第11話 第三者
全く、都内の交通量は異常だ。
あまり遠くない距離であるはずの現場が、サイレンを鳴らさないと倍以上の時間がかかる。
ひとまず現場へと近づくと、そこはまだ黄色いビニールテープで保護されており、閉鎖されていた。
だが、どうやらある程度の鑑識も終わり、既に撤収作業が始まっているようだ。
「今ココに来ても何もないと思いますけど」
そんな状況に、立花も不安げな面持ちで俺に問いかけてくる。
「そっちには要はないよ」
俺はそんな立花をよそに当たりを見渡し、電柱や蛍光灯、ビルに注目していく。
何処かに必ずあるはずだ。
すると、近くのコンビニで鋭いレンズがこちらを凝視している事に気づいた。
あった。
「立花、あのコンビニに行くぞ」
「コンビニですか? ……あ」
どうやら立花も俺の意図が読み取れたのか、直ぐに表情は真剣なものへと変わる。
早速中に入るとタイミング良く客は居らず、そのままレジへと向かった。
レジには無気力な男性店員がおり、早速その男に警察手帳を取り出して中身を見せる。
「お仕事中すみません、4日前、この近くで大量殺人が起きた事はご存知ですよね?」
「あ、はあ」
男は仕事のマニュアルに書かれていない状況が起き、困惑しているのか、曖昧な答え方をした。
まぁ大抵の人は、そんな簡単に切り替えられないだろう。
「現在その事件の調査を行なってまして、良ければ外にある監視カメラのデータを見せていただいてもよろしいでしょうか?」
そういうと、その店員は困惑しつつも奥の事務所に俺たちを招き入れ、そこにある監視カメラの逆再生を説明書片手に始めてくれた。
店員が不慣れな為か若干時間がかかりそうだが、見れればそれで問題ない。
ひとまず、佐々木が無差別殺人を始める少し前の時間迄巻き戻してもらい、そこから再生する。
映し出された最初の映像は、何ら変わりない日常の風景。
そこに、人々は思い思いの時を過ごしていた。
そして事件発生の直前、遂にその場に佐々木が姿を現す。
「止めてください」
そう指示をし、佐々木の部分を拡大していくと、両手の部分が不自然に繋がっている事に気づく。
立花も違和感を覚えたのか、画面に顔を近づけると「手錠……ですかね」とつぶやいた。
残念ながら画質が荒く断定は出来ない。
だが、確かにこの形状は手錠の可能性が高いだろうな。
いや、そうだとすれば、何故佐々木は手錠をつけている。
そんな疑問を胸に再生を始めると、佐々木が何かを拾うと手元でいじり始め、その後手首が離れた。
拾った物は、手錠の鍵か。
「すみません、さっきの部分を、もう1度」
再度巻き戻し鍵の出現タイミングに注目する。
すると、ギャング風のストリートアートがプリントされた黒いパーカーのフードをかぶっていた人物が、何かを落とす瞬間が記録されていた。
ただそのパーカーは大きく体系すらも全く判断がつかない。
拡大しても、ご丁寧にマスクまでつけて、口元も見えなくされていた。
だが今はそれだけでも充分だ。
これでわかった、第三者は実在する。
「今回の映像ですが、データをお借りしてもよろしいですか?」
「あ、はい……どうぞ」
店員は我々に促されるがままに、映像データをUSBへと移動し、俺はソレを証拠品と書かれた袋の中に入れる。
「ご協力感謝いたします」
最後にこちらに映像を提供した事を記す同意書にサインして貰い立ち去ると、店員は呆然と立ち尽くし、最後に我に返ったように「ありがとうございました」と若干間違った挨拶をしながらも見送ってくれた。
その後俺たちは周囲に見落としがないか軽く歩き回り、その後車へと乗り込むと、先ほどのUSBの入った袋を掴んで眺める。
今回の事件、一筋縄ではいかなそうだ。
そう思っていると、運転をしていた立花が口を開いた。
「フードを被った人物、彼は一体何者なのでしょうか」
「顔や体系も全く分からない相手を追うのは困難を極めるが、こちらには佐々木が居る。
さて、徐々にやらなくてはならない事が明確になってきたぞ。
さっそく署に戻り、先ほどの映像を数枚印刷した物と、今朝作った俺の犯罪者像の資料を持って病院だ」
「取り調べに必要な情報集めだったんですね……早とちりしてました」
「全くだ、1年から学校やり直してこい」
「そんな、酷いですよぉ、野神けいぶー」
「はいはい」
俺達は又警視庁に戻ると、早速取調べに必要な資料を仕上げ、佐々木の隔離されている精神病院に電話をかける。
だが運が悪いことに、担当医である朝霧はこの日の医学会議に出席しているらしく、帰りが遅くなる為、今日の仕事はここで打ち止めとなった。
あちらにも都合があるのだ、無理に行く事など出来ない。
その為、その日は今回の資料を纏め、報告書を作り、様々な場所に向かう為の許可証製作をすると言う、地味な事務的作業をこなし、1日は呆気なく終わりを迎えた。
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