第4廻
「はあぁぁ〜〜...マジムリィ。尊すぎるヨォ」
俺は何を見ているのだろう?言葉に表すのなら推しの姿を見た途端に、発狂しながらのたうち回る神様、といったところだろう。
アイドル好きの幼なじみな神様って属性てんこ盛り過ぎではなかろうか?
「…それにしても、このテレビの女の子。なんか見た気がするんだよなぁ...」
「まっさかー?気のせいだよー気のせい。大体こんな綺麗な娘がしょっちゅういる訳ないし」
「それもそっか...」
それにしては妙な既視感だ。まるで何回も会っているような気がする…うん、気のせいだな、この事は忘れよう。
「それにしても廻。お前が今着ている服はどっから持ってきた?」
「へ?」
彼女の着ている服は、ただの青いジャージと半ズボンだ。それはいい。だが胸の部分には、黒の刺繍でわかりやすいように藤原、と掘られている。
「いや、お前のジャージと半ズボン借りてるだけだぞ?何も問題なんて無いだろう?」
「それはそうだが...そうじゃないんだよ」
神様とはいえどその容姿はアイドルにだって負けてはいない美少女だ。普段は意識しないようにしているが、ふとした拍子に女の子ムーブをかましてくるので油断ならない。現に今まで何回も致命傷を負ってきたのだ。
そして今。自分のジャージを美少女が身に纏っているという事実。これがなんとも言えないもどかしさを醸し出しているのだ。嬉しいような、恥ずかしいような。
「あのな廻?服なら美春姉さんのを借りればいいじゃないか。わざわざ俺のにする事ないんだぞ」
それに俺のジャージなんかは廻が着るには大きい。廻と俺では体格に大きな差があるのでそれも当然なのだろうが。
「んーでもね。問題があるんだ」
「問題?」
次の瞬間、廻の瞳から光が消えた。まるで全てを飲み込まんとするまでの漆黒。ブラックホールのようなその瞳に気圧されていると廻は話し出した。
「美春さんの服ね。なんかブカブカなの…。特に前の方が」
「...あっ(察し)」
そう、気づいてしまった。単なる服のサイズの問題ではないことに。
廻は顔は美少女なのだが…いかんせんスタイルがスレンダー過ぎるのだ。特に胸部の辺りが。
こんなことを気にするなんて。神様である廻にも人間っぽい一面があるのだなぁ、と何故か感心していると、廻は一歩、一歩、また一歩とジリジリとにじみ寄ってくる。目には暗黒を灯したまま。
「まっ、廻?何でこっちに来るんだ?」
「わざとでしょ?」
「は?」
「わざとこの
「なっ?!ち、違う。俺はそんなつもりじゃ」
実際こんな事になるとは思ってもいなかった。俺は見えている地雷を踏みに行くほど
「(クソっ!今までそういう話をしてこなかったせいだ!……いやそもそもこんなセクハラ紛いな話、いくら幼なじみでもしないよな?!)」
そんな事を考えている間にも廻はこちらへ近づいてくる。なんか廻の背後からドス黒いオーラが溢れているのだが…幻覚か?
「知らなかったじゃ済まされないよ。大地、いい事を教えてあげる。無知は至上の罪だよ?」
そして、間もない距離まで互いが接すると...急に押し倒された。
あまりに急な出来事のせいで思考が混乱している。状況を整理すると、仰向けに倒れている俺の体に、廻の小さな体がのしかかっている状態だ。
側から見れば中々、凄い現場だろう。男と女が2人っきり同じ屋根の下。何も起きないはずがなく。
「…廻さん?」
返事は返ってこない。その代わり返ってきたものがあった。
「zzz〜zzzz……」
あ、こいつ寝てやがんなふざけんな。なんも無かったわ、畜生。
さっきまでの気迫はどこに消えたのか。もうここにあるのはただの幼なじみの姿だけだった。
安堵と疲れの混ざったため息を吐く。
「(今日は色々ありすぎて疲れた。廻を起こすのも面倒臭いし俺もこのまま寝るか)」
ドサッと荷物が床に落ちる音が聞こえた。
何事と思いつつ、音のした玄関の方を見ると...美春姉さんがそこにいた。
信じられない、と驚いたような表情で、空いた口を手で覆っているような状況だ。
「………失礼しました」
そう言いながら扉を閉じていく美春姉さん。
嗚呼、誤解だ。そうだ、弁解しなきゃ…。
疲れからか、深く微睡んでいく意識の中、大地はこれまでの人生の中で、最も死にたい瞬間を覚えた。
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