MOS!!

藤倉(NORA介)

第1話 その少女──MOS!!

 小学3年生の夏休みに蝶と間違えて捕まえたソレは、虫カゴの中で羽を広げていた。


 その大きな羽に描かれた両目に、睨まれた様に脚が竦んで動けなくなった。

 まるで「よくも捕まえてくれたな?」と言われてい気がして怖くなったのだ。


 俺、矢野結翔やの ゆいとにとっての…凄く嫌な思い出だ。




 人外族――それは人間の環境破壊によって絶滅が危惧された種族。人に近い姿をしながらも人とは異なる存在。


 日本政府はその存在を認め、人権と同等の権利として人外権を与え、人外族を同じ人間と認め保護する事を決定した。


 その人外保護法が適用されたのは11年前、今では人外族は普通に社会に受け入れられつつある…とはいえ、人外族への差別や偏見は未だ存在するの現実である。


 正直に言うと人外族なんて生き物…初めて見た時は俺も怖いと思ったし、気持ち悪いとも感じた。


 だけど、実際に話してみたら人間と大差なかった。

 普通に話すし、同じ食事を摂る。テレビだって見るし、ゲームだってする。

 普通に笑って普通に巫山戯るし、悲しい時は泣くし、落ち込む……


 それって人間族と何が違うんだろう?…見た目の違いだけなら、人間だってそうじゃないか?…だから俺は――……


 まだ人外への偏見や差別もあるが、それがいつの日か無くなってくれると嬉しいと思う。


「…オレの話、聞いてたか?」


 尻尾を地面に垂らした友人の大鱗おおいらが不機嫌そうに言った。


「…悪い、何だっけ?」


「だから、今日からうちのクラスに人外の転校生が来るんだって!」


 コイツは大鱗竜一おおいら りゅういち、爬虫類種の人外族で中学の時からの友人だ。


 大鱗曰く、今日は人外の転校生が来るらしい。うちの学校には大鱗を含め、2人しか人外生が居ないから、3人目の人外生となる。


「良かったじゃん!お前にも俺以外の友達ができるな!」


「失礼な!お前以外にも友達いるわ!」


 大鱗が尻尾を軽く地面に叩き付ける――これは大鱗の昔からの癖である。


「まぁ、でも仲良くして上げないとな!うちのクラスの人外族、お前だけだし!」


「そりゃな、初めて人間の学校に行く不安は凄いからな…オレは結翔が居たから良かったけどよ…」


「俺も仲良くしたいけど、やっぱり人外族同士の方がつるみやすいよな」


 この時まで、俺は思いもしなかったんだ――自分があんな目にあうとは……



◆◇◇


「今日から一緒に授業を受ける事になった絹旗だ!人間の学校は初めてらしいから、皆んな仲良くしてやれよ!」


 担任の皆口先生が連れて来たのは白く艶やかな髪と白い美しい肌を持った少女だった。


絹旗繭きぬはた まゆです!人間の皆さん、不束者ですが仲良くして下さい!よろしくお願いします!」


 顔も綺麗で整っていて、思わず人外と余り関わろうとしない生徒達までが見惚れていただろう。


「絹旗の席は矢野の隣ね!」


 先生が指した俺の隣の空席に彼女が向かって来る。


 頭部には大きな兎の耳の様な触角と耳元からスラッと伸びた白く美しい羽、俺はその特徴が――堪らなく無理だった!


 虫は苦手じゃなかった…しかし、俺は蛾だけはどうしても昔から好きなれなかった。


 小学3年生のあの日から……


 そう、彼女の特徴は蛾を連想させるには十分だった。…というか彼女自身が昆虫種の蛾型の人外族なのだろうから仕方ないのだが……


 ガタッ――ッ……


 彼女が隣に座った――ビクッと俺の身体が反応してしまう。


「えっと、矢野結翔くんですよね?」


 話しかけて来た!?てか何で俺の名前……


「皆口先生から矢野くんは、私たち人外にも優しくしてくれる凄く良い人間だと聞いてます!」


 皆口先生、何に言っちゃってんだよ。


「もし良かったら私と…友達になってくれませんか?」


 うわ、断れない……


「うん!そうだね、こっちこそよろしくね!」


 落ち着くんだ俺…そうだ、相手は蛾とは違う──良く見ろ!人外族だから違いはあるが、殆んど人間と変わらないじゃないか!


