32日目 親切すぎる隣人

 宇宙からの来訪者は、実にスマートに地球へのコンタクトを行った。

 まずは事前の連絡を発信し、一年後に地球を訪ねる事を連絡。その一年の間にも、特定の対象を優遇したり差別しない事を伝えたり、自身の外見や生物としての特徴を事細かに伝えたりした。

 さらに、侵略の意図がないことや、科学技術などを提供する準備があることも一緒に伝えた。一方で、自分たちに地球に在留する権利を認めて欲しいことや、文化の研究をさせて欲しいということも言いだした。人々は、その内容を議論したり、そもそも技術の格差から一方的に要求を突きつけることも出来る状況への危惧を話し合ったりした。

 しかし、やはりそれらの連絡で、彼らは交渉できる存在であると見られるようになったのは後の対応を考えると良い影響を果たした。私からは、この部分でも出来すぎと言える対応だったと見える。

 彼ら、ビケマス星人とのファーストコンタクトは、最初に連絡があった日からちょうど一年経った日に行われた。太陽系に入るところから彼らは姿を現し、ゆっくりと地球にむかってやってきた。その辺りも周到なパフォーマンスであったのだろうと思われる。

 地球側が指定した太平洋の船上に上空から宇宙船が下りてくる光景は、直接目にした人こそ少ないが、生放送でほとんどの人類が見ている状況だった。

 そんな風に、やってきたビケマス星人は、当初の危惧を裏切り、やはりあくまで平和的な交渉を続けてきた。

 人類は相手が裏切った時の心配を続けていたが、ビケマス星人が事前に送ってきた資料通りの生物であることを確認し、人類に近い生物であり、いきなり口を大きく広げてかじりついてくることがないことを確認した。

 病原菌の影響を確認するため長期間の隔離と研究を行い、ビケマス星人の技術提供も会った上で、5年ほどの時間をかけて相手への信頼を積み重ねた。

 そこからさらに5年ほど経つと、ビケマス星人に対する知識は積み上げられ、ようやく交流がされるようになった。


 ビケマス星人は地球人に多くの物を与えた。科学技術や数学などは、地球でもビケマス星でも共通に使うことが出来る物だ。その部分の領域は、驚くほどスムーズに浸透していった。数学者達は、今後数十年は、ビケマス星人から伝えられた理論の検証に時間を掛けなくてはいけないだろう、とも言われる。

 文化的な配慮も丁寧すぎるほどだった。地球で行われている争いや問題については、直接的な言及は避ける一方で、技術的な分野で解決できそうな内容であればその事を伝えてきた。

 テレビやインターネットでの情報発信も積極的に行っていて、ビケマス星の風景や宇宙旅行の様子を伝える動画、すぐに数十億回の再生数を記録することとなった。

 私はだからこそ、ビケマス星人のことを疑ってしまう。


 ビケマス星人が地球から受け取った物は少ない。文化の研究と言ってはいるが、それは地球人に気がつかれずに盗み見ていれば分かる内容のはずである。

 それ以外に受け取ったのは、地球のある地域に居住することを認めて欲しいということだった。ビケマス星人はそこに家を建てている。

 その後、ビケマス星人の後続の人たちも次々にやってくるようになった。彼らは一定期間地球に滞在して、また帰って行く。その際、ビケマス星人の居留地にいる時間がほとんどなのだ。

 私の想像でしかないが、彼らは地球人なんかに興味はないのだ。

  それでは、なぜ人類にここまで丁寧にアプローチするのか。もしかすると、私たちが知らない有用な資源があるのかもしれない。ビケマス星人は価値に気がついていない私たちにはそれを告げずに、こっそり奪っているのではないだろうか。

 しかし、例えそうだったとしても、今の私たちにはどうすることも出来ない。私は次々とやってきては、なにも持たずに去って行く宇宙船に、恐ろしい予感が止まらないでいる。

 私たちはいずれ後悔するのかもしれない。しかし、それが何十年後、何百年後になるかはわからないのだった。

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