第9廻

 ベッドに身を沈めて、深い後悔に私は苛まれている。なんであんなこと、聞いたんだろう。私でも、他の人間でもわかってしまう。私がしたことは愚行だと。本当にその人のことを思っているのならば、私は身を引くべきなのだ。神と人、そのような異類婚姻譚は昔からよく書物に綴られてきた。だが、あれは現実ではない、虚構、ようは妄想なのだ。


「...それでも、私は...」


 眠るように瞼を閉じて、彼の顔を思い浮かべる。くすぐったいような、暖かいような、そんな感覚。

 仮にこの気持ちを伝えたとして、彼はどう思うのだろう。わからない、だからこそ怖い。

 心のどこかでは、受け入れてくれる彼を信じていて、またどこかでは、頑なに拒否する彼を受け入れていて。

 何故、彼と関わってしまったのか?

 大地、キミなんかと会わなければ、私は苦しまずに済んだのかもしれないのに。




 風呂から上がるとリビングにはぐったりした美春姉さんがソファーに寝そべっている。だがそこにいるはずのもう一人の姿が見当たらない。


「あれ?姉さん廻がどこ行ったか知らない?」

「...........」

「姉さん?」


 返事が無いので呼びかけるが、またもや返事が返ってこない。不安になり、顔を覗き見てみると、どうやら疲れて眠っていたようだ。

 無理もない。仕事で疲れた上に、家に帰ってみれば甥っ子とその幼なじみが一緒に眠ろうとしていたのだ。精神的な疲れはかなり溜まっているだろう...いや、それだけであんな勘違い起こすか普通。

 心の中で冷静にツッコんで、起こすのも悪いから一人で家中を探し回ってみることにした。

 

 トイレ、風呂、物置、玄関、どこにもいない。念のため2階にある俺の部屋...の布団も探したがいない。結構自信あったんだけどな...。

 さて、残すは目の前の部屋。俺の部屋の隣に位置するここは、

 まあ最初からここだろうなと目星はつけていた。なぜならこの部屋、今は廻の部屋となっているからだ。

 入る前にノックをして、最終確認をする。


「...どうぞ」


 ビンゴ。いやもうわかってたんだけどね。

 廻の許可も得たので遠慮なく部屋へと入り込む。


「は?」


 思わず驚嘆の声がでる。なぜならはずの部屋が無い。模様替えとかそんなものではない。部屋にあたる空間が一面真っ暗闇なのである。

 踏んでいる床の感触はあるが、それすら見えないのだ。


「嫌だっ!なにこれ!ちょー怖い!」


 わざとらしく驚いたふりをするが一向に部屋は元に戻らない。


「廻?」


 いるであろう部屋の主に語りかけるも返事がない。一寸先すら闇に包まれた部屋では廻の姿すら見ることができないのだ。ので、勘を頼りに少しずつ滑るようにして、歩みを進める。


_____バタン。


 一瞬、扉の閉まる音が聞こえたかと思うと同時に部屋が真っ暗になる。次の瞬間、誰かに抱きつかれた。


「廻、か」


 不思議な話だがこの時の俺は、ひどく落ち着いていたのだ。恐怖や驚嘆の感情すらなく淡々と俺は廻に話しかける。


「なぁ。どうした?こんなことして。ひょっとして俺刺されちゃったりする?」

「....一つだけ、答えて」


 重い口調だった。廻にこんな声が出せるのかと本気で驚き、そして真剣な話だと認識する。

 廻は、俺の了承を得ることなく本当に一つだけの質問をした。


「もし私が...神様だったとしても、幼なじみでいてくれる?」


 




 


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