第17廻

 最近、廻の様子がおかしい。

 と言うのも、いつものあいつなら何かある度に俺に絡んでくるのが普通なのだが、最近はやけにおとなしい。ボーッとしていることが多くなっただけでなく、俺から話しかけても反応が薄い。

 

「なあ、廻」


「....ん、何....」


 こんな感じで生気を感じないのだ。

 絶対におかしい。こんな廻見たことがない。


「お前、最近どうしたんだ?元気が無さそうだが」


「はは...元気なんて、有り余ってるから大丈夫だよ。気にしないで」


 そう言って寝転がっていたソファーから身を起こし、リビングから出ようとする。

 扉にかけた手を、俺は無意識に掴んでいた。


「え、何....」


 廻は唐突なことに困惑していた。が、俺も困惑しているのだ。なぜこんなことをしたのか自分でもわからない。

 でも、なぜか行かせてはいけないと思った。

 こいつを一人にしてはいけないと。


「廻、何年も一緒にいるんだ、お前の嘘ぐらいはわかる。だからせめて、俺には頼ってくれ」


 心からの気持ちだった。そのことを真摯な眼差しで訴えた。

 廻の表情は以前困惑したままで何かに迷っているようだった。


「頼む。つらそうにしてるお前を見たくはないんだ....」


 そう言うと廻は、俺の手を振り払って再びドアノブに手をかけてこう言った。


「ふふっ。大丈夫。だいちが心配してくれるのわかったらなんだか嬉しくなっちゃった」


そう言って、小悪魔のような笑みでリビングから出ていった。

 そんな廻を見て、俺は胸を撫で下ろす。

 いつもの廻に戻ってよかったと。



 一歩その頃



「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ...」


 少女は1人、自室で大きなため息を吐いた。

 疲労によるものでもなければ、失敗によるものでもない。それは、少年を思うあまりに出たため息だった。


「いやぁ、あの顔は反則でしょぉ。あんな顔されたら嫌でも元気出さないとぉ...」


 と、あの顔を思い出すとベットでのたうち回ってしまった。


「はあ...自分に嘘はつけないなぁ。でも私は神様だから...一人だけを特別扱いするわけには...」


 自分のはわかっている。だからこそ苦しんでいるのだ。もういっそのこと、記憶を消してしまおうか。

 悩んだが、それはまだ早いと諦めた。


「それにしても、言わなくてよかったなぁ。言ったらぶん殴られたかもしんないし」


 そう言って一つの写真を眺める。

 それは推しのアイドルの写真だった。


「もーー!!なんで引退なんかしちゃうの?!まだ若いからこれからだって思ってたのにぃぃ」


 自分で言った、一人を特別扱いするわけにはいかない、というセリフを忘れたのかそのままふて寝をした。


 コンコン


「んー?なn」


「廻?少し、話聞いていいか?」


 全身をゾワッとした感覚が覆う。

 わかる。わかってしまう。この声はガチトーンだ。

 開けてはダメだ。絶対に。


「い、今ちょっと難しいカナ」


「そうか。お前のプリン食っとくわ」


「なあぁぁぁぁぁ!??!?!?!?」


 飛び起きて扉を開けるとそこにはニコニコしただいちがいた。が笑っているのは外見だけのようだ。


「やっと出てきたな」


「あっ」


「お前が落ち込んだ理由、アイドルの引退でいいか?」


 沈黙。だがこの状況では肯定の意となってしまう。何かうまいこと誤魔化せないか頭をフル回転するも解決策は出てこない。そうしてる間にタイムリミットがきてしまったようだ。


「1週間飯抜きな」


「それだけはご勘弁を!」


 こうしていつもの喧しい藤原家が戻ってきた。









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幼なじみは神様です(?!) @kerokero9

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