6日目 マンション闘争と僕たち
白海地区には二つの大型マンションがあって、近くの似た存在という事でそれぞれ対抗心をもっている。子供が遊ぶ公園にしても暗黙にどちらのマンションのものか決まっているし、話すくらいはともかくマンションが違う同士で部屋に呼ぶのは厳禁ということになっている。
同じマンションの中にもカーストがあって、基本的には上層ほど強いということになっている。ルールを破ったときには、やんわりと上層からお達しが下り、マンション内でも仲間はずれにされることになるのだ。
そんな中で重要視される項目の一つが、子供の学力だ。同学年のマンションの子は把握されているので、成績や進学実績で争いが行われる。
うちの親はマンションの争いに積極的に関わっているわけではないのだが、このマンションにいる小学五年生の中で俺が一番成績優秀だったので、無理矢理関わらざるを得なくなってしまった。なんでも、全体を見るとうちのマンションは学力では負けていて、上層のマンションの人から強いお達しがあったらしい。
いわく、江藤嘉穂ちゃんに勝ちなさい、と。
江藤嘉穂は、相手側のマンションの上層の住人で、良いところのお嬢様なのだそうだ。(それぞれのマンションに住む人同士の生活レベルはおおよそ把握されている。)クラスでも女子の中心人物というポジションだ。うちは一般家庭だし、おれとしては比較対象にされても困る。
江藤との比較は学校だけだとお互い満点なので、塾に通わないといけない。お金が足りないので難しい、というと、どういう力が働いたのか、三ヶ月無料で行けることになった。これは正直言ってラッキーだった。学校の授業はつまらないけれど、塾の授業は楽しくて嬉しい。
塾は成績でクラス分けがされていて、おれはしばらくして一番上のAクラスとなり、江藤と一緒になった。
「このクラスに上がってくるの、早かったわね。大変ね、丸本君も」
「いや、おれは塾楽しいわ。江藤に感謝しなきゃいけないかも」
Aクラスには他のクラスメートもいないので、お互いのマンションのことなど考えずに話が出来た。江藤とは意外と話が合った。江藤も別に親に言われて勉強している訳ではなくて、単純に学ぶのが好きらしい。
無料期間が終わる間際の全国テストで、江藤より上位の成績を取ったこともあって、塾の無料期間はうまいこと延長された。うちの親もおれの成績の良さには喜んでいて、塾の代金も浮いたことだし、中学受験させても良いかもしれない、という話になってきている。
江藤とは良いライバルだったのだが、ついこの前付き合うことになった。
「丸本君とは話が合うし、良いかな、と思って」
本人いわく、成績で負けたことがきっかけだったそうだ。その上で、話が通じることと本を薦めたらちゃんと読んでくれることで、条件をクリアしたらしい。
付き合うといっても、学校では秘密にしているので、塾の行き帰りを一緒に過ごすのと、たまに勉強を一緒にするくらいのものだ。江藤は他のお稽古もあって、なかなか忙しい。
「うちの親は外だと、本人がのびのびやってくれれば良いんです、って言っているけど、家だと、今度は丸本君に勝ちなさいね! ってうるさいの。成績自体は伸びているのにね」
「うちの親はそんなにうるさくないかな。でも、その代わりにちゃんと自分でやらないと塾止めさせられそうだからな」
「え、それは困る。頑張って私に勝ってね!」
「うぜー」
江藤はたまに「うちの親に丸本君と付き合ってることを言ったら、どんな顔するかな」と言う。
「反対するのかな、やっぱり」
おれがそう言うと、江藤はニヤリとしながら口を開いた。
「あぁ、丸本君、なぜあなたはシティハイム白海に住んでるの?」
「語呂悪い!」
そんな風におれは突っ込んで、その後二人して笑った。
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