72日目 悪人の星

  私の名前はウガ・カトウ。宇宙船ウシガエル号の政務主任である。もともとは平均的な特殊公務員Ⅰ種の一人でしかなかったのだが、他惑星交渉において連続で成果を上げたおかげで、同業者には一目置かれた存在になっているらしい。

 政務主任というのは、一定の権限をもつ役職ではあるが、実担当でしかない。特殊公務員Ⅰ種にとっては踏み台でしかないと言えるだろう。しかし、私の場合は最初の惑星交渉の過程で上司から反感を持たれてしまったことで躓いてしまった。

 次の惑星での交渉では、挽回の為にも人脈を使って対処し、交渉自体は成功した。しかし、私のような職業は成功しすぎても良くない。今度は、私の成果が大きすぎたことが問題となり、あらゆる方面からの足の引っ張り合いが来た。他惑星に向かって交渉する関係で政務主任は独立した権限を持つ。そのために、上司にすり寄って守ってもらうことも難しい。

 そんなわけで、私は昇進のレールに戻ることが出来ず、再び宇宙船ウシガエル号に乗り、他惑星への交渉に向かうことになったのである。


 今度向かう先は、惑星ロー・イアモンと言い、悪人の星として有名である。

 惑星ローの人々は、多産多死である。しかし、それは地球の文化で考えられるものではない。惑星ローの人類は、幼年期と成人期で生物的に大きな差があるのだ。幼年期には知性が薄く、動物に近い特性を持つ。その期間においては同族殺しが発生するのだ。

 一方で成人期にはあらゆる能力が向上し、知性も高まる。ここまで来ると同族殺しは禁忌となる。彼らの中では幼年期に死が発生することは自然なことなのだ。

 そんな生態であることもあり、惑星ローの人々は、幼年期にどれだけ相手を殺したかを誇る。そして、それが宇宙の他の星に見つかり、残虐であると告発されたのだった。それが生態的な特徴であることは情報を発信しているのだが、当初の誤解はなかなか解けないようである。

 今回、私がこの星に行くことになったのも、その悪名があってのことだろうと思われた。


 政務主任が宇宙船を使って移動するのは、秘密の会話をするためである。

 技術の進展とともに通信技術の進化も行われたが、タイムラグという問題はなかなかの難敵だった。最終的に出来上がった宇宙間通信は、秘密の通信が出来ない、という制約ができたままとなった。

 そのため、政治上隠したい内容があれば、相手側の惑星などに伺って直接情報をもらうしかないのだった。

 惑星ロー・イアモンに降りたった私は、思った以上に平和な環境に安心した。しかし、私に相対する人々は、一歩引いた状態であることが多かった。

 私は事情を知るであろう担当者にコンタクトをとり続け、最終的に担当者の子供が巻き込まれた誘拐事件を解決したことで、信頼を獲得し、ようやく情報を得ることが出来た。

「幼年体の連続殺人ですか」

「私たちは、幼年体の死を自然なものとして捉えています。成人に育つために必要なことなのだと。しかし、それもあえて死をもたらす物ではないのです」

 私は、恐ろしい内容に言葉を詰まらせた。

 惑星ロー・イアモンでは、幼年体を殺しても殺人罪には問われない。それを利用している連中が地球からやって来ているのだ。彼らは子供を相手に自分の欲望を発散させる外道だが、ローではそれを罪に問えないのだった。

 私は担当者が集めた情報に目を通した。奴らは、他惑星ということと、罪に問われないということで随分と気が緩んでいるようだった。名前を特定出来るだけの十分な内容が揃っていた。

「これだけの情報があれば、地球連邦として対応ができます。他国の文化尊重は成されるべき事ですから」


 私は資料を抱えてウシガエル号に乗り込み、地球へと臨時発進した。

 地球に向かうまでの時間で資料を分析しながら私は考えた。

 惑星ロー・イアモンで好き勝手行う奴らもそうだが、その中に他国の重鎮の親族の名前を見つけて自国の為に利用しようとしている私も、外道の一人だろう。

 本当の悪人の星は私たちのことなのかもしれなかった。

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