20日目 広告病
過去の人からすれば、現代人は皆サイボーグに見えるかもしれない。怪我などで失った部位や先天的な障害箇所を機械で補うのはもちろんのこと、目を改造して同時に複数の情報を視界に表示させたり、身体の情報を管理させたりと、補助のための人体の機械化というのはもう一般的なことになっている。
その中でも視界表示の拡張は、もともと眼鏡やコンタクトなどで補助することに慣れていたこともあってか、特にメジャーな改造になっている。例えば、PCの情報を視界に表示させれば、ディスプレイモニターは不要となる。思考入力のアウトプットの補助もあれば、身体一つでどこでも仕事が出来るようになるのだ。
高校生にもなると、周りは視界拡張しているのが当然という雰囲気になっている。オレも高校生になったタイミングで視界拡張を行ったのだが、最近の学生にしては遅いくらいだ。
視界拡張を行った男子が最初に考えるのは、アダルトな方面である。視界拡張した状態で対応したコンテンツを表示させれば、相手がまさにそこにいるかのように見える。一度それを体験すると、元々見ていた動画などは味気なく感じてしまうそうだ。
未成年なので公式のものは買えないが、世の中には非合法のものが少し探せば出てくる。良いソフトやデータについては仲間内で密に情報交換されるものだ。
オレも、有力な候補を絞るところまではしたのだが、あと一歩インストールすることをためらっていた。世の中には広告病が流行っているのだ。
広告病というのは、視界拡張に特定の害をなすウイルスの呼び名である。その害とは、定期的に視界に広告が表示されてくるというものだ。広告の表示のされ方はウイルスによって異なるが、中央に大きく表示される凶悪な物もあれば、視界の端に邪魔にならない程度に表示される物もある。
広告が常に表示される物は少なくて、大抵は一定の頻度で表示されるものらしい。一定の頻度というのは、大抵の場合は一日に十回から数十回という程度なので、なんとか我慢できる程度になっているのが主流だ。
広告病は治療しようとすると高額になる。そういうこともあって、広告病になると、そのまま放置する人が多いようだ。特に学生のうちは、必要なコストみたいにされている。
対策としては事前に、セキュリティソフトの定期的な更新を行う事が一番なのだが、最新のウイルスには対応できないことも多い。
友人達はもう広告病にかかっていて、「べつに気にすることない」と言ってくるのだが、さすがにまだ視界拡張したばかりなので、オレは未だにためらっていたのだった。
そんな風に過ごしていた時の事、学校のスクールバスの運転手がいきなり叫び声を上げ始め、急ブレーキをかけた。立っていた生徒は倒れこみ、おれも前の座席に頭をぶつけた。
なにが起こったのかと思う間もなく、後ろから車に追突されたようで、もう一度衝撃が来る。
そうかと思うと、一緒に話していた友人も「なんだこれ!」と空中を見ながら慌てている。友人だけではなく、バスにいる多くの人がそうなっているようだった。
オレはとりあえず平気だったので、バスの中の倒れた人を助けに向かう。警察には電話はつながらなかった。運転手は話しかけても聞こえていない状態だったので、ドアを無理矢理開けて外に出たのだが、平気な人もちらほら見えるが、バス以外にも同じ状況の人は多いようだった。
後に聞いた話によると、このタイミングで世界的な規模のサイバー攻撃と、実際の武力侵攻が始まっていたそうだ。広告病には時限設定がされており、その時間になると視界の全てに広告が表示されるようになっていた。視界以外の拡張をしていた場合も同様で、聴覚を拡張していた場合には大音量が流れ続ける状態になっていたそうだ。
だが、その時のオレはその状態を知るよしもなかった。バスは学校間近まで来ていたので、オレは周りと協力しながら、一人一人を学校に連れて行った。
後日、事情が明らかになったところで、学校でのオレの株はにわかに上がりはじめた。
世の中では、広告病はアダルトコンテンツを見ている奴、という風に言われている。とあるメディアによれば、成人男性の80パーセントは被害に遭っていたらしい。ちなみに、比率は多少下がるものの、女性も結構な割合で被害に遭っているそうだ。
そういった風評に加えて、人によっては広告病のことがトラウマになってしまった人もいるらしい。確かに、動けなくなった人の姿は目を開いてまま動かない状態だったので、恐怖を感じてもおかしくない。
オレはバスから人を移動させたりしたことで、多少目立っていたこともあって、確実に広告病にかからなかった人、という立ち位置を手に入れた。その結果、女子からいろいろと絡まれるようになり、有り体に言えばオレはモテ始めた。
今回の広告病の被害が大きかったことで、非合法のソフトは駆逐されインストール予定の非合法ソフトが全て消失してしまった。それもあって、オレは現実に期待して頑張ることに決めた。
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