37日目 運命と幼なじみ

 僕の初恋は幼なじみの山田千絵だった。千絵とは家が隣同士で、物心つく前から一緒に遊んでいた仲だ。

 千絵のどこが好きなのかと言われると、僕は少し返す言葉に困る。千絵は特別美人というわけではないし、魅力的な何かを持っているわけではない。性格も僕は好きだが、誰からも好かれる訳でもない。ただ、僕にとっては特別であることは間違いなかった。

 しかし、運命はなぜか僕と彼女を遠ざけようとするのだった。


 駅前の再開発が始まったのは、小学校高学年になって、すこし距離を詰めたいと思い始めた頃だった。もともと噂話はあって、どこまでの区画が対象になるのか、という予想は立てられていたのだが、最終的に決まった再開発の区画は、ちょうど僕の家までで千絵の家は対象にはならなかった。

 再開発の対象になった区画は、金銭での支払いと再開発が終わった後の区画を分けてもらえることになる。うちの両親は、もともと住んでいた古い家を何もせずに建て替えられると大喜びだった。

 それまで僕と千絵は部屋の窓から行き来出来るレベルの距離の近さで、ゲームが豊富にある千絵の家でよく遊んでいたのだが、一気に距離が出来てしまった。

「今まで通り遊べなくなるかもね」

 ゲームをしながら千絵はそんな風に言ったが、僕はそれで諦めるつもりはなかった。

「遠くなるけど、遊びに来るのは別に良いでしょ?」

 僕はそんな風に言って、そして引越し後も今まで通り週に何度も千絵の家に通い、中学に入る頃には、僕と千絵は彼氏彼女の関係となった。


 それから、僕の周りにはなぜか幸運な出来事が舞い込んだ。

 引っ越した先の新しい家は、全てがピカピカだったし、広い自分の部屋ももらうことが出来た。勉強も集中して出来るようになったので成績も上がったし、今まで買ってもらえなかったパソコンをもらうことも出来た。そして、隣の部屋には学年一番の美少女である君塚さんが住んでいた。

 中学二年になった時には、父さんが持っていた株が急に高騰したらしく、一ヶ月で何千万円も稼ぐことになった。母さんも仕事先で昇進できて、それまで余裕がないといっていたのに、進路も自由に選んで良いと行ってもらうことが出来た。

 中学では、千絵とは別のクラスになってしまったが、それ以外に全く不満はなかった。それどころか、先生もクラスメートも良い人ばかりで相性も良く、イベントのたびに大きくクラスは盛り上がった。君塚さんとは学校でも隣同士になって、「私たち、仲良すぎだね」と言われたりした。

 高校生になるとその傾向はさらに拍車がかかった。遠い親戚がなくなって大量の遺産が入ったり、海外旅行のチケットがテレビの懸賞で当選したりした。同じクラスに芸能人がいて、その子と席が近くで仲良くなった。それ以外の身近な女性からも告白をされた。

 しかし、結局千絵との関係は変わらずで、母さんが宝くじにあたっても、学校で人気者の友達ができても千絵の家に通い続けた。


 そこから二十年ほど経って、僕と千絵は結婚して、もう子供もいる。

 子供が大きくなってきたので千絵の実家に向かうと、駅からの町並みは子供の頃から大きく変わった。ただの住宅街だった町並みが、都会の町並みのようである。

 しかし、千絵の実家の様子は変わらない。隣にいる千絵も、年こそとったが、昔から大きく変わっていない。未だにゲームを一緒にするし、ゲームの腕はそれなりだ。

 それこそが僕の求めていた物だったのだと、その時になってようやく気がついた。

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