31日目 金庫破り

 発明家の南条氏は、独自研究でいくつもの発明を世に出していて、その資産を狙う者も多い。南条氏の研究所には、私のように雇われた警備員もいるが、いくつか独自の警備装置も備え付けられている。

 しかし、今日やってきた強盗はそのほとんどが意味を成さなかった。強盗は警備員として館に入り込んだからである。


 私が昼勤務の警備員と交代した後、一緒に交代した警備員に後ろからなぐられ、気がつけば私は腕と脚を紐で縛られて床に転がされていた。

「起きましたね」

「お前ら、どういうつもりだ」

 私の前にいる警備服をした二人は、なにを言っているんだ、と肩をすくめた。

「頂きたい発明品があるのですよ。あなたにも一緒に金庫に来てもらいましょう」

 強盗の一人は、そう言って私を立ち上がらせた。

「オレが行ったところで、発明品は持ち出せないぞ」

 警備員として入ったことで、館の中に入る事は出来たようだが、金庫にも警備装置がある。その装置は警備員だからといって制御を止めることができるものではない。

 しかし、私の忠告を聞きもせず、男達は金庫まで脚を進めていった。


 南条氏の金庫には、入口に一人用のエレベーターがある。そのエレベーターには体重計が内蔵されていて、人の重さを量る事が出来るようになっている。

 南条氏以外の人は、一人で無いとエレベーターは乗れないことになっている。そしてその上で、身体はスキャンされ、余計な物を持ってはいることは出来ないようにされている。

 そして、警備員としてのIDカードを使うことでエレベーターは動かす事が出来るのだった。

「そこでしばらく待っていてください。まずは私が行きますので」

 男はまず一人がエレベーターに乗り、その後に私が乗ることになった。もう一人の男は私の後に入るのだろう。

 私は男達の行動がやはり疑問だった。この金庫の中に入ることは確かに可能だ。しかし、物を持ち出すことは出来ないようになっているのである。

 このエレベーターに乗ると、入ったときのIDと体重は紐付けられるようになっている。そして、入ったときよりも体重が重くなっているときにはエレベーターは動かないように設定されているのだ。

 移動する人は一人である必要があるし、また中に人が入っていることを検知しなければエレベーターは稼働しない。この仕組みにより、入ることは出来ても、中の物を外に持ち出す事は出来ないのである。

 男達に連れられて中に入ると、先に入った男が発明品らしきものを手に持っている。発明品はボーリングの玉程度の大きさの機械だった。

「必要な物はちゃんと確保できました」

「どうするつもりだ? ここのセキュリティを知っているだろう?」

「えぇ、入った時と重さで判断しているのですよね。そして、生きた人間が一人でないといけない」

 そう言って、男は紐のようなものを取り出した。

「それは……?」

「糸鋸です。スキャンに引っかからずに持ち込める物はこれくらいだったので」

 そして、男は私の腕に紐を強く巻き付け始めた。

「な、何をするつもりだ……?」

 男は表情を変えずに言った。

「人間の腕の重さを知っていますか? 片腕で体重の8パーセントだそうです」

「……やめろ!」

 私は暴れるが、後ろにいた男に押さえつけられる。

「せめて利き腕ではない方にしておきますよ。……なに、急いで病院に向かえば死ぬことはないでしょう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る