第1話-3 衝撃的な再会
「きゃぁぁぁ!!!」
倉庫内に響き渡る少女の悲鳴。
突然発せられた七色の強い光に、ヒカリは悲鳴を上げ男たちはたじろいだ。
それをまともに浴び立ち尽くす人影。
崩れ落ちるそれと倉庫内に響く倒れる音に、驚きの視線が注がれる。
倒れた男のそばに落ちたままのスマホ。
白かったはずの宝石は七色の光を放ち、自らもその色に染まる。
触れられることを拒絶する意思のようなその光は、無礼な男の意識を奪うとゆっくりといつもの淡い光に戻っていった。
「ど、どうしたっ!? 何が起こったっ!?」
狼狽する男たち。
ヒカリも初めて見るそれに呆然とした。
とりあえず取られる危機は脱したものの、当然のように男たちの怒りの視線が彼女に向けられる。
「おまえ、一体何をしたっ!?」
男たちの怒号がヒカリに浴びせられるも、自身も知りたいその理由に答えられるはずもない。
苛立ちを隠せない男の一人が、ヒカリに手を挙げようとしたその時だった。
黄色い閃光がドアから漏れ見えたかと思うと、突然闇に包まれる倉庫内。
停電のそれを爆風が走り、砂煙が舞った。
突然響き渡った爆音と振動は、彼らを驚かせその視線を釘付けにする。
スライドするはずの重厚な大きなドアが倒れる音と振動を、背中で感じるヒカリ。
砂埃が舞う中、その中からこちらを見据える異様な気配に男たちは青ざめた。
「おい」
砂煙から聞こえる重低音。
人影だったものが、ゆっくりと実態を帯びていく。
くせ毛の赤髪に、この場に合わない、
彼らを見下ろす赤い瞳に圧倒的な威圧感。
その瞳に身を寄せ合い怯える少女たちの姿が映り、それは彼の眉をひそめさせた。
「お、おまえ、何者だっ!」
男の震えた声が、突然の侵入者に問う。
新月の夜にも関わらず、彼の身体的特徴がはっきり見えるありえない状況は、彼らに最高の恐怖を与えていた。
金色のオーラをまとった大柄の赤髪の姿に、男たちはヒカリの存在を忘れ後退る。
怯える少女たちに彼は視線を走らせた。
「……この中に『ヒカリ』って娘はいるか?
――!
背後から聞こえる、自身の名を呼ぶ威圧感満載の重低音。
その声にヒカリは凍りついた。
――な、なんで、私の名前!?
一人困惑するヒカリと、自身ではない、と目隠しをされたまま首を振る少女たち。
新たな脅威を感じたヒカリは、赤髪の男の注意が自身に向いていないことを知ると手を伸ばせば届きそうなところに落ちているスマホの回収を試みる。
聞いても名乗り出ない『ヒカリ』に彼は赤髪の頭を掻いた。
「おかしいなぁ……、この中にいるのは間違いないんだが……」
そう言いながら取り出したスマホで確認した彼は間違いがないことを確信する。
その言葉にヒカリの回収に動こうとした手が止まった。
思い出される自身のスマホに表示された『出動しました』の文字。
――えぇっ!? もう来たのっ!?
本来ならば喜ぶべき素早い『警察』の対処も、今のヒカリにとっては恨めしいものでしかない。
自身のスマホからの通報に、通報者の個人情報を知った警察官の確認だと勘違いしたヒカリは、素早くスマホを拾うと気配を消しながら背中で男を伺う。
これからどうすればよいか必死に思案するヒカリの瞳に目の前で状況が分からず未だ恐怖に震えている少女たちが映った。
退学の可能性はあるとはいえ、とりあえず脱した命の危機は少女たちも同じだということに気がつきヒカリは安堵する。
「お、おいっ!」
前方から聞こえる男の声にヒカリは顔を上げた。
――!
こちらを見据える黒ずくめの男たち。
ドラマや映画でしか観た事のなかったその光景は、折角の安堵感を木っ端微塵に粉砕した。
「おまえ、聞いているのかっ!」
彼らから発せられる言葉は、ヒカリたちを素通りする。
明らかに突然登場した赤髪の男に向けられたものとは分かっているものの、平和な日常生活に登場しないアイテム所持の彼らに、再度ヒカリは恐怖に震え上がった。
「おーい、ホントにいないのか?」
張り詰めた空気の中、響く間の抜けた声。
探し物の存在に絶対的な自信を持つ彼は、震える銃口を向ける男たちを一瞥することもなく、少女たちに再度視線を走らせた。
その赤い瞳に写った、異質な存在。
自身に背中を向けたまま、目隠しなどされていない、他の少女たちと明らかに違うポニーテール。
――!
気のせいだと思いたい感じた視線と近づく彼の足音に、合わせて脳裏で点滅する『退学』の二文字。
目の前には、背中の向こう側の気配に合わせて動く銃口。
動揺する鼓動が彼女の体中に響き渡る。
願いもむなしく、その足音は彼女の後ろで止まった。
「おい、おまえ」
――!!!
座り込むヒカリの頭上から襲う圧倒的な気配と威圧的な重低音。
前方にはこちらに向けられた銃口。
重なるプレッシャーにスマホを持つ手が勝手にガタガタ震え、声を出そうとするも口が動かない。
「お、おい、大丈夫か?」
自身の問いに応じず、震えだした彼女の背中に心配した彼は上から覗き込んだ。
俯く彼女の表情は見えないものの、震える手の中のスマホが赤い瞳に映る。
手の震えと一緒に揺れるそれのアクセサリー。
上下に左右に小刻みに揺れる白い輝き。
見覚えのある、優しい淡い光。
――【リア・ファル】!?
探し求めていた愛しいその光に彼は心を奪われた。
「その宝石は、おまえのかっ!?」
いきなりスマホを持つ彼女の細い右腕を握り、強引に引き上げ横に引っ張る彼の大きな左手は、ヒカリ自身は望まない
「痛いっ!」
されるがまま無理矢理立たされた上、彼と向かい合う格好になったヒカリは、自身の瞳に飛び込んできた場違いのスーツに、相手が警官でないことを知った。
――誰っ!?
当然の疑問が、相手の顔を確認させる。
自身よりも遥かに高い顔を思わず見上げた。
――!
くせ毛の赤い髪に燃えるような赤い瞳。
もう二度と逢うことはできないはずの面影。
自身の瞳に映った彼の姿に息を呑む。
――な、なんで?
彼の瞳に映る戸惑うポニーテールの少女。
自身を見上げるその表情から、彼は娘の面影を探す。
「ヒカリか?」
そう彼の口が動きかけた時だった。
同じ面影が望んだ呼称を、彼の瞳から視線を逸らさない彼女が呟いた。
「おじいちゃん?」
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