第8廻
湯船に浸かる。この経験をしたことのない日本人は居ないはずだと、断言できる。それほど我々と風呂は切っても切り離せない関係なのだ。
この際、言ってしまおう。この行為が意味するのは、とどのつまり業務の終了だ。
だが、一口に業務とはいっても、様々なものがある。
勉強、仕事、用事、家事、その他諸々etc.
どれも聞くだけで、体の具合が悪くなるようなものばかりだ。しかし、生きていくにはどれもこなさなくてはいけない。眠い瞼を擦り、気だるい身体を無理にでも動かし、それらの業務を終えて、蓄積された疲れを癒す。その大役を担うのが、風呂なのだ。
「ふうぅぅ~~・・・・」
湯船に身を沈め、疲れの籠った息を吐く。
これから先、間違いなく俺の日常は失われる。
ほかでもない、廻によって。
「だいち、もうちょいそっち詰めて」
そう、こんな風に。
「…はああー--」
一体どこからツッコめばいいのだろう。
互いに背中を合わせているというのが唯一の救いである。しかし、それでも心もとないので目を瞑ってなんとか場を凌いでいる。
なんと言おうが、廻がおとなしく浴室から出ていくとは思えない。
もう面倒くさいので力ずくで、という手段もあるにはある、が、なんせ廻には神の力?とかいう謎パワーがあるので一筋縄ではいかないだろう。
実際に、今日だけでも気配遮断や瞬間移動など科学的に説明できないことを平然とやってのけている。
「…なあ、どうやって入ってきた?浴室のカギはかけたはずなんだが」
「んー?ああ、あれなら開いていたことにしておいた」
「なんだそりゃ?」
言い方からして過去改変でもしたかのような言い草だ。もしそれが本当ならとんでもない事である。
「なあ、だいち」
「んー?」
「さっき言ってたやつな、あれって...いや、なんでもないや。ごめん」
そう言った途端に、背中から伝わる感触が消えたことに気づいた。
恐る恐る振り返るがそこには誰もいない。
「何がしたかったんだ、アイツ」
全く神様というのはわからないものである。
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