62日目 スマートトイレ

 今ではすっかり見なくなってしまったが、かつてスマートトイレという商品が売り出され、一世を風靡した。

 最初期のスマートトイレは、AIが搭載されていて、入ってくる人の顔を認証して設定が自動でされるというものだった。便器の暖かさや、ウォシュレットの強さなどを自動調整してくれるのだ。そこから徐々に機能は足されていき、人に応じて音楽やニュースを流したり、リラックスさせる香りを出したりする機能も出てきた。

 一つの転機になったのは、T社が出したRC―8Vという機種だった。この機種は排泄物の形状や内容を分析する機能を搭載していたのだ。誰かを認識した上で、出された物について統計を出すことで、体調管理が出来るというものだった。

 これはとても話題になって、スマートトイレを略して、“スマト”と呼ばれて人気を博した。

 もちろんこれには批判も多かった。自分の出した物が分析されて、データとして蓄積されてしまうことに抵抗感がある人は多かったのだ。しかし、この機能は医療的には推奨され、特に体調を気にする人には積極的に推奨する、というコメントを出した医師もいた。


 僕が子供の頃に使っていたのも、この機種だった。当時はかなりの話題となったので、この機種は品薄になっていた。我が家では、いち早く導入を決めたことで他の人に先んじて購入することが出来たのだ。

 その時は、来客が来るたびにトイレの紹介をすることになった。このトイレを使うために、両親の知り合いがわざわざやってくることすらあった。

 最初は話題になっているから便乗する、という程度だったのだが、結果的にこのトイレのおかげで、父は大腸癌に早く気がつくことができた。そのエピソードを母が登校したところ、世の中に広まって、スマートトイレの普及に一役を担ったりもした。


 スマートトイレはそこからもどんどん進化していった。イナターネットで繋がって外出先のトイレとも情報を連携する機能や、お尻の形を解析して最適なウォシュレットの位置を調整する機能、さらに逆にトイレが出そうなタイミングを予想する機能などが生まれた。最終的には、トイレが必要な時にはトイレからやって来てくれるようになったのだ。

 そのままどこまでも進化していきそうなスマートトイレだったが、今では見ることは少なくなった。

 スマートトイレを凌駕する存在、スマートオムツが発売されたのである。

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