幼なじみは神様です(?!)
@kerokero9
第1廻
桜が咲いている。
並木道に沿ってずっと、ずっと先まで花びらの雨が降っていた。
俺はそんな雨の中を、傘もささずに新しい制服を身につけて進んでいる。そんなもんだから、体はすっかり桃色の花びらで濡れてしまった。
周りには自分と同じような学生が多数いた。
周りから聞こえる歓喜の声、溢れんばかりの笑顔。その一つ一つに希望が溢れている。
俺はそんな様子を見ながら「うらやましい」とだけ思い歩を進める。
そうして歩いているうちに見えてくるものがある。
新しき我が
そうだ、俺は今日からここの一生徒となる。
そして楽しい平穏な高校生活を送るのだ。
校門をくぐると、そこからは部活の勧誘やら生徒会らしき集団の挨拶やらで一気に騒がしくなった。何やら先の方が騒がしい。
目をやると円を描くように、謎の人混みができている。部活の勧誘にしては人が多すぎる。何があるのか少し興味があるので人混みを掻い潜り、中を見る。
「君たちっ!私を信仰してみないか!!!」
なんか居た。艶やかな紅色のワンサイドアップな髪型。非常に整った顔つきだがまだあどけなさが抜けていない。要するに子供っぽい顔つきだ。小さい子が一生懸命偉ぶってるようにしか見えない。
普通ならおかしな人がいる、で済むのかもしれない。だが問題なのはその顔を見知っているということだ。おまけに変なこと言ってる。
彼女の名は、
「私を信仰すればいいことがあるぞ!例えば宝くじが当たったり投資が上手くいったりFXで儲かることができたりするぞ!」
ご利益が全部金運なのは、きっと本人の性格が出ているからだろう。しかも一般高校生はそんなギャンブルみたいなことはしないだろうに。ともかく今、こいつとだけは他人のふりをしなければならない。さもなければ変人の友人といういかにも変人なポジションに収まってしまう。
そう思い、そっとその場を離れようとした。が、今日は厄日だったようだ。偶然視界に映ってしまったんだろう。大きな声で呼び止められた。
「あーー!!
「ごめんなさい。人違いだと思います」
「?何言ってんだお前?大地は大地だろ?
速攻で否定したのに更に否定された。ああ、そうだよ。お前の幼なじみの大地だよ。
周囲の目線が自分に釘付けになっていることに気がつく。入学初日から変人の友人などという烙印を押されるなんて絶対いやだ。
人混みの中から、なんとか隙間を見つけるとその中へ滑り込むようにし、そこを離れる。
「あ!大地!待ってよ〜〜〜!!」
とにかく走った。急いで下足場前にあるクラス割を確認し、クラスへと全力疾走した。
そうして今、自分の席にもたれかかっている。
どうして朝からこんなことになるんだ。俺はただ学校を楽しみたいだけなのに。
さっきから廊下を通る生徒全員が俺を見てくるのはきっと気のせいだ。そういうことにしたい。
アイツはきっとまだ、何か適当なことを言っては信者を増やそうとしているんだろう。ああいう演説なんかには一人や二人くらい場を茶化す輩がいるはずなのだが。なんせ言っていることがカルト宗教の勧誘よりも酷い(クオリティ的な意味で)うえ、本人は至って真面目なもんだから誰も何も言えないのだ。
けどもう問題ない。朝からアイツに会うのは不幸かもしれないがまさかクラスが一緒になるなんてこと
「おっはよーーう!!!」
意図せず建てたフラグを全力で回収してしまった。自業自得かもしれないが神様、俺はあんたを一生恨むぞ。
ズカズカと偉そうに教室に入り込んできては教室内を物色するように見回す。
目が合った。
途端、その目をキラキラとさせながらスキップで近づいてきてこう言った。
「大地!これからも、よろしく頼むぞー!」
「ああ、こちらこそ」
互いに拳を合わせながら、挨拶を行う。その姿は、互いに信頼し合っている相棒同士のようだ。
「じゃ、ねーーんだよぉぉぉーー!!」
そんなことは無かった。
「なんなんだ!さっきのは!?カルト宗教の勧誘じゃねーんだぞ?!しかも高校初日からとか。バカじゃねーの?」
「何ッ?今、お前バカって言ったな?言ったよな?もう許さん。お前の家にカルト宗教みたいなポスターいっぱい貼ってやる!!」
「やめろバカ!だいたいバカなのは本当じゃねーか!どうやってこの高校入ったんだ、お前?」
さっき、爛星学園はそこそこの学力と述べたがあれは全国のトップレベルの高校と比べたときだ。実際には上の中の中と普通にレベルは高い。
そして廻は本当にバカだ。稀にも見ないぐらいバカだ。これは普通に下の下の下ということである。中学の時、「修飾語?ナニソレ?三角形の合同条件?三角は三角でしょ?あ、英語はできるよ!I'm apple!」
と義務教育完全敗北発言を残したのはいい思い出だ。
「え、?」
「は?だからお前どうやってこの高校入ったんだよ?」
「大地」
「なんだよ?」
「うるさい」
さっきまでキラキラしていた瞳から完全に光が消えていることに気づいてしまった。ハイライトの消えた瞳がこれ以上の詮索はヤメロと訴えかける。どうやらこの事は完全タブーな話題らしい。
