第16話 コンビ変更
その後捜査一課に戻った俺に待ち受けていたのは、対策本部での緊急会議だった。
どうやら今回の爆弾事件で、それに関する対策本部が設置されたらしい。
そんな慌ただしく動く警視庁の中、織田課長は俺に気づき、いそいそと近づいて来る。
「野神か、よく帰って来たな。
佐々木や立花の件は他から大まかに聞いているが、それを緊急会議で詳しく話してくれ」
「了解です」
いわれるまま会議室へと足を踏み入れると、そこは異様に広い対策本部の中、捜査一課に所属する半数以上の係が集められ、整然と並べられた長いテーブルとパイプ椅子に皆が次々と座り始めていた。
直ぐに、俺もその流れに合わせて席につく。
途端に周囲から向けられるのは、突き刺すような視線。
多分俺が現場にいた刑事という事もあり、様々な方面から注目されているのだろう。
全くもって、不愉快だ。
佐々木を逃がし、相方である立花を病院送りにした事による失態が、ここに来て響いて来る。
「資料は行き渡ったか?
では只今より、佐々木捜索及び爆弾事件の緊急会議を始める」
対策本部で今回会議の指揮を任された、
一之瀬理事官、又随分と面倒な男が指揮を任されたものだ。
性格は嫌味で鼻が無駄にでかく、かつらが頭部に合わずに浮いて見える50代男。
年ばかり無駄に食って、脳内をガチガチに固めた、大人の中のクズ、それが俺の知る一ノ瀬の姿だった。
とはいえ、今そんな事はどうでも良い。
「まず最初に今回の爆破事件の予告だが、それは直接我々に来たものではなく、ネットの無料動画投稿サイトで上げられたものをサイバー犯罪対策課が発見した事から始まる」
成る程、イタズラとして処理される可能性もあるような場所での予告か。
警察はある程度裏取りが出来なければ行動出来ない。
その為、今回の爆発物に関しても発見出来ず、避難がギリギリになってしまった。
つまり、警察の穴をついてきた訳だ。
そして、そこから先は俺が実際に体験した事が大まかに纏められ、佐々木が行方をくらまし、立花が病院に搬送されたところで話は終わる。
「次に野神警部、その時現場で佐々木容疑者の取調べをしていたようだが、事件の詳細を報告してくれ」
「はい」
はっきりと答えて立ち上がると、皆の視線が一斉に向けられる。
先ほどよりも熱く、思い重圧。
だが、こちらも引くつもりはない。
「現在佐々木容疑者を担当している、野神です。
皆さんもご存知の様に事件当時、私は佐々木の取り調べを行う為に立花警部補と共に病院に居ました。
ですが、突如爆破予告の話が来て、取調べは中断。
私は佐々木容疑者を立花警部補に任せ、爆弾予告犯を探す為、病院を駆け回りました」
「つまりは、殺人鬼である佐々木の監視を女性警察官ひとりに任せたと?」
「はい、彼女は優秀な刑事です。
今でも私の判断に間違いはないと自負しております」
そう答えると、一之瀬理事官の声が、途端に鋭さを増した。
「何を根拠にいってるんだ、相手はあの惨状を生み出した極悪犯だぞ、女如きが務まるわけもない」
クズだとは自覚していたが、まさかの男女差別か、何処まで自分を落とせば気が済むのだろうか。
「確かに佐々木容疑者が、一之瀬理事官の想像している通りの人物だった場合、立花警部補ひとりで任せるのは危険でしょう。
ですが、今回佐々木容疑者は爆破に巻き込まれるまでの間、一切無抵抗のまま立花警部補と共にしています。
つまり、今回そこについて掘り下げる必要はありませを」
はっきりとそう答えた時、周囲から「言うねぇ」という言葉が聞こえる。
ソレにより、一之瀬理事官は怒りに震え始めたが、その時織田課長が一言「続けなさい」と口を開いた瞬間、周囲は静まり返り空気が変わった。
一之瀬理事官も言葉を飲み込み、悔しげにその怒りを押し込めているのが表情からわかる。
自業自得だ。
「では続けます。
立花警部補に佐々木容疑者を任せ、爆弾予告犯を追っていた私ですが、コレにより爆弾予告犯らしき人物を目撃、接触する事に成功しました」
その言葉に、又周囲は一気にざわついた。
いい調子だ、流れはこっちに有る。
俺は又話し続ける。
「その人物は、私に病院内で刃物を振り回した後に人ごみに紛れて逃亡。
建物自体が爆破されたわけではありませんので、これによって病院に設置された防犯カメラから姿を特定できるでしょう。
それに、万が一この人物が爆弾予告犯でなかった場合でも、事件と深く係わり合いがある人物の可能性は高く、重要参考人として捜索する必要はあると思われます。
報告は以上です」
報告を終わると、その場は静まり返り、不自然な沈黙が生まれた。
一之瀬理事官はその静寂に我に帰り、咳払いをすると言葉を続ける。
「成る程、確かにソレに関しては野神警部のお手柄だな。
それに佐々木の件も、立花警部補が爆弾に巻き込まれた時に行方をくらましたとなれば、野神警部がそこに居ても結果は同じだった可能性が高いか。
ご苦労だった……続いて今回の事件で現場を取り仕切っていた11係」
一之瀬理事官は、ちらちらと織田課長の顔色を確認しつつ、話しを進めている。
先ほど織田課長が発した一言で警戒しているのだろうか。
一時はどうなるかと思ったが、何とかマトモに話が進みそうだ。
それにしても、今回現場を取り仕切っていたのがまさかのあの守部警部補の居る11係だったとは、俺の悪運はまだ尽きそうにないと見える。
「えぇ……以上の事から今回の爆破事件と佐々木の失踪は同時に捜査を進めていく必要となった。
佐々木捜索は11係、病院爆破事件に関しては10係が主な指揮を担い進めて欲しい。
他も手が開けば接触的にこの2つの係りに協力するように。
あと、野神警部と守部警部補はココに残れ、解散」
まて、今俺の名前があったよな。
突然の居残り指名に言葉を失う。
何故俺は呼ばれた。
一之瀬理事官の言葉に皆が立ち上がり、いそいそとその場を離れていく中、俺と守部だけがその世界から切り離されたかのように立ち止まる。
現場に居合わせた事から俺が呼び出されるのは理解できる。
何故、守部警部補が居るんだ。
不安な心情を持ちながら織田課長と一之瀬理事官の元に近づく。
すると、織田課長のほうが今度は口を開いた。
「今回の捜査は君達ふたりでコンビを組んで行動してほしい」
そうきたか。
まさかココに来てこんな奴とコンビを組まされるとは、最悪だ。
「コンビって、俺がこのサイコパスと一緒に行動を共にするって事ですか?!」
守部は不満を声に出して訴えながら、織田課長に詰め寄る。
俺も、今回の彼の意見には賛成だ。
だが織田課長は退かなかった。
「立花警部補は病院で治療中の為、野神警部補はしばらくパートナーが不在となる。
そして今回10係と11係は違う捜査をしているようで繋がっている事は先ほどの話からも理解しただろう」
「だからって11係の中でも何故俺が選ばれたんですか?」
食い下がる守部警部補に、織田課長は彼の肩にそっと触れた。
「牽制し合うな、協力しろって事だよ」
課長はそういうと、俺達に微笑みかけ一之瀬理事官と共に会議室を出て行く。
つまり、お節介が生んだ状況というわけか。
コレはうまくいく気が全くしない。
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