77日目 占いメール

 ウチの妹は占いが好きで、テレビの占いから占い本まで様々な種類を見ていた。それだけならば、好きにしろという話なのだが、それを姉の私にも行ってくる事が難点だった。

「お姉ちゃん! 今日の魚座は運勢最悪だから、これ持って行って!」

 そう言って、なぜかトランプを渡されたりするのだ。小さな物であれば、はいはい、と適当に答えて鞄に突っ込んだりするのだが、大きいものであれば辟易してしまうこともあった。

 ある日、ラッキーアイテムとして無理矢理妹の持っている青い色のダサい鞄を渡され、機嫌が悪かった私は「私が見た占いだと、魚座の運勢は最高で、赤い鞄がラッキーアイテムだったから大丈夫」と言って、妹をはねのけた。

 そう言うと、妹はなんとも言えなくなるので、味を占めた私はその言い方で妹から物を押しつけられるのを何度か躱した。

 しかし、そうすると今度は別の問題が発生した。

「ねぇねぇ、お姉ちゃんが見ている占いってどんな奴なの?」

 私は内心ギクッとしたが、素知らぬ顔で答える。

「別になんだっていいじゃん」

「えー、だってお姉ちゃん、占い興味ないって言ってたじゃん。それが急に気にし始めたみたいだし、気になるよ」

 妹が占いにはまったせいで私としては占い全般に冷ややかな目を向けていたのは本当のことだった。私は誤魔化そうと適当な話を作った。

「メールで来るんだよ」

「なんて奴?」

「秘密」

「えー! なんでよ」

「会員制で、紹介されないとダメだから」

「それ本当にあるの? 嘘じゃない?」

「嘘じゃないって」

 私は本当に存在することを証明するために、送られてくるメールを妹に見せることになった。

 私はその日の夜に適当な内容をでっち上げた。名前は、思いついたフォーチュン高藤という名前にして、文面も全く何も考えずに書き上げた。適当でも文が作れたのは、今まで妹から占いを色々見せられたおかげだろう。その内容を昔作ってほとんど使っていないサブのメールから自分のアドレスに送った。

 翌日、朝になってからメールを妹に転送すると、「へー、本当だったんだ」と意外そうな反応だった。

「順位と解説だけかー。双子座は11位で、低いところから高いところに上がるときに注意。ラッキーアイテムはペットボトル? ちょっと独特だね」

 簡単な内容であったが、妹を信じさせることはできたようだった

 とりあえず存在することだけ信じさせれば良いと思っていたのだが、その日帰ってきた妹は興奮していた。

「お姉ちゃん。あの占い、当ってたよ」

 どうやら、エレベーターに乗ったときに、エレベーターが泊まり、一緒に乗っていた子供が喉が渇いたと叫ぶのでペットボトルの水を分けてあげたらしい。

「ねぇねぇ、明日も送ってよ」

 妹はそう言ってきて、私は断る言い訳が思い浮かばなかった。変な事になってしまったと思いつつ、そのうち飽きるだろうと思っていた。


 私の適当占いはなかなかの成果を出したようで、妹は今では一番信頼している占いになっている。妹が友人達にも広めたが、そこでも評判は良いらしい。

 ここまで来たら、いっそのこと小遣い稼ぎでもしてやろう、と私は思い妹に「有料になった」と告げた。もし有料ならいらないと言ってくれれば、それはそれで嬉しい結果である。

 一人月額500円という設定にしたのだが、妹はその程度ならと喜んで支払った。最初は十人で5000円と小遣い稼ぎ程度だったのだが、妹の友人がネットに広めたらしく、参加者はどんどん増えていった。

 登録者数が500人を超えて月に25万円にもなると、さすがに私は恐怖を感じ始めた。私はそこまで来てようやく妹に全てを白状して、占いもやめようと覚悟を決めた。

 私は今までの全てを伝え、占いのメールも月末までやって休止すると告げると、妹は呆然として、それから私を罵った。

 その後、部屋に引きこもってしまった妹に、私は謝り倒したが、妹は何も反応してくれない。翌日以降、部屋からはでてくれるようになったが、私をずっと無視するようになった。

 占いのメールには月末で最後にすると書いて送り、辞めないでほしいという反響はあったが、私は謝りつつも撤回はしなかった。


 月末になり、最後の占いメールを、私は自分のために使うことにした。

「双子座は1位。魚座の姉と仲直りするのが吉」

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