第10廻

「悪い...神様?」


 廻の口から出てきて言葉に違和感を覚える。

 それも当然のはずだ。

 。これは俺の勝手な思い込みかも知れない。だが現にそうなのだ。美春姉さんも同じことを思うだろう。

 コイツはイタズラはする、だが所詮はそれの域をでない。困っている人がいれば当たり前のように助けるし、悲しみに明け暮れるやつがいればずっと側で寄り添う。当たり前のようで難しいことをやれるのが廻だ。

 しかし、廻の声色から察するにコイツは自分のことを悪いと思っているらしい。


「なあ、それって本当に仮定の話か?」


 返事は無い。だがそれが答えのようなものだ。もし、などと言ってはいたがどうやら本当のようだ。


「...質問に答えて」


 急かすように廻は言う。表情が見えないからか廻の真意が読めない。果たしてそれを聞いてなんになるというのだろう。


「そうだな、悪さのレベルにもよるかな?」

「悪さの...レベル、か」


 周りの声が困ったような声色に変わる。よほど答えたくないのか、答えるまでに少し時間がかかった。


「人を殺す、ぐらいだよ」


 信じられなかった。信じたくもなかった。けれどあまりに悲しい声で、そう呟くから信じてしまう。いま廻が言ったことは嘘じゃない。幼なじみだからそれぐらいわかる。

 廻は、過去に人を殺しているのだ。


「そっか。そうか。そうだな」


 あまりに突然すぎるから反応にも困ってしまう。幼なじみの唐突な殺人CO。当たり前だが経験のないことだ。


「ごめんね、急にこんなこと打ち明けて。それで...答えは決まった?」

「...ああ。悪いな。こんなこと言うのもあれだが、俺の答えは初めから決まっている」


 例え、幼なじみが人殺しだとなんだろうと。


「俺はお前が何をしようと。お前のことを」


 いつか、だとしても。


「幼なじみだと思っている」




 その言葉でどれだけ救われただろう。

 君が事実を知らないとはいえ、そんなことを言ってくれるだなんて、思っていなかった。

 重い体からストンと何かが落ちた気がする。赦されたわけではない。赦したわけでもない。けれど、たった一人にここまで救われるなんて。


「そっ、か...は、ははは。あれ?なんでかな、急に涙が...」

「そうか...ってなんで?!」


 安堵からか涙がポタポタと頰を伝って、落ちていく。この空間は部屋とは別物だから問題はないけれど。


「廻?大丈夫か?」

「ん、平気だよ」


 過去を払拭したくて、現世で人助けを頑張ってきた。けれど過去の罪から逃げることはできなかった。向き合うことができなかった。

 けれどこの人のお陰で、私は。


「だいち、こっち向いて」

「え、なっ、に」


 唇を重ねる。その行為が意味するのは好意を示すこと、そして、愛を伝えること。


「ふふっ。神様の口づけ。特別だよ」



 



 













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