第94話 地雷系がファッションじゃなくてガチなんですけど…?!

 プールから上がった俺たちは、バスローブだけ来てベットでダラダラしてた。俺の胸に乗っかってまるで猫のように体を擦り付けてくる綾城が可愛いと思った。


「ふふふ…なんかあんたがすごくかわいく見える」


「そう?それは嬉しいね」


 適当でグダグダなやり取りが愛おしいのだが、ふっと綾城が真顔に戻った。


「ところであんたはなんでエディレウザの知り合いなの?」


 どことなくむっとした顔をしている。俺がスオウと知り合いのなのが気に入らないのかな?


「どこから話したもんかねぇ…。そうだな大事なところから。スオウと葉桐はなんらかの共犯関係にあるみたい。だからスオウが務める高級クラブに潜入して太客になって貢ぎまくってる。以上」


 我ながらシンプルかつわかりやすい説明だと思う。


「はぁ?え?嘘…エディレウザが葉桐の共犯…?!そんなぁ!?」


 綾城は両手で口を押えてひどく驚いていた。


「しょ!証拠は!!?エディレウザが葉桐なんかと一緒にいるはずないわ!!」


 俺はスマホに入ってる葉桐と真柴とスオウがともに写っている動画を見せた。綾城はそれを見てがくがくと震えてた。なんだこの反応?真っ青な顔がすごく痛々しい。


「エ、エディレウザが男と腕を組んでる…?…葉桐とも知り合い…?あの男嫌いのエディレウザが?まさか葉桐に…?!」


「どうなんだろうね?葉桐は女をセックスで沼らせるタイプっぽいし、その可能性はあるのかもね」


 俺はあくまでも可能性を提示しただけだった。なのに綾城は手で口を押えて喉を震わせている。さっきとは違う生理的嫌悪感にあふれた涙を浮かべている。


「き、気持ち悪い…」


「え?なに?吐きそうなの?!なんで?!」


「さすって背中…お願いよ…」


 俺は言われた通り背中をさすった。だんだんと綾城の顔色に生気が戻ってくる。


「ねぇ常盤はエディレウザが葉桐と…うっ!…げぇ…。その、あれな関係だったらどう思う?」


「まあいい気分はしないけど、それはまあ仕方ないんじゃない?大人の男女なら肉体関係くらいあっても不思議じゃないよね」


「なんでそれを気にしないのよ!!!」


 綾城はすごい形相で怒鳴った。俺は戸惑いを隠せない。


「え?いやぁ。相手のそういう経験は気にしない方がいいと思うけど」


「なんでエディレウザが処女じゃなくてもいいなんて考えるの!!信じられない!!」


「これには俺も反応できない!むしろなんでお前がそれを気にする?!」


「エディレウザぁああああああ!いやあああああ!!…はっ!そうだった!うちには楪がいる!!」


 綾城は俺のスマホで楪に電話をかける。もう深夜だよ?さすがに電話には出ないと思ったのだが。楪は電話に出てしまった。俺は横で会話に聞き耳を立てる。


「ゆずりはぁ?!」


『え?あれ?カナタさんじゃない?綾城さん?どうしたんですか?もしかして二人きりですか?ゴムありますか?混ざってもいいですか?』


「ゆずりはぁ!今はあたしがセックスしてるかなんてどうでもいいのよぉ!!今から送る動画の黒髪緑目の超綺麗な女の経験人数を計算しなさいィ!!!キエェエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」


『え?ええ?ま、まあやりますけど…。いったんカナタさんに代わってください』


 スマホを受け取って、楪と話す。


『綾城さんはどうしたんですか?ガチの地雷女の匂いがするんですが?大丈夫ですか?』


「…どうやらあのファッションはガチだったらしいね」


『Oh...!じゃあ動画送ってください。判定するんで』


 そして楪に動画を送って判定結果を待った。その間綾城はずっとラブホの部屋の中を苛立ちげにうろうろしていた。まるで推しのコンカフェ男に本命の彼女がいたときの地雷系女子みたいな態度だ。そしてすぐに返事は返ってきた。


『ででででーん!結果発表ぅ!気になるあの子は何人男を咥えたビッチちゃんなのかなぁ?それともユニコーンに乗れちゃうのかなぁ?』


「ふざけないで!!はやくしなさい!!」


『え?冗談が通じない?ガチの地雷系女子だったんですか?!はい。では結果を報告します。男性経験はありません。以上です』


「それはどういう意味なの!?処女ってことなの?!処女ってことよね!!?」


 うわぁ…。スマホに向かって怒鳴り散らす綾城さんがぶっちゃけ怖いしなによりもキモい。


『ぴぇ?!はい!処女です!ピカピカの処女です!誰にも触れられておりません!』


「いぃいぃいいいいいいいやったぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


『うわぁ…男の処女厨より気持ち悪い!!じゃあわたしはこれで!かなたさん!ガンバ!』


 そして電話は切れた。綾城はベットの上でガッツポーズをしながら感涙の涙を流している。腹立ったので、一度綾城を抱きしめてからお姫様抱っこする。


「常盤!あなたもエディレウザが処女だって喜んでくれるのね!!」


 綾城は俺のほっぺたにチュチュとキスしながらