第16廻


「「綾、これだけは覚えておけ。」」


 ある日、祖父は私にこう言った。

 だが何も知らない私には、一体なんのことだかわかりもしなかった。


「「アクタガミ?」」


 聞きなれない言葉を反芻し、再度確認する。アクタガミ。やはり、聞いたこともない。


「「ああ。アクタガミだ。そういう苗字の奴らがいる。」」


 変わった苗字。当時の私にとってはその程度の認識だったのだ。祖父の怒ったような顔を見て思わず


「「じいじと仲が悪いの?」」


 と、聞くと祖父は、一瞬黙って答えた。


「「そうだ。特にの奴とは特にな。」」



 この会話をした数日後、祖父は他界した。

 病でもなければ事故というわけでもない。ただの寿命だ。

 しかし、私にはどうにも怪しいと感じるものがあった。そう、アクタガミだ。

 最後に祖父が話していたアクタガミ。関わるなと言われたが好奇心が勝ってしまった私は、父にアクタガミについて聞いてみた。

 しかし、父はおろか母そして、祖母すらも知らないらしい。

 結局アクタガミがなんなのか、それについてわかることは一つもなく、私の記憶からも薄れていた。




「綾〜?どうした?急にボーッとして」


 そして、今。私の目の前には紅い髪のアクタガミの苗字の友達がいる。

 彼女は、とにかく明るく周りに人が集まる子だと思う。それに妙におかしな言動からか注目を集め、大地君がそれを収めるのがいつもの流れだ。

 高校に入って初めての友達。

 最初は疑う気持ちしかなかったが、今となっては彼女達と過ごす時間がなによりも楽しい。

 いずれ彼女にも問わなければいけないのだろう。私の祖父との関係。アクタガミとはなんなのか。

 知りたいことはある。だが、今は違う気がするのだ。

 だから、神様。

 もう少しだけ、この日々を壊さずにいます。






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