75日目 早回しの恋愛
隣の吾妻家と我が旦野家はもともと仲が良かったので、二つ年下の吾妻家の美月ちゃんと僕は幼なじみという関係だった。
小学校の時は良く一緒に遊んで、中学になるとさすがに頻度は減ったが、お互い一人っ子ということもあって、ゲームの対戦相手を求めて交流があった。
関係性が少し変わったのは、中学二年になって美月ちゃん不登校になったことだった。酷いイジメだったようで、明るかった美月ちゃんはすっかり暗くなってしまった。しかも、その時の美月ちゃんの両親の対応がまずかったようだ。
そんなこともあって、その時高校生だった僕は両親に言われて美月ちゃんの部屋に向かうことになった。美月ちゃんも僕に対しては前の通り明るい姿を見せていた。我妻家の美月ちゃんの両親としてはそれだけでありがたいらしく、よく感謝された。
僕と美月ちゃんが結婚することになったのは、彼女が16歳、僕が18歳の時の事だった。
きっかけは僕の両親が事故で居なくなってしまったことである。僕はその連絡を我妻家で聞いた。ちょうどその時、両親の結婚二十周年記念で旅行に行くことになり、僕は我妻家で数日お世話になることになっていたのだ。
両親の事故は、旅行先からの帰り道の事で玉突き事故に巻き込まれる形だったそうだ。
ウチは親族が少なかったし、僕は高校生だったので、葬式は我妻家にかなり助けてもらってなんとか行う事が出来た。
しかし、それだけで話は終わりではなかった。父は小さな会社を経営していたのだが、借金があることがわかったのだ。額が多く、僕は借金を放棄せざるをえなかった。
そうなると今住んでいる家も手放さざるを得ない。そのまま行けば親族の家に住むことになることになる。
その時に、吾妻さん達がある提案をしてきたのだ。
「うちの美月と結婚しないか?」
吾妻さんとしても、美月ちゃんと話が出来る僕が離れてしまうことは避けたいとのことだった。もしその条件を呑むなら今の家の購入資金は融通するとのことだった。
もちろん美月ちゃんの意志を確認した上でのことではあるらしい。
「私は別に良いよ。居なくなると困るし」
美月ちゃんが若干やけになっていることは分かったが、両親が突然いなくなり僕も困惑していたこともあり、僕はその提案を受けることにした。
結婚と言っても、結婚式などは挙げないことにした。
一番大きく変わったのは、僕と美月ちゃんが一緒の家で住むことになったことだろう。我が家と我妻家は隣同士ではあるが、大きな違いではあった。
結婚を機に美月ちゃんは、だんだんと活動的になっていった。もともと部屋に引きこもっていたところが、家の中は自由に行動するようになり、たまに我妻家に行って料理をならったりすることもし始めた。
「自分でも役に立ってるっていうのが分かるから、嬉しいの」
正直言って、僕は生活能力が低かったので、美月ちゃんにはかなり助けられた。それが美月ちゃんのやる気にも繋がったらしい。次第にスーパーに買い物に行ったりも出来るようになっていった。
大学に入学した僕は、サークルや授業などにも入ったが、「彼女いるの?」という質問に対しては「あ、結婚してるんです」と答えた。
最初は冗談だと思われるのだが、経緯を説明すると男子の場合は盛り上がり、女子からは冷たい目で見られることが多かった。
「いや、でも手は出してないんで」
そう言うと、また反応が変わる。
実際、美月ちゃんは妹のような感覚もあったし、いきなり結婚してしまったので、手を出すつもりにはなれなかった。法的には結婚してしまったが、個人的には恋愛初期のような気持ちだった。
美月ちゃんは外にも普通に出るようになり、高校は通信制の所に通い始めた。中学の途中から勉強が出来ていないのだが、もともと成績は悪くなかったので、勉強を続けていた。僕も大学から帰ってきた後、美月ちゃんに勉強を教えた。
僕が大学を卒業するタイミングで、美月ちゃんは大学に合格した。そして、僕たちは離婚することにした。
離婚を切り出したのは、美月ちゃんだった。
結婚した当時は引きこもりだったから、なにも考えていなかったが、成長した美月ちゃんは色々と物事を考えるようになり、全てやり直そう、と提案してきたのだった。
「もともとあんまり良い始まりじゃなかったよね」
僕としては美月ちゃんとの生活も悪くはなかった。ただ、美月ちゃんから言ってきたのなら、否はない。
「一人暮らしの練習をしなきゃな」
「教えてあげるよ」
僕たちは、誰にも言わずに役所に行って、離婚届を提出した。
帰り道に彼女は「手を出さないでくれてありがとう」とポツリと言った。
僕は笑いながら答えた。
「苦労したよ、本当に。それに他に恋愛したら浮気だし」
そう言うと、美月ちゃんも笑った。
「もし私にいつまでも彼氏が出来なかったら、付き合ってあげてもいいよ。恋愛する機会を奪っちゃったわけだから」
「余計な心配だわ」
実際、美月ちゃんは大学に入って半年後には彼氏を作っていた。
僕はと言えば、初めての恋愛になかなか苦労したが、幸い若くしてバツイチということも気にしない相手を見つけることが出来た。ただ、夜を一緒に過ごすときになって、バツイチなのに童貞だという話をすると予想以上に驚かれた。
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