第14話 横槍
扉を開けると、佐々木と目が合いその眼光は見る見るうちに大きくなった。
「野神警部、来てくれたんだ」
無表情でありながらも、何処となく俺の訪れに喜んでいるかのような声質。
先ほどの資料を思い出し、若干の寒気がした俺は視線を逸らし、そのまま開いているパイプ椅子に腰掛けた。
「……俺が来た事に喜ぶな」
「喜んでる?」
「まぁ、そんな事は正直どうでもいい。
佐々木、お前は殺人に関して全くの無感情であると証言したが、それは刑法第39条を知っての演技ではないだろうな」
「刑法第39条?」
「心神喪失者の行為は、罰しない。という内容だ」
「へぇ」
佐々木は全く興味がないといわんばかりに、俺に適当な相槌を打ってきた。
正直、こいつのこのマイペースさにも慣れてきたな。
一先ず、ここは少し殺人鬼らしい言葉を使ってみるか。
「あぁ、分かったよ。
警察としての建前的な取調べはどうやらお前には合わないらしいな。
ではココからは俺の言葉で話そう。
正直俺はお前が39条を知っていようが、知ってなかろうが関係ない。
俺はな、お前の事が大嫌いなんだよ。
反吐が出る程にね」
「何で?」
「それだよ、その
まるで、自分は関係ないとでも思っているようで腹が立つ。
だから、お前が無罪となり、その身が万が一にでも釈放された場合は、俺がお前を殺す。
殺してやる。」
建前と本音が入り混じった殺害予告。
コレには流石の佐々木も、何かしらの抵抗を見せるだろう。
「本当に?」
俺の言葉に反応を見せた佐々木は、目を丸くして問いかけて来た。
だが、そこから恐怖や絶望などの不の感情は感じ取れない。
「俺が嘘をついているように見えるか?」
「いや、僕は野神さんを信じるよ。
だって野神さんは僕と一緒で、とっても悲しい目をしてる人だから」
「悲しい……目?」
どういうことだ。
俺は別に何にも絶望してない。
佐々木、一体コイツには周りがどの様に見えているのだろうか。
だが今仕事中だ。
「……2年前、お前は精神科から逃亡した。コレに関して少し聞きたい事がある」
気を取り直して質問をすると、佐々木は少し退屈そうに椅子に深々と座りなおし、視線を落とした。
「逃亡したのは自分の意思ではなく、誰か別の第3者によって引き起こされた事件だったんじゃないのか」
「……」
「まさか、ココで黙秘か?」
「……違うよ、だってこの言葉には野神さんの心がない」
コイツ、いちいち細かい奴だな。
一先ず、先日監視カメラから映像を一部印刷した紙を佐々木の前にあるテーブルに並べる。
「……お前に手錠の鍵を渡した、この映像の男は誰だ」
そういって、パーカーを深々と被った人物を指差す。
「男?どれ?」
「お前は俺の指が見えないのか」
「……知ってどうするの?」
「殺す」
コレがお前の望みの回答だろう。
そう思い、迷わずそう答えた時だった。
突如背後の扉が大きく開かれ、立花が慌てた様に俺達の部屋に飛び込んで来た。
ノックもせず、呼吸は乱れ、そこからただ事ではないのは直ぐに理解できる。
何だ、何が起きた。
「どうした?」
「野神警部、一大事です!
何者かが、この建物に爆弾を設置したと言う知らせが入りました。
しかも、どうやら佐々木容疑者がココに収容されている事を知っての犯行のようです!」
「何?」
咄嗟に佐々木を見るが、佐々木は興味なさそうに手遊びをしている。
どういう事だ、何故ココが狙われた。
佐々木がココに収容されている事は、マスコミも知らないはずの機密事項だったはず。
一体何処から情報が漏れた。
視線は自然と資料に並べられたパーカーの人物へと向けられる。
もしや、この第三者が佐々木を救い出すために動いたのか。
「一般人の避難は?」
「既に行ってます、野神警部も佐々木容疑者と共に避難を!」
「いや、コイツの避難は立花、お前に任せた。俺は犯人を探す」
「待ってください、そもそも近くに居るかどうかも分からない相手ですよ!」
「いや、必ず近くに居る」
立花にそう答え、俺はすぐにその場を離れた。
予告犯という人間は、基本自分の用意した仕掛けが、問題なく作動したかどうかを確認したがる傾向にある。
後はその予告犯が佐々木をどうしたいかで、流れが大きく変わってくる。
佐々木を脱獄させる為ではなく、佐々木を殺すためだった場合はかなり危険だ。
最悪病院丸ごと爆破なんて事も、タガが外れた人ならあり得るだろう。
佐々木は平然と人間を殺せる分、大勢の人間に恨まれている。
万が一殺されてしまえば、何の情報も手に入らない。
散々俺にストレスを与えてきたんだ、こんな所で簡単に死なせる気はない。
「横槍は許さねーぞ」
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