38日目 面白すぎた男

 僕の幼馴染のケンケンは暴力的な面白さを持つ男で、クラスの中でも一番面白い男として認知されていた。そして僕はそんなケンケンの相方として扱われていた。

 自覚はないのだが、僕は天然ボケなのだと言われる。それに対して、ケンケンが突っ込みを入れる、というのが普段の流れだった。

 ケンケンの突っ込みは強烈で、その勢いもケンケンの面白さの一つであるらしい。ケンケンは握りこぶしで僕の頭を殴りつけてきたり、みぞおちにパンチをたたき込んだりしてくるので、激痛にうめくことも多かった。しかし、その僕の反応も面白さの一つで、ケンケンのツッコミと僕の反応にクラスは爆笑の渦に引きずり込まれるのだった。


 あまりに暴力的なので、僕はケンケンやクラスメートにやめて欲しいと言ったこともある。しかし、ケンケンの反応は「もう気がついたらツッコミをしていて、止まらないんだ」というものだったし、クラスメートに言っても「でも面白いじゃん」という答えが返ってくる。

 らちがあかないので、先生や親に辞めて欲しいと訴えたこともある。

 しかし、僕とケンケンが一緒になってしまうと、先生も笑うし、僕の親ですらケンケンのツッコミには笑わされてしまう。すると、なんだか真剣な雰囲気ではなくなってしまうのだった。


 そんな中、ハロウィンの日にケンケンが「トリック・オア・トリート」と言っていきなりドロップキックをしてきた。完全に気を抜いていて僕は吹っ飛び、階段したまで転がり落ちた。その衝撃で僕は首の骨が折れてしまったのだが、周りは爆笑していたのでしばらくそのことに気がつかなかった。

 僕の死は子供同士でふざけていたときの事故という形で処理されて、ケンケンは無罪放免となった。教師も親も、ケンケンのファンだったので、判断に手心が入ったのかもしれなかった。

 しかし、その葬式の後からケンケンの面白さは、なりを潜めてしまった。今までしていたようなツッコミどころか、ツッコミという行為自体が行われなくなった。

 ケンケン自身も不思議そうにしていたが、どうやら本当にツッコミを彼はコントロール出来ていなかったようだ。そう考えると、本当は僕こそが面白さの主体だったのかもしれない。まるで、ドラムとドラマーのように、けんけんは目の前の僕を叩き続けた。

 その後、ケンケンはクラスで一番面白い男の座からは遠く離れてしまい、いつしか真面目な人ということになっていったのだった。

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