第20話 中身と関係性
「おいおいおいおい、待て待て、お前は何を考えている、馬鹿じゃないのか?!」
流石の守部もコレにはかなり焦りを見せていたが、俺は気にせず更に奥へ手を伸ばした。
体温を失った遺体の奥は冷え切り、グニグニとした感触がゴム手袋の薄皮を挟んでダイレクトに伝わりはじめる。
臓物が固まり始めた血液の接着効果で張り付き、俺が奥に手を伸ばすと皮もろとも剥がれ初めて、そこからどろりとした血液がゆっくりと溢れ出す。
そんな作業を淡々と進める俺とは裏腹に、守部は眉を潜め、苦虫を噛み潰したかのような表情をしていた。
少しして、何か人体にはない硬い感触に触れる。
見つけた。
早速掴んで引き出すと、それはビニールに入れられ何かのようだ。
どうやら、俺の読み通りの結果だったわけだな。
「……まじかよ」
守部もさすがに遺体の中にそんな物が入っていたとは思わなかったのか、激しく混乱している様子が見える。
早速袋を開けて中を確認た時、俺は咄嗟に手を止めてしまった。
「何が入っていたんだ?」
守部は俺に問いかけ、袋の中を覗き込む。
「USBメモリか」
現段階では何かそこに入っているか、全く想像できないUSBメモリ。
もしコレに俺の事が密告されていた場合は確実に人生が終わる。
だが、ここで下手に動揺して、中身がもし全く違う場合、こちらからボロを出す様な物だ。
「なあ……普通そこは鑑識が仏を解剖して初めて分かる部分だろ、何故そこにそんな物があると分かった」
守部はそんな俺の感情をよそに、質問して来る。
確かにあれを見れば不審に思うのも無理はない。
落ち着かせる為にも手袋を外し、新しい手袋に付け替える。
さて、ここをどうやって切り抜ける。
「……この遺体は、明らかに異常です。
まるで守部警部補の大好きなサイコパスの犯行の様に。
では、犯人がそんな狂った人間だと想定したら、遺体の姿に意味が隠され、我々を嘲笑う様に何かを隠している可能性あるのではないかと思ったのですよ。
つまり、守部警部補が常日頃私をサイコパス呼ばわりしていたおかげでこの考えにたどり着いたんです」
「嫌味か」
「感謝してるんです」
「まあ、もうどうでもいい……パソコンは車の中だったな、取ってくる」
守部はそういうと大人しくその場を離れて行った。
今の所、疑われている気配はない。
だが少しすると、守部はノートパソコンを片手に外で合流した鑑識と共に入って来た。
最悪だ、守部以外の奴にも見られる可能性があるのか。
流石にコレだけは回避する必要がある。
「鑑識の邪魔になりそうですので、我々は外で見ましょうか」
「ん、あぁ、そうだな」
守部は少し疑問に思う表情を見せたが、素直に従い部屋の外へと出た。
そして、出入り口が少し離れた場所でパソコンを開き、USBを差し込む。
すると、中には動画フォルダが1つだけ入っていた。
もしここに俺の事が記されていた場合は、守部を殺す。
そう密かに決意し、俺はカーソルをその動画に合わせてクリックすると、遂に映像は再生され、守部も共に画面を覗き込んだ。
時間は3分程度の映像で、そこには真っ黒なパーカーに身を包み、ピエロの仮面を被った謎の人物がひとり写っている。
背景は何処かの廃墟だろうか、コンクリートが所々掛けており、全体的に薄暗い。
なんだコレは、思っていたのと違う。
『この映像を見つけた人には、おめでとうと言うべきか、残念だと言うべきか定かではないが、取り敢えず間に合った事を前提に話を進めよう』
話し始めた人物の音声は、機械音声に編集されていたため低く籠もって聞こえる。
人物を特定させない為の配慮だろう。
だが、良かった。
コレは俺宛の動画ではなく、全体に向けての内容の様だ。
犯人も随分とややこしい事をしてくれる。
『8月24日、昼の12時ジャスト、病院を1つ爆破する』
「は?」
映像に守部が反応し、画面にかぶり付く。
成る程、そうきたか。
これは間違いなく爆破予告だ。
1回目の爆破で佐々木が逃亡し、この爆弾は佐々木逃亡の為の物だと俺を含め大抵の人がそう思っていた。
だが今回、犯人らしき人物の遺体から出てきたのは2回目の爆破予告。
時計を見ると、午前10時、ちょうど2時間後だ。
成る程、このタイミングで俺が今見つけなければ最悪な結末を迎えてた事になるように仕組まれていたと考えれば、あの状況にも納得だ。
そして、映像の人物は引き続き喋り続ける。
『病院の場所は死に損ないの女警察官が入院している場所、とでも言っておこうか。
爆弾は2箇所に隠してある。
さて、ゲームだ刑事さん、2つとも見つかると良いね』
動画はそこで終わった。
犯人は完全に俺達で、いや、俺で遊んでいる。
「上等じゃねぇか」
そう呟くと、USBを抜き取り、俺は直ぐに近くの鑑識に渡した。
「これを本部に、そして今から指定する場所に至急爆弾処理班と応援を、病院には至急避難勧告を」
「病院なら今俺が電話した」
俺の言葉に、守部が重ねて報告する。
先回りの行動か、コレは手間が省けた。
兎に角、報告が終われば直ぐに行動だ。
急いで車の運転席に乗り込み、エンジンを掛けると、守部は急ぎ足で駆け寄って来る。
「守部警部補、死ぬ覚悟があるなら車に乗ってください」
「……お前が言うとシャレになんねーよ」
守部はそう反論しつつも、直ぐに助手席に座った。
それを確認して直ぐに、アクセルをベタ踏みしたままサイドブレーキを下ろし、車を急発進させ道路に出る。
守部は慌てた様にサイレンを鳴らし、俺は他車の間を一気に掻い潜って行った。
「おー、こりゃ又暴走車だな」
守部は冷静に答えながらも冷や汗をかきながら、必死に車にしがみついていた。
「現場に着いたら2手に分かれましょう、私には付いて来ないで下さいね」
「馬鹿か、俺もそこは状況に合わせて動くさ、ココは2手に分かれるべきだろ」
まぁ、何となく守部ならそう答えると思っていた。
最初こいつは俺を徹底的に邪魔する存在ではないかと危惧していたが、警察としての意識はしっかり持ち、仕事の流れには意外と私情を挟まないようにしている。
とはいえ、今日はあまりにも大人しすぎる気がするがな。
それから30分程度で目的の病院にたどり着くと、俺達はそのまま病院の中に向かった。
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