15日目 人の死なない戦争

 国際非戦争協定の成立は、人類が進化した証と言われる。協定の中で、参加国同士の戦闘行為は禁止とされ、人の殺傷が行われることはなくなった。その代わりに行われるのが、無人機同士による代理戦争である。

 無人戦争と呼ばれるその戦いは、民間人のいない地域で行われる。地域はランダムに決められ、定期的に入れ替わる。砂漠や森林など、その環境に適した戦いが出来るように、機械を選んだり、無人機の設定を更新したりすることで、戦闘の勝敗が決まっていく。

 勝敗の結果に応じて、敗戦国には一定金額の支払いや、一部地域の割譲が求められる。戦闘はそれまでの経緯や状況を加味して、平等な条件ではなく一定のハンデのようなものが着けられる。例えば、なにも由来がなく、一方的な侵略を行おうとした場合には、実質的に勝利が難しい状況となる。そのため、開戦にいたるまで、条件の調整や異議の申し立てが何度も行われることとなり、実質的に停戦状態となることも多い。

戦闘に使われる無人機や、それを扱う人の人件費は、当然かかる。その分は軍事費として当事国の負担となる。また戦闘時に使われる機械を扱うための技術力も求められることとなる。そんなわけで「無人戦争は、経済戦争の一つの形である」と言われる。


 私が、極秘任務を帯びて無人戦争の戦闘領域に侵入したのは、三日前の事である。

 戦闘領域への軍人の侵入は、非戦争協定の根幹を揺るがすが故に、明記されている禁止事項の一つである。しかし、我が国はそれをあえて破ろうとしているわけだ。

非戦争協定の理念は素晴らしい物かもしれない。しかし、弾丸ではなくとも人は死ぬ。今、我が国では食べるものがなく多くの人が死んでいっている。無人戦争と同じく行われている経済封鎖で、働こうと思っても働けない人も多い。

我が国からすれば、非戦争協定は強制させられたようなものだ。そうやって武器を奪い取られた上で、じわじわと苦しめられている状況は、かつての戦争よりも酷いものかもしれない。

国力が減らされているが、戦争を終わらそうと思えばより多くの支払いが必要になるせいで、無人戦争は止めるに止められない。今、本国では前回の戦闘から帰ってきた無人機の整備をしている。余っている機体はもうない。だが、今、相手側の一大攻勢を防がなければ、我が国にとっては致命的だ。

私の極秘任務の内容は、無人機のフリをして相手国と戦闘をすることである。

 有人であることを悟られないように、私は外で息をすることも出来ないし、食事や排泄もすべて機体の中で行っている。そして、最後は痕跡を残さないように確実に爆破して跡形もなく死ぬ必要がある。

しかも、私は軍人として死ぬわけではない。それどころか、その死さえ無かった事になる。なにせこれは無人戦争で、人が死ぬはずはないのだから。

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