐車場にある植え込みに至るまで、不審な物はないか可能な限り隅々まで確認していく。
車内の確認は声を張り上げると、大抵その周囲や車内に持ち主がいた為、ある程度事情を説明すれば中を快く見せてくれた。
植え込みにも、空き缶や、食べ終わったコンビニ弁当が入ったゴミ袋などはあれど、他に気になる物はない。
それからどれだけそんな事に時間を費やしていた事だろうか、ふと時計を見ると、爆破予告まで既に30分を切っている事に気づいた。
「くっそ、何故コレだけ探しても何も見つけられないんだ!」
焦りが徐々に怒りへと変わり、何度も理性が飛びそうになり、それを何度も自分の中で言い聞かせ、必死に抑える。
見つけ出したら絶対に剪定してやる。
そんな決意を胸に秘めた時、漸くサイレンの音が聞こえ、待ちに待った応援が駐車場へと進入して来た。
直ぐにその応援の元へ向かうと事態を説明し、爆弾処理班は守部に連絡を取り、そちらへと出動する。
他の応援も、病室の内と外に分かれて捜索を開始した。
こうなればいよいよ、後は時間との問題になる。
そう思った時、いいようのない不安が全身を包み込み、まるで背筋に大量の虫が這う感覚に襲われた。
違う、爆弾魔は俺に標的を絞っているんだ。
応援が見つけられる様な場所に、隠すはずがない。
良く考え直してみろ。
前回の爆弾騒ぎでは、爆発物は佐々木を護送する車に直接設置されていた。
そこから今回我々が車を警戒する可能性も見越していたっておかしくない。
もしや自爆テロか。
木を隠すなら森とはよくいった物だが、避難した人間の中溶け込んでいるとすれば、コレは骨が折れる。
まずいな、何故この可能性を最初に考えなかった。
「あれ、あんたそのぬいぐるみ何?」
そんな中、ふと耳に入った気になる単語に、自然と足が止まり、その声の方に視線が動く。
母と幼い子供との何とない会話の様で、その子供はくまのぬいぐるみを大事そうに抱えていた。
「うんとね、もらったの」
「貰った? 誰に?」
「うーん、なんか優しそうなお医者さんだったよ」
妙だ、医者が普通こんな状況で子供にぬいぐるみなど渡すだろうか。
「失礼、そのぬいぐるみ、少しお兄ちゃんに貸してくれないかな?」
色々考えるよりも早く体が動くと、母親は我が子を庇う様に少し前に出た為、直ぐに警察手帳を取り出し中身を見せる。
すると母親は顔を真っ青にして子供からぬいぐるみを奪い取ると、直ぐに俺に手渡して来た。
子供はぬいぐるみを奪われた事で泣き始めたが、俺はそれを無視して直ぐにその場を離れる。
それにしてもこのぬいぐるみ、綿ではないズッシリとした重みが確かにある。
中に何か入っているのは確実だろう。
騒ぎが拡大する恐れを危惧して、俺は人目のない建物の裏へと回ると、ぬいぐるみの腹の部分を慎重にナイフで切り裂く。
「……」
あの子にはもう返すことが出来なくなったが、おかげで待ちに待った時限爆弾とご対面だ。
四角い形状の箱の外には安物の時計が設置され、中には小さな瓶に二つの液体が2層に分かれて入れられている。
液体爆弾だ。
そして、それと一緒に、又もう1つのUSBメモリーが姿を現した。
ただでさえ随分と危険な爆弾の登場に冷や汗をかいているのに、懲りずに次の予告でも出そうというのか。
そんな不安から手に取ると、そこには《一人で見てね》というメッセージがご丁寧に刻まれている事に気づき、急いでポケットの中に押し込んだ。
爆破すれば職を失い、他の人が発見すれば先の人生を失う爆発物とは、犯人は本当に良い性格をしている。
一先ず仕事用の携帯で応援に連絡をすると、爆弾処理班が直ぐに駆けつけ、俺は役目を終えてその場から離れた。
残り10分、ギリギリではあったが、何とか最悪を免れた。
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