64日目 疑似恋愛禁止法
疑似恋愛禁止法が出来たのは、出生率の低下に歯止めがつかなくなった時の事だった。
疑似恋愛というのは、芸能人や物語の登場人物に対して恋愛を行うことで、とある議員の発案から出生率の低下を止めるにはそれしかない、という話になったのだ。
反対意見も多く存在したのだが、出生率の低下が大きな問題として取りあげられた結果、その法案は可決されてしまった。
疑似恋愛禁止法と言っても、実際に法律が適用されるのはごく一部である。具体的に言うと、漫画の同人誌、その中でも特に成人向けのものが標的とされていて、各種の同人誌即売会が中止となっていった。
その判断基準には偏りがあるし、オタクを標的にした活動なのではないか、と人は言う。芸能人やアイドルに対して恋愛的なアピールをすることは実在の人に対することなので問題ないという扱いになっている。理屈上は、アイドルとファンの間で恋愛関係が生まれる可能性がある、という事になっているのだ。
私もこの法案で生活に打撃を受けた者の一人だ。私は恋愛漫画を連載していたのだが、法案の可決によって無期休載に追い込まれてしまった。そして、それまでは同人誌即売会で多少なりとも儲けを出せていた所もなくなってしまった。
困ってしまった私は、漫画家のコミュニティでその中に居る人と話をしていたのだが、どうやら今のところ、女性同士や男性同士の恋愛は禁止とはなっていないらしい。
それはそれとして、同性との恋愛を認めていない事に対する不満はでてくるのだが、話がここまで来てしまっては文句も言えない。
私は生活のために女性同士の恋愛で話を作ることにした。
その年で一番大きな同人誌即売会は、女性同士の恋愛が最大規模で開催された。
その界隈にもともといた人からは、後から入ってきた私のような存在は邪道であるし、話の構成も“男性本位”だという話を受ける。そういった人は、“新百合”と呼ばれているようだ。
私の作品も、女性同士の恋愛のテイストではあるが、男性向けの面があることは否めない。しかし、“新百合”は順調に人を増やしていて、これからも人が増えそうである。
そういった流れを見るに、法律で恋愛をコントロールしようなんてことはナンセンスなのだろうな、と私は思った。
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