第7話 茶番な劇

「何をしてたの?」


佐々木は俺が戻って来るなり、食い気味に聞いて来たが、相変わらず表情自体の変化はない。


「この部屋に存在する記録媒体を全て止めてもらうようにお願いしたんだよ」


「何で?」


「俺はお前と違い、家族があり、世間体なんかのしがらみがあるんだ」


そう答えた後、わざとどっかりと腰を下ろし、脚を組むと、佐々木は驚いたのか、微かに目を見開いた。


「何故、俺が殺しをしていると分かった」


そう質問を口にした途端、自身の胸が締め付けられる感覚に襲われる。


まるで自白をしている様で、気分が悪い。


だが、それは間違いだ。


アレはそこらへんの奴がする様なただの殺人ではない。


必要な剪定なんだ。


そう心にいい聞かせ、少し俯いていた目を佐々木の方へと向けると、そこには不気味な笑顔があり、ゾクリと鳥肌が立った。


何を笑っている、いや、そもそも佐々木は笑えたのか。


ちがう、そんな事よりココからは人殺し同士の腹の探り合いの始まりになる。


これからの駆け引き、気を引き締めなければ、飲み込まれる。



突然の張り詰めた空気に、緊張が更に高まる。


俺が人殺しであると感じた部分。


こびりついた血の匂いなど、どうとでも誤魔化しはきく、だからこそ佐々木が感じた俺と一般人の違いが知りたい。


「……何となくかな」


だが、返ってきた答えはあまりにも曖昧な一言だった。


「何となく?」


「野神さんも僕を見た時に感じなかった?

懐かしいとか、落ち着くとか、似てるとか」


「つまりはフィーリングの問題だと?」


「そう、それ」


「一緒にするな」


似ている、確かに初めて佐々木を目撃した時、そんな感情が生まれた。


だが、知れば知るほど俺と佐々木は相反する存在である事が理解できた今、似てる部分を見つけ出す方が難しい。


「もしかして、野神さんには殺す理由があるの?」


「当たり前だろ」


「そうなんだ。

良いなぁ、僕はそんな事考えられないからさ、気づいたらいつも殺しているんだ……何でかな?」


「……」


佐々木は今の今まで殺害理由に、“そこに居たから”と答えていたが、多分そこに偽りはないのだろう。


佐々木には、殺す時の恐怖もなければ、快楽もない。


狂気じみた快楽を楽しむサイコパスともちがう、別の存在、それが佐々木だ。


それは、驚くほど俺と真逆の思考回路の持ち主である事の証明にもなる。


「お前、警察に捕まったり、精神科に入れられたりしたんだろう?

人前で殺したり暴れたら、自分は捕まるという危機感は生まれなかったのか?」


「何で?」


「だから、殺すならもっと人目のない場所で殺すだろ。

他人に見られたら、捕まって自由も奪われて、暫く殺しが出来ないだろ?」


そう質問すると、佐々木は少し考えた後、漸く意味が理解できたのか、「あぁ」と呟いた。


「だって、気づいたら殺してるんだよ?

対処のしようがないよね?」


「そういや、呼吸と殺人は同等であると言う発言もしていたな。

だが普通、人は無自覚では殺せない」


「でも事実なんだ」


「二重人格か何かか?

それなら、説明がつく」


「違うよ、僕には僕の意思がある」


「いや、それだとおかしいだろ」


「おかしくないよ。

あ、もしかして野神さんが他の人から隠れてるのって、殺しが目的で、捕まったら殺せなくなるから?」


「……」


ずいぶんと勘に障るいい方をしてくるな。


そのいい方だと、まるで俺が臆病みたいじゃないか。


「図星って顔してるね」


「……煩いな、今は俺が質問している所だろ」


「ねえ、野神さんは何で人を殺すの?」


コイツ、相変わらず人の話を所々聞かない。


そもそも、さっきからこの場合の一般人の解答例が全く思いつかないのだ。


変な質問はやめて欲しい。


「どうしたの?」


無言が続くと、再度佐々木が催促してくる。


頼むからもう少し考える時間をくれ。


「失礼します、面会は終了です」


そんな中、突如助け舟を出すかのように朝霧が入ってきた。

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