63日目 呪い業

 今のオレは“呪い”を仕事にしている。といっても、実際に人を呪うことだけでお金を得ているわけではない。

 オレが所属しているのは、いわゆる反社会的な団体である。当然、判断基準はいかにお金を稼げるか、だけで、合法かどうかというのは絶対的な基準ではなく、捕まるかどうかの相対的なリスクでしかない。

 今行っている“呪い”スキームはこうである。

 まず呪いをかけたい人を募集する。そして、金銭をいただきつつ、呪いをかけたい相手について確認する。そして後日、呪いをかけた相手に対して、こんな風に言うのだ。

「自分はたまたまここを通りすがった霊能力者だが、どうやら強力な呪いが貴方に掛けられているようだ。気をつけた方がよい」

 呪いを掛けたメンバーと、お札を購入させるメンバーは別にしておくことで、信憑性を増すことができる。呪いを掛けられたい相手というのは、恨まれていることが多い。呪いでなくても、不幸に襲われることが多いのだろう、こんな方法でも信じる人は多かった。

 そして、相手が信じたところで、「呪いを防ぐには札を購入する必要がある」と言って、高額なお札を購入させるのだ。組の中に一人そういった物に詳しい奴がいて、お札はしっかりと本格的だ。

 最初に話を聞いたときには、やり方を疑問視していたが、実際に稼ぎは順調だ。面白いことに、一度断った相手から後でやはり購入したいと連絡が来るケースも多かった。


 そんな事をしていると、事務所の前で妙なおばさんに話しかけられた。

「あなた、ちょっと。ここの事務所の人でしょ。なにか変なことしているでしょ」

「なんだ、あんた」

「とんでもない事をしているのに気がついてないようで、はらはらするんだよ。わかってないかもしれないけど、呪いは本当にかかっているんだからね。今使っているのは、本物だよ!」

 オレはその話で事情を察した。どこか敵対する組織か、宗教組織がなにかを仕掛けてきているのだ。それにしても“それっぽい”人を手配する物だ。

 オレは、失せろと怒鳴って、追い返した。相手は「忠告はしたからね」と言い残していったので鼻で笑う。演技にしても上手いものだ。


 今の場所での仕事が順調なので、オレは呪いの仕組みを使い回して、他の場所でも稼ごうとした。しかし、なぜか他の場所では上手くいかなかった。

 上の方から叱責を受けたオレは、なぜ上手くいかないのか原因を探す羽目になった。

 呪いをかけた相手を調べてみると、どうやら本当に不幸な出来事が起こるケースがあったようだ。実際、噂になっているほどで、ネット上にも“本物の呪術師”として小規模だが話題になっていた。

 オレは担当している奴を呼び出して話を聞いた。

「おい、呪い掛けてる奴って誰なんだ?」

「えぇ、ハザマダですよ。お札を作った奴。妙に詳しいんで任せたら、自分なりに道具を作ってみたりもしてきまして」

 話を聞くと、陰気で暴力沙汰には役に立たないハザマダという奴が、実際の呪いの辺りをとりまとめているらしい。オレはハザマダから直接話を聞くことにした。その辺りの道具を拝借できればよいのかもしれない、と思ったからだ。

 ハザマダの所まで行くと、部屋の中にはムッとした妙な香りが漂っていた。オレの背筋に妙にスースーするものが走った。

「何でしょう。兄貴」

 やってきたハザマダは、前に見た時はただの陰気な男だったのだが、今は怪しげな色を身にまとわりつかせていた。

「呪いはお前が実際やっているんだよな。それ、やり方はなにを元にしたんだ?」

「はい。実は、育ててもらった祖母から習ったやつでして。なんでも実家に伝わる伝統的なやり方だそうです」

 そう言って、ハザマダは無駄口を続けた。

「実際、手応えがあるんですよ。相手に呪いが通る感触っていうんですかね」

 オレは、その話を聞いて、方向性を少し変えることにした。


 オレはハザマダを囲い込んだ。呪い業の方は細々と続けていくことにした。特に変えたのは、呪いを掛ける相手をランダムではなく、特定の相手に絞ったことだ。地元の土地持ち、会社の社長、金を持っていそうな奴だけを相手取る様にしたのだ。

 そういう奴らは、呪いが効力を発揮しないことも多い。おそらくなにかしらに守られているのだろう、とハザマダは言う。

 しかし、そっちはもはや隠れ蓑である。

 オレのすぐ上で目の上であった兄貴は先月急な病に倒れて死んだ。

 もっと上にいる敵対する幹部は、事故に遭って顔が半分動かなくなった。

 結局、俺たちみたいな奴が、一番呪いに弱い人種なのだ。オレはハザマダを上手く使って、この世界を上り詰めるつもりだ。

お札が壁に貼られた部屋の中でオレは笑った。

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