「そんなことより!また一緒のクラスだね!」
「...ああ」
そうだ。中学三年間こいつに付き纏われ、クラス内では変人の友達の変人などと、混沌としたあだ名をつけられた。
でも、人付き合いが苦手だった俺は廻のおかげでコミュニケーションが取れるようになった。正確には廻の友達が俺にも話しかけてくれるからなのだが。
「あれ、大地どうしたの?あんまり元気がなさそうだけど...」
「お前のせいだよ。オ・マ・エ・の・セ・イ。朝からなんつうもんを見してくれてんだよ」
「いやぁ。メンゴメンゴ!」
「大体なぁ...」
周りに人がいないことを確認し、声を抑えて話す。
「お前、自分が神様なことがバレたらやばいんだろ?なんで自分から危険な橋を渡ろうとすんのさ?」
芥神廻、彼女の正体は神様だ。
具体的にどういう神様とかは知らないが昔はこれでも名のある神様だった...というのは本人の発言だ。だからあまり信用していない。
「ちょっ!?こんなところで言うなよソレ。もしバレたら私、泡になって消えるんだぞ」
「どこの人魚姫だよお前」
「ともかく!学校でこの話はよしてよ!」
「おぉ。わりぃわりぃ」
頬を膨らませ、ムスッとした態度をとる廻は少しだけだが可愛いと思う。ただし、この可愛いはペットに向けるような愛玩の可愛いであるが。
と駄弁っている間にクラスに人が集まってきた。初対面同士の多い中で二人だけ騒いでいると悪目立ちしそうなので廻にジェスチャーであっち行けと送る。
手の動きで理解したであろう廻は渋々と自分の席へ帰った。そして座って一秒程度で机に突っ伏す。
体が呼吸に合わせて小さく揺れるところを見るに、どうやら寝てしまったようだ。入学初日から睡眠をカマすとかどんな精神構造してんだアイツ。
そこから先生が来るまでは特に目立った事はなく、高校最初のホームルームが始まった...のだが早速マズいことになった。
廻が、まだ寝ている。
気づかれないのは先程とは体制が変わり、座った状態で俯いているからだ。一見、寝ているようには見えないが時間の問題だろう。
そのまま寝かせておけばいいじゃないか、と思うかもしれないが確かにその通りだ。寝ているアイツが悪いのだから気にする必要はない。だが廻は幼なじみだ。それだけでアイツを気にかける理由ができてしまう。正直に言えば初日から目立って欲しくないのだ(手遅れ)。確実に俺にまで被害が出る。
だから俺はアイツを救わなければならない(起こすだけ)。
そんなことを考えている内に担任は挨拶、自己紹介を済ませてしまった。どうやら次は生徒一人一人順番に自己紹介をするらしい。
...あれ、これ出席番号順じゃね?あいつ確か1番だったはず...。
「先生!頭が痛いので保健室に行ってもいいですか!!!」
「別に構わんが...頭が痛い割には元気そうじゃないか?」
「そんなことないですッッッ!!!」
「おっ、おう。わかった。付き添いとかいるか?」
「一人連れて行きます」
担任に気づかれる前に廻のそばへ近寄る。かなり大きい声を出したはずなのだが、こいつは全く動じていない。むしろ体制が崩れかかっているところを見るに、眠りはより深くなっていそうだ。
「廻、ついてこい」
椅子から無理矢理立ち上がらせると廻の手首を掴んでそのまま引きずって教室を出た。
さて。場所は変わって、ここは屋上である。
なんで屋上に来たかというと、人が来ないような場所を考えた結果、屋上ということになったわけだ。
ちなみに廻はというと。
「うー...にゅはへへ....信者.....いっぱい......幸せ......」
屋上のベンチで横になって、まだ眠っていた。今にも溶けそうな、緩んだ表情を見て、少しイラッときた俺は廻の額に、思いっきりデコピンをした。
「イタッ!?ちょっと!何してんの?!」
「
「酷いっ!こんなことするなんてっ!」
「睡眠カマすお前がわるいんだからな?」
「そんなっ!私はーーー」
流石に痛かったのか涙目の廻に申し訳ないと思い、謝罪のひとつでも送ろうかと口を開きかけた時だった。
「私は神様!オーケー?」
「...だからなんだよ?」
「敬えってこと」
片目を瞑り、ドヤァ顔を決める廻。
認めたくはないがしっかり美少女だ。いや
しかしムカつくので一発腹パンでも決めてやりたい、が流石にやめておこう。人としてそれは終わってる。
「ともかく。目が覚めたんなら戻るぞ」
「はーい」
コッチの調子が崩れるようなフワフワとした返答を背に受けつつ、屋上の扉に手をかけた時。
「大地、さっきは中途半端に終わったけど。ほい」
後ろを振り返ると手をグーにしてこちらに差し出す廻。その意図を理解し、こちらも手を握り込み、拳同士を合わせる。
「「これからも、よろしくな」」
二人の快活な声が青空に響く。
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