30日目 内臓全置換

 内臓全置換手術が注目されるようになったのは、手術の自動化が本格的に検討されるようになってからだった。

 機械による自動化をしようとした際に、内臓やその部位によって術式が変わるのはコストがかかる。内蔵全置換は、どの内臓に問題があっても、全置換ユニットを使えば良い。もちろん全置換ユニットの方が高くはつくが、一部だけを置換するよりも、別の病気が引き起こされる可能性が低くなる。

 機械による自動手術であれば、人間では行えない速さと精度での手術ができる。それは、体力的に余裕がない人に対しても手術ができる可能性を広げる物だった。


 私が内臓全置換手術を行ったのは24歳の時だった。

 内臓全置換手術が本格的に世に出始める直前の頃のことだ。私は若いながらも癌を発症し、しかも他の部位への転移も見られた。そこで医者が当時は臨床試験の最中だった内臓全置換を提案してきたのである。

 そもそも取れる選択は少なかったが、私なりに、これ以降の転移が起こらないように出来る、と考えて、私は内臓全置換手術をおこなった。

 内臓全置換を行うと、食事は腹部の取り込み口に、専用のパックを差しこんで栄養を摂取することとなる。食の楽しみは失われるが、私は料理の手間がなくなることを喜んだ。食事の為に時間をかけることを無駄だと思っていたのである。

 そういう人は結構な人数がいたようで、内臓全置換が一般的な物になると、食事の時間を減らすためだけに手術を行うような人も出てくることになる。


 内臓全置換の特殊な副作用が分かったのは、時間が経ってからのことだった。その副作用とは「寿命が延びること」だった。

 研究された結果によると、内臓というのは動かすのにかなりの体力を使っているようで、その部分が機械化されることで、人間の寿命を延ばすことができるようになったのだった。

 私ももうすぐ百歳になるが、まだまだ身体には余裕がある。

 しかし、そうすることで問題も出てきた。私のタイプの全置換ユニットは、全置換が広まる前のもので少し特殊な構造になっている。もう使用者が少なくなって来たために、専用のパックの販売が取りやめになってしまったのだ。

 専用パックはまだ在庫は十分にある。しかし、いずれはどうするかを決めなければいけないだろう。私は餓死の気配に怯えながらそんなことを考えた。

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