第3廻
「たっだいまぁーーー!!!」
「…ただいま」
玄関の扉を開けると同時に、家中に響き渡る声で廻は叫ぶ。
「…廻、美春姉さんならまだ仕事だ」
「あらっ?そうなの?美春さんいないのかー」
そう伝えた途端に落胆する様子を見る限り、どうやら2人の関係は良好そうだ。
ちなみに補足しておくと、美春姉さんとは俺の母親の妹にあたる人だ。美春おばさんと呼ぶのが正しいのだろうが、俺は二度と修羅を見ないと決めているのでそんな真似は絶対にしない。
そうして廻はトボトボとソファーに歩き始め、荷物を放り出すと身を投げるようにソファーに倒れ込む。
「こら廻。グータラするのは荷物をキチンと片付けてからにしろ」
「えーメンドくさい。大地やっといてよー。私テレビ見てるから」
そうして床に落ちているリモコンを拾うのを確認すると、俺はニヤリと笑った。
「んーー。あれ?リモコンが反応しない...ッッッ!!大地!まさかお前」
「ああ、そうだ。お前がソファーに向かっている間にリモコンの電池を抜かせてもらった!」
これ見よがしに電池を掌の上でかざす。
なんとか腕を伸ばして電池を取ろうとする廻を嘲笑う。
「ハッハッハ!これが欲しければ荷物を片付けた後、着替えて手洗いうがいをするんだなぁ!」
「クソっ!返してヨォ!私の大事な大事なモノなのにぃ!うわぁーん!」
「ちっとはマシな演技しろよ。演劇部1日目のヤツの方がいいもんできるぞ」
「ちょっと待って?それって遠回しに私の演技力がカスって言いたいの?」
「お!よく気づいたな。褒美として学校で言ったバカってのは撤回してやる」
「全然嬉しくないよっ?!どっちもどっちじゃん!」
午前だけとはいえ、慣れない環境、新高校生、廻の存在と。今日溜まった疲れはなかなかのものだ。廻をサンドバックにして発散してもバチはあたらないだろう。
と、そこで気づいた。手のひらにあるはずの感覚が無いのだ。具体的にいうと電池が...
「おや?だいちくぅ〜ん?君が探しているのはコレ、カナ?」
そう言って廻が持っているのは、俺が持っていたであろう電池だ。
「お前っ!いつのまに?!」
「フッ。君が瞬きした瞬間にだよ」
いや、おかしい。まず瞬きほどの短い時間で行動するのもおかしい。それに廻と俺の距離は大体3メートル離れているのだ。物理的に無理がある。
「…ちなみにどうやって取った?」
「え、神様的な力を使ってこう、エイッ(婉曲表現)て...」
神様の力ってすげーー!
などと心の中で素直に賞賛しておく。うっかり口に出したりするとすぐに調子に乗るからだ。
まぁ、電池取られても問題ないんですけどね。
「さーて。それじゃあ早速…って何でつかないの?!電池は入ってるし、テレビの電源もついてる。なのになんで……ッッッ!ま、まさか」
「お前の思っている通り、その電池はもう使えないんだよ」
「あーーー??!!??!!??!」
急に発狂したと思ったら今度はバタンと頭だけ倒れた。全く元気な神様だ。
「うぅっ。もうすぐ、もうすぐ推しのアイドルが出る番組が始まるのにっ!」
こいつ推しのアイドルなんていたのか、とかなり驚愕している。いや、ほんとに。
普段そんな素振りを見せないからか、その事実に驚きしかないのだ。俺、本当にこいつと幼なじみなんだろうかと疑問さえ湧いてくる。
「うぅっ。三度の昼寝より!三度の風呂より!三度の飯より!楽しみにしてたのにぃ!」
ガチ泣きしている廻に若干引きながらも少し可哀想だと感情が湧いてくる。
「ほらっ。さっさとやることやれ。終わったら新品の電池だしてやるから」
そう言うとパッと顔を上げて、まるで神様でも見るかのような表情になる。そして小さい声で「ほんとう?」と聞いてくるので「もちろん」と返しておく。
すると目にも止まらぬ速さで洗面台の方へと向かい、すぐに水を出す音が聞こえてくる。
「(あいつこういう時だけ行動早いよな)」
手洗いとうがいが終わったのか荷物を取りにリビングまで来ると...何故か嫌な予感がした。
ちなみにだが俺の嫌な予感ってのは絶対にあたる。唯一の救いなのはそこまで深刻な問題が起きないってことだ、良かったね。良くない。
「あっ着替えもだ」
「えっ?」
俺は何のことだと思っていると、廻は急に制服のボタンを外し始めた。ボタンの外れた制服から綺麗な白色の肌が見えて………こいつ肌着着てなくね?
「ここで着替えんじゃねぇええええ!!!!」
そう言って部屋を飛び出した。
バタンと部屋の扉を勢いよく閉じてから言いたいことを言った。
「お前っ!!肌着って知らねーの!?!?」
「大地」
「なんだよ?!」
「私は肌着着ているぞ」
ん??つまり、それって……
「つまりだな、お前が勝手に勘違いしたd」
「ああああああ!??!??!???!」
我ながらなんと無様という文字が似合うのだろうと思ってしまった。
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