26日目 善行ポイント

 参加希望を出していたボランティアについて落選のお知らせが来て、私は頭を抱えてしまった。

 応募していたボランティアは障害者の方への施設が開くイベントの手伝いで、私は毎年参加していた。このイベントは複数日開かれるので善行ポイントを稼ぐのに都合が良いのだ。それにイベントは休日はともかく、平日はほとんど人は来ないし、屋内の仕事なので肉体的な辛さも少ない、というこちらにとって楽な条件を満たしていたのだ。

 善行ポイントの制度が作られて、ボランティアに精を出す人たちにとってはなかなか喜ばれる状況になったらしい。しかし、そうでない人にとっては、いかに上手く善行ポイントを稼ぐかということが大事だった。

 善行ポイントがないと、クレジットカードを使えなくなったり、融資が受けられなかったりする他、各種の税金や公共料金の支払いが高くなるのだ。正確には、善行ポイントがあれば“控除”されるということらしいのだが、フリーランスの身としては、絶対にそれは避けたい所だった。

 少し募金をすれば良いくらいならよっぽどそうしたいのだが、善行ポイントはお金では評価されない。評価されるようにするには、実際に物を寄付する必要があるし、評価されるためには高額である必要がある。例えば、救急車を寄付するとか、そういうレベルになってしまうのだ。

 私は今から参加できそうなボランティアを探してはみたが、満員ばかりになっていた。もう期末時期になって後がないので、人気がないボランティアにも参加希望が多いようだ。空いているものは長期間拘束される海外でのボランティア体験などになるが、さすがに仕事の関係でそれは無理だ。

 私は憂鬱になりながらも、他に手段がないか調べてみることにした。


 私がフリーランスになったのは、三年前のことである。学生の頃からプログラミングを続けていて、何度か転職して技術は評価されていたし、フリーランスになった後もある程度仕事の当てがあったので、フリーランスへと転向した。

 得られる収入が増えたのは良かったが、面倒な事も多かった。収入の申告や、保険関係も面倒だったが、善行ポイントの獲得も面倒なことの一つだった。

 会社員だった頃は、会社がボランティアの行き先を確保してくれていた。これはよくある形で、全校ポイントの対象となる施設を会社が運営し、獲得の場を設けてくれるのだ。社員は業務に支障が出ないように行く日を調整して向かえば良かった。

 実際、個人でも有り余る金を持っている人は同じように、自分を施設のオーナーという事にして善行ポイントを確保しているらしい。

 だがフリーランスになるとそうもいかない。今年は落選してしまったボランティアは知り合いに教えてもらったオススメだったのだが、それ以外の手を考えないといけない。


 ネットで何か無いかを見ているが、なかなか良い解決策が見つからない。私は煮詰まって手当たり次第に検索をかけると、善行ポイントに対する不満が書かれているコミュニティを見つけた。

 そこに書かれているのは、ボランティアなんてやりたい人だけでやれば良いだとか、企業がやっていることはズルだ、といった内容だった。以前の私ならば間違っていると思う内容なのだが、自分も苦しい状況だとその内容に共感してしまう部分もある。そんな風にして、しばらく書き込みを読んでいると、「最近本当にボランティア使えなかったんで、今年は裏技でやったわ」というものがあることに気がついた。

 「裏技」の内容を求めて書き込みを遡っていくと、どうやら人にお金を支払って被害者になってもらうという方法のようだ。

 善行ポイントはボランティアするだけで得られる物ではない。例えば犯罪防止のなにかをすれば、ボランティアよりもよほど多くの善行ポイントが溜まる。その仕組みを悪用して、被害者がいてくれれば、善行ポイントを確保することが出来るのだ。

 私はもうこれしかない、とさらに内容を読み込み、SNSで「裏技」の募集をしていた女性を見つけて、十万円を支払って、変質者に襲われたところを助けてもらった、という設定で警察に向かった。

 そうして私はなんとか善行ポイントを貯めきったのだった。


 それから三年ほど経った後、自宅に税務署の立ち入りがあった。私は調べられても問題ない、と悠長にしていたのだが、調べ終わった税務署の職員が話しかけてきた。

「三年前に犯罪の抑止で善行ポイントを得ていますが、被害者の女性が何度も被害に遭っていたんです。それで調べたところ、「裏技」という言い方で、善行ポイントの不正取得をしていたようで……」

 私は一気に血の気が引いた。

「こちらのパソコンも調べさせていただきました。被害者の方のSNSのやりとりに使われていた内容と一致していることが先ほど確認が取れました。善行ポイントの不正取得で、追加課税となります」

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