71日目 カーストの星
私の名前はウガ・カトウ。宇宙船ウシガエル号の政務主任である。ある惑星での技術提供交渉における成果で、一時期有名になり、一部では知られる存在となった。
その交渉自体は成功したのだが、その方法が良くなかった。下手にその時の交渉方法が有名になってしまったこともあって、上司は私への対処に悩んだようである。結果、私は現状維持のまま、また別の惑星への交渉に向かうことになった。
他惑星への交渉を任されるというのは期待の表れで、戻ってきたら昇進させるというのが通常のルートである。そもそも他惑星に行く事の負担は大きく、そういった餌がないとだれも受けようとしないのだ。
その中で昇進がないまま、再び他惑星に向かわされるというのは、消極的な左遷に近い。それも、今回向かう星は交渉が困難なことで知られている、悪い意味で有名な星だった。
しかし、出発の間際に上司のさらに上にいる部長から言われた限りでは、「今回の星で交渉を成功したら帳消しにしてやる」という意図もあるようではあった。
今回のウシガエル号の向かう先は、惑星オルトランドという。この星は、極端なカースト制がある。人々は誰もが生まれた時から決められた仕事と、階級が定められていて、その通りの生活を送ることが強いられている。
オルトランドに住む人々にとっては、それが常識であり、生まれた時に定められた仕事をやることを疑わない。階級は数代かけて上げていくのだが、そのようにしてカーストを上げていくことを至上としているのだ。
一定以上の階級に所属している場合には、自分に決められた仕事以外の道に進むことも出来るのだが、その場合には最も低い階級から始めることになる。たいていの場合は、低い階級からやり直すことに耐えられず、自分に決められた仕事に励むことになる。
私のような、他の星からやってくる人の場合にはまた特殊である。“カースト判断官”という職業があり、その担当者によって選別される。ただし、判別されるのは、その職業に対する審査が初めての場合に限られていて、それ以降は同じ階級が適用されることになる。
素直に言ったら、私は地球連邦日本の政治家という扱いになってしまうのだが、最初に応対した政務担当が失敗したために、最下層から5番目という低い階級に決められてしまっている。これは、オルトランドの犯罪者よりも少し上というくらいなのだ。
このカーストの階級の見直しを図り、オルトランドにおいて地球連邦日本の地位保証を得るというのが、今回の私のミッションだった。
政務担当の仕事の9割は事前準備で決まる、というのが私を育てた主任の言葉だった。私としてもその内容には同意だ。惑星モベルスのような例外があるとはいえ。
私はオルトランドに向かう最中に、他国や他星の事例を隅々まで調査した。調べてみると、日本の失敗は際立つものの、他星の政治家に比べて他の国も対して高いわけではなかった。
友好的な歴史が長い一部の星の場合には階級を徐々に上げていった事例もあるが、必ずしもそういう訳でもない。何らかの手段を用いているのだろう。
階級が高い星の一つに惑星モベルスもある。私は一案を思いつき、船長に通信をかけた。
惑星オルトランドにたどり着いた私は、カースト判断官へのお目通りを願い出た。最初は却下されそうだったが、一枚の紙を見せると態度が変わった。
「なぜこんなことを今更になって言い出したんだ?」
現われたカースト判断官は疑いの目で私の方を見た。私は表情を変えずに答えた。
「こちらが不慣れだった点は申し訳ないです。ですが、どうぞ職責に応じて適切な判断をお願いします」
私がそう言うと、カースト判断官はフン、と鼻を鳴らして、結果通知に判を押した。
「ギリギリ前例がないわけではないので、今回は許可しました。しっかりと最初の段階で情報を提示するように」
私はその判断に感謝の意を示し、引き下がった。
私が判断官に示したのは、惑星モベルスの政務担当が書いてくれた一枚の紙である。その紙には、「そこに居る彼とは政治的なやりとりを行う必要があり、同等の階級がないと差し障りがある」という内容が書かれている。
オルトランドの判断官も、他星においてカースト制が行われていないことは理解している。しかし一方で、カースト制を尊重する態度を取れられれば、否定することは出来ない。 さらに、これをカーストが高い側が出すことで、有効性は増す。まさに私にしか出来ない仕事だったと言えるだろう。
私は難局を乗り越えた充実感を覚えつつ、ここで得た階級を元に以下に国益を増していくかという事を全力で考え始めた。なにせ、地球連邦の中でも最高の階級を得ることが出来たのである。
他の国の担当は、この星では移動手段は徒歩しか認められていないし、服装も簡素な物、男女ともに髪をそり上げる必要がある。私は飛行機に乗ることも出来るし、服装は自由だ。
私はどういう手順で事を進めていくのか考えながら、顔のにやつきを止められなかった。
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