「後、もし良ければ矢野くん、教科書忘れたので読ませてくれませか?」


「…うん、良いよ」


 俺は教科書だけを彼女の方に移動させた。


 すると彼女を首を傾げる。


「ありがとうございます!でもこのままでは矢野くんが読めないので席、くっ付けちゃいますね!」


「いや!全然ッ、全然大丈夫だから!」


 いやっマズィ、それはヤバァイ……


「でも、矢野くんが授業を受けれないのでは?───…はっ、もしかして私の事が嫌いですか?」


「いやいやいや!?俺、教科書丸暗記してるから!頭に全部入ってるから!」


 咄嗟に出た言い訳がコレだった。


「そうなんですか!てっきり、嫌われてるのかと…違うなら、安心しました!」


 クッソ!良い笑顔だな!…可愛い筈なのに、どうしても虫の方がチラつく…しかし、まぁ別に教室だけの関係だ。

 きっと席替えしたら自然と関わりも減っていく筈だ。だから、それまでは……


「矢野くん、一緒に御飯食べましょ!」


 ソイツは屋上に現れた。(大鱗と一緒に)


「何かお前と飯食べたいらしい!だから連れて来た!」


「おう、じゃあ皆んなで食べるか……」


 本当は大鱗と飯をいつも通り食べる予定だった。まさか絹旗と3人で昼飯を食う事になるとは……


 飯を食べながら3人で話をする。大鱗は新しい人外族の友人ができたからか、人外族の女友達だからなのか嬉しそうに話している。


「絹旗ちゃん、学校どう?オレら以外に友達できた?」


「学校は楽しいです!まだ不安ですけど…あっ、友達まだです。どうやら怖がれてるみたいで……」


「オレも最初は怖がれてたな!でも大丈夫、絹旗ちゃんは可愛いから友達すぐできるよ!」


 あれ?…待てよ!?もしかしてコレ、チャンスじゃないか?


 俺は大鱗に励まされる絹旗を見て閃いた。


 俺が絹旗さんに友達(女友達)ができるように協力する。そしたら絹旗さんは「わーい!初めての女友達だぁ!」からの「女友達の方が話やすいし楽しいし、矢野くんの事はもう良いや!」って俺、解放!…ってなるんじゃね?


 ───…ってなるんじゃね!?良いアイディアだ!絹旗さんが皆んなと馴染む様に俺が全力で手伝えば良いんだ!


「あのさ絹旗さん、俺に君の友達作りの手伝いをさせてくれないか?」


「友達作り、ですか?」


「うん!もっと友達を作ったら学校が更に楽しく感じると思うんだ!」


「矢野さん何から何までありがとうございます!なら、分かりました!宜しく御願いします!」


「気にするな、友達だからな……」


 スッゴォイ心が痛い!痛い!痛過ぎるッ!


「オレも協力するぜ!友達だからな!」


 グハァッ……そうだ、でも全ては俺のメンタルを守る為だ。絹旗さんには悪いが、逸早く友達を作って俺からは離れて欲しい。別に君の事が嫌いなんじゃない。


 しかし、どうしても身体が拒否してしまう!これから先やってける自信がない!───だからコイツに友達を作ってみせる!


『待ってろ、俺がお前に最高の友達を作ってやるからな!』


 こうして俺、矢野結翔は絹旗繭という苦手な『蛾』の人外族である少女の友達作りに協力する事になったのだった。


 名ずけて──

…『絹旗さんの友達、百人作っちゃうぞ!計画(仮)』だ!

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MOS!! 藤倉(NORA介) @norasuke0302

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