76日目 代謝向上ダイエット
大学の友人から治験をしないかと誘われた。
「簡単にダイエットができるっていう奴なんだけど」
普段ならば断るところなのだが、ダイエットに失敗したばかりだった私は、話だけでも聞くことにした。
そのダイエットの方法はその友人が所属している研究室で考案された物で、人間の代謝を向上させることによって、脂肪を落とすというコンセプトであるらしい。この方法であれば、食べている食事の量に合わせて代謝を増やすだけで簡単に体重をコントロールできる。
今回、友人が誘ったのは、比較的痩せた若い女性というサンプルがいなかったからだそうだ。ダイエットの研究と言うことで、太っている人は集まっていたらしい。
その方法について説明は受けたのだが、内容はイマイチわからなかった。しかし、大学の研究でやっているのであればさほど変な物ではないだろうと勝手に判断して、私は治験を受けることにした。
代謝の向上の為の薬剤は、注射で注入する。金曜日に注射を行い、土日は宿泊施設で泊まることになり、問題無ければ普段の生活を送ってよいと言うことになっていた。ただし、食事と体温と行った運動については記録を取らないといけない。
安全性についての治験は既に終わっていて、今は効果について検証している段階と言うことで、土日に副作用などがでないことが分かれば安心、ということらしい。
注射を行って一時間も経たないうちに、体感でも体温が上がったような気がした。なにもしていないのに汗をかく。これは確かにダイエットになりそうだ、と私は思った。
土日は宿泊施設で普通の定食を食べていたのだが、私の体重は三キロ減った。
「少し効果が出やすい体質なのかもしれないですね。いつもより多めに食事を食べるくらいの気持ちで良いですよ」
ダイエットなのに多く食べて良いと言われるなんて、と私は驚き、実用化されたら人気になるだろうと確信した。
平日になり家に帰った私は、いつもの感覚でご飯を作ったのだが、多めに食べても良いという話を思い出して、追加でお菓子を開けた。それでも体重は減る一方なので、私は若干の恐怖さえ覚えた。
震度6の地震が襲ったのは水曜日のことだった。私はその時トイレから出ようとしていた所だったのだが、かなりの揺れで床に倒れ込んでしまった。
地震が終わった後、トイレから出ようとすると、扉の前になにかが引っかかってしまったらしい。私は携帯電話も持ち込んでいないので、閉じ込められてしまったのだった。
私は背中に冷たい物が走ったが、幸いにも明日彼氏とデートする予定だったことを思い出す。合鍵も持っているし、そこまで待てばなんとかなるだろう。
その時には、自分の代謝が向上していることをすっかり私は忘れていた。彼氏が来る頃には飢餓状態となっており、私は意識を失い救急車で運ばれた。
意識を取り戻した時、私は一気に体重を減らしていて痩せ細っていたが、その出来事がトラウマになって、太っていないと落ち着かないようになってしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます