第2廻

 神様っていうのがいるのならどんな姿なんだろう?

 だれもが一度は考えることのはずだ。

 人間に近い姿、動物の姿、はたまた星がそうだと考える人もいれば異形のような姿だと考える者もいる。

 どれも正解なんだろう。正直この問いは人の数だけ答えがあると思う。

 だが、神様なんていない、といった答えは否定しよう。何故なら、そう。僕の隣には神様がいるのだから!


「zzz…zzzz………」


 そこには、俺の机で寝ている神様(自称)の姿があった。

 俺は、無防備に晒されている後頭部に向けて、割と強めにチョップをした。


「イッタ?!ちょっと!急に叩いてきてなんなのさ?」

「この下り数時間前にもやったよな?だいたいその席は俺のだ」

「だからなんなんだよ〜。少しの間ぐらい貸してくれたっていいじゃあ〜〜ん」

「わかった。ならもう少し寝てるといい。俺は帰るからな」

「わ〜い。ありがと……う?」


 廻は再び寝ようとして、そこで気づく。"帰る"

というワードが含まれていることに。

 慌てて教室の時計を見るともう既に、今日の下校時間を過ぎていた。


「それじゃあお疲れ。また明日な」

「待ってよ大地ーーーーー!!!!!!!」


 誰もいない教室に悲痛な叫びが轟いた。





「いやぁーー助かった。大地が起こしてくれなきゃ夜まで寝てたよ。それにしてもいつ終わったのやら」

「お前が寝ている間に終わったんだよ」


 帰宅路で他愛もない会話を二人は膨らませていた。

 事実、朝の件以降こいつが起きているところを一度も見ていない。授業中に限らず、休み時間の間すら、ずっと眠っていた。ここまでくると何故、先生にバレないのか疑問に感じる。

 そこで思い切って聞いてみることにした。


「なぁ廻。なんでそんなに寝ていてもバレないんだ?」

「んーそれはね、ヒ・ミ・t」

「とりあえず先生にはチクッといてやるから安心しろ」

「....ただ私の影を薄くしているだけだよ」

「なるほど…そういうことか(棒)」


 返ってきた返答は随分シンプルかつ、わかりにくいものだった。

 思わず、廻が適当に返しているのではないかと疑っていると、コチラの心を読んだかのようにその方法について淡々と語り出した。


「存在感ってあるよね。あれ実は消せるんだよ。その場の大気と一体化することで自身の呼吸、存在、魂とかいったものをその場にあって当たり前のものにするんだ。だから私が寝ているのは"当たり前"のことであっておかしいことじゃない。自身の存在があるなんてそんなの当然と思うかもしれないけど、大概の人はこれを無意識的に認識してるからダメなんだよね。要するに空気に溶け込む……みたいな感じかな」


 いつものヘラヘラした感じとは大違いな様子で真面目に語り出す廻。そんな廻を見て、俺は思ったことを口に出す。


「お前そんなキャラだっけ?」

「私も何言ってんのかよくわかんなかったよ」


 ハッハッハと互いに高笑いした後、疲れたのかどちらも死んだような表情となり、その後の会話はとにかく酷いものだった。





 そんなこんなで、やがて分かれ道に着いた。家の地理的にも俺と廻はここで別れる...はずなのだが。


「お前なんでこっち付いて来てんの?」

「んーー?」


 廻は俺と一緒の方へと曲がっていた。互いに家の場所は反対だ。にも関わらず、廻は俺の隣にピッタリとくっ付き楽しそうに鼻歌を歌っていた。


「あっ、そっか。そういえば大地には伝えてなかったね」


 廻はまるで、輝く太陽のような笑みで、こう言った。


「私、今日から大地の家にことになったから」


 ピタリと足が止まる。足だけでなく体全体が錆びついたように固まった。

 なんとか首を廻の方へ向けて、念のため空耳の可能性を信じて一応確認のために、もう一度聞いてみる。


「住む?泊ま、るじゃ、なく、て?」


 出てくる言葉すら錆びついてしまっている。これは重症だ。お願いだから神様否定してください。


「うんっ!今日から家でも一緒だよ」


 そうだ。神様ってこいつのことだったチクショウ。

 




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