第11廻
朝日がカーテンの隙間から部屋に差し込む。
なんと気持ちの良い朝だろう。まるで、目覚めを世界が祝福してくれているようで、俺は少しだけ気持ちを落ち着かせることができた。
さて、昨日。あの後、気づけば自分の部屋にいた。またもや神の力とやらに違いない。
だがそんなことはどうでもいい。問題は部屋に飛ばされる直前にした、あの、あの。
「だあああーー!!???」
思い出すだけで顔から火が出そうになり、唇の感触もより鮮明になる。なんだというのだあのハレンチ女...ハレンチ神は。
「俺のファーストキス...母さんにもしたことないのにぃ」
そう、俺は昔からキスというのが恥ずかしくてできなかったのだ。家族にする親愛を示すキスでさえだ。いや、しょうがないだろう。だって俺が教えられたキスってのはさ。
『はあ、キス。所謂口づけ、というものですか。それは○☆♪→¥$€%°#*な時にするものですよ』
これだよ?ひどくない?中学に上がるまでずっとこうやって信じてきたのにさ。本当、あの人は子供にも包み隠さずに伝えるからなぁ。
「だーいち、おはよう!」
「...おう、おはよ」
廻はいつもと変わりない様子で、俺に接してきた。だがそれに対する俺の反応は少しそっけないだろう。昨日、あんなことをされては誰でも動揺する。
というのに当の本人はまったく気にしていないようだ。そんな姿を見て、俺はキス程度で動揺しまくっている自分がバカらしくなりいつものように調子を戻すことにした。
しかし、一方で神様の方はというと。
(あああーー!!!???何してんの昨日の私ぃぃぃ!!!!恥っず!マジで恥っず!!なーにが"特別だよ"なの?!痛い痛い痛いぃぃあああ??!!?!!)
と、このように。神様とは到底思えないぐらい、内心すごい焦り散らかしていた。そんな心情でも、なんとか感情をコントロールすることで挨拶ぐらいはできるが、会話となると話は別だ。まず、平常心を保てない。というか既に目すら合わせられない。
「廻〜?どうしたそんなキョロキョロして?」
「はっ、ひゃっ?べ、べべべべつに?なんもないともそうだとも!あーいや!今から美春さんを起こしにいこうかなと?!」
藤原大地は見るからに焦りまくっている芥神廻を見て、こう思った。
(こいつやっぱり昨日のこと気にしてるだろ)
正直ちょっと面白いのでこのまま放っておくのも一つの手だろう。だが今は少しでも廻をからかいたいので、こちらから仕掛けることにする。
「あー、廻?美春姉さんは早朝から出張に出かけたからいないぞ?」
「?!??!!!???」
既に笑い出してしまいそうだがなんとか堪える。まだ弄れるぞこれ。
「なぁ、廻。昨日の、ことなんだがな」
「はぁぁぁーーー!!!!」
突如奇声をあげたかと思うと廻はそのままリビングの床に倒れ込んだ。そして、なにやら指で自分の頭を強く、コーンと打ったかと思うとそのままグッタリと動かなくなった。
「え、死んだ?」
「いや!生きとるわーい!!」
よかった、あまりの恥ずかしさに自決を試みたのかと勘違いした。
「てゆーか!って。ん?何何?」
「お、どーした?そんな頭をさすって」
「...あー、なるほど。大地。本当に突然のことだが、聞いて欲しいことがある」
次の瞬間、廻はとんでもないことを発した。
「どうやら、私は自分で自分の記憶を消したらしい」
「...はい?」
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