第13話 実験

翌日、病院に確認を取ると、今日は朝霧が出勤している事が分かり、早速立花と共に病院へと向かった。


着くと、病院の玄関前に見覚えのある白衣の女性が居り、俺達に気づくと笑顔で手を振って来た。


朝霧の奴、多忙なのか、暇人なのか、良く分からない待ち構え方だな。


「待っていたわよ」


「……言わずとも分かります」


「とにかく、佐々木について分かった事があるからついて来て」


そんな言葉に、咄嗟に立花と顔を見合わせる。


何だろうか。


一先ず、俺達はそんな朝霧の後ろをついて行く事にした。


研究室に着くと、朝霧からファイルを受け取り、一先ずそれに目を通す。


佐々木の診察リストだ。


体重、身長、視力、血圧など良くある身体検査に加え、レントゲンによる様々な箇所のスキャン。


俺は医者ではない為詳しい部分は理解出来ないが、素人目からすれば、これといって気になる箇所はないように思える。


「コレが何か?」


「見てもらいたいのは身体検査の結果ではなく、その先のページにある資料よ。

実はちょっとした実験をしたのだけれど、その時の脳波で面白い事が分かってね」


一先ずいわれたままにページを捲り、脳波の変化を数値やグラフ化したものに目を向ける。


多少の波はあるものの、例とした並べられた一般人の脳波と比べれはそのふり幅は小さい。


「佐々木の脳波は単調ですね」


「コレ、佐々木に様々な刺激を与えながら記録した脳波なのよ」


「その刺激とは?」


「卑猥な動画や、グロテスクな動画を見せたり、世間話をしたり、直接小さな電磁波を流したり、可能な範囲で出来る事はある程度したと思うわ」


「つまりは、痛みを感じない?」


「確かに先天性無痛無汗症せんていせいむつうむかんしょうの可能性もこの実験で浮上した為、それに関する実験も行ったのだけど、どうやら痛覚は有るらしいのよね。

でも、反応は一般人より極端に薄いのよ」


朝霧はそういいながら、俺の見ていたファイルのページを捲ると、そこには先程の脳波と打って変わって激しく数値とグラフの形が変動している脳波の記録が記されていた。


「これは別の患者ですか?」


「いえ、佐々木よ」


「……えっと、先ほどの話から突然こんなに変化するなんてありえるんですか?」


さっきとあまりにも違いすぎる。


大抵の実験では全く無反応だったはずの佐々木は、何を見せればココまで反応するんだ。


「ちなみに、その時見せたのは野神警部の写真なんだけどね」


「……」


聞かなきゃ良かった。


背筋に感じる寒気に言葉を失うと、近くで立花が小さく吹き出す。


「野神警部、これ絶対好かれてますよ、リスペクトですよ」


「野郎に好かれても、全く嬉しくない」


一体全体、何故俺はココまで佐々木に振り回されなければならないのだ。


全く以て不愉快極まりない結果だ。


「所で、おふたりにも私に用事があったのでは?」


朝霧に質問され、ふと要件を思い出す。


ココに来た根本の目的を忘れる所だった。


早速自分の作った資料を取り出して、朝霧に提出すると彼女はそれを読み、俺の顔を見て、又資料を見て、再度俺を見た。


「アンタだとやり兼ねない殺し方よね」


「あ、それ私も思いました」


「それ、褒めてるんですか、貶してるんですか?」


「褒めてるのよ。殺しの才能があるんじゃないかしら」


立花も含め、コイツらは一体何を俺に求めているんだ。


「だからって殺したら、今ココに居ませんよ」


「それもそうね、後はこの犯罪者に野神警部がどれだけなりきれるかが問題なのだけど。

実験ついでに再度面会してみてくれるかしら?」


つまりは、俺も含めての実験という訳だ。


成る程、朝霧は俺まで実験の材料として見ていたのか。


「わかりましたよ」


こうして俺は、前回入った場所と全く同じ部屋を案内され、立花と朝霧は隣のマジックミラー側の部屋へと入っていく。

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