43日目 宇宙船のプラネタリウム

 平日のプラネタリウムは空いているので、瑞穂はよくそこに入り浸っていた。プラネタリウムは、宇宙船の教育用施設なので料金が無料というのもあっただろう。

 僕も瑞穂の後を追って、よく一緒にプラネタリウムの天体ショーを見た。とはいえ、さほど種類は多くないので、全て見飽きた物だ。

 今流れているのは、宇宙船希望号、僕らが乗っている船の推測経路と果たすべき意義について説明した物だ。プラネタリウム上では空間をワープして、太陽系とそこからの希望号の旅路について説明している。


 宇宙船希望号は、太陽系外惑星への移民船となる。太陽系外惑星の中でも、地球と似た環境が存在することがほぼ確実な惑星への旅路で、片道150年を予定している。今はその半分にも至っていない。

 プラネタリウムでは、どのような経路を辿るのかを、立体的に表現している。これらは、学校の授業でも何度も習う箇所だ。

 もともと地球での国ごとにこういった惑星外移民の計画を立てられていて、僕たちは日本という国を元にしたグループになる。僕の大和という名前も、瑞穂の名前も、日本に由来する名前らしい。僕たちの世代にはそういった名前の子供が多い。

 僕たちは親も宇宙船内で生まれた世代だ。地球の事を知っている人はまだ生き残ってはいるが、彼らもそのうちいなくなるだろう。だから、そういった人の思いや経験を受け継ごう、という授業も開かれる。

 どの説明でも、これは人類の発展のためのはじめの一歩で、長大な時間をかけるこの計画は絶対に成功させなくてはいけない一大プロジェクトなのだ、と教えられる。

 僕はその壮大な計画をきくと感動してしまうし、その中に自分が参加できているということに誇らしさを感じる。けれど、瑞穂はそれをよく思っていないらしい。


 プラネタリウムの一つの上映が終わって瑞穂の方を見ると、イヤホンをして目を閉じていた。

「もう遅いし、寝るくらいなら、家に帰ろうよ」

「今日は帰らない。大和は帰っていいよ」

「そんなわけにはいかないよ」

 僕がそう言うと、瑞穂は仕方ない、というように目を開けて身体を起こした。

「大和も知ってるでしょ。ここに人はめったに来ないんだから」

「そうじゃなくてさ……。瑞穂は何が嫌なの?」

 瑞穂は学校ではいつも成績優秀だし、親も宇宙船中心部での渡航計画を立てるグループの一員で、いわゆるエリート層といえた。僕も親はその一員なのだが、僕本人はぱっとしない。おそらく、宇宙船の運航関連に携われる立場にはなれないだろう。

 瑞穂は言った。

「星が見たいんだよ。空に輝く満天の星、という奴が」

 僕はその言葉を聞いて、すこし悩んでから口を開いた。

「それを進路にしようとしたの?」

「うん。進路に宇宙船外部隊って書いたの。そしたら、皆から止められたし、親には怒られた」

 宇宙船に窓はない。だから、もし星を見るのであれば、確かに宇宙船外部隊にでもいくしかないのは確かだろう。

 しかし、宇宙船外部隊は命の危険もあるきつい仕事で、言っては何だが学校を成績優秀で卒業した人の進路ではない。どちらかと言えば、生き場所がない人たちが行き着く場所になる。

「宇宙船の中にいる私たちは、貴重なエネルギーで育てられている以上、果たすべき責任というものがある、ってうちの親は言うの。でも宇宙船の中心部で、死ぬまで同じ仕事を果たし続けるって、なんていうか、絶望だよね」

「重要な仕事だよ」

「まぁそうかもね。宇宙船にいる全ての人の命を背負うわけだから」

 そんな話をしているうちにプラネタリウムは次の演目を始めるために、周囲が暗くなった。次に流れるのは、地球からの星座と、今の宇宙船の位置から見える星座についての解説のようだった。

 僕が上を見ると、横にいる瑞穂の声だけが聞こえた。

「孤独だわ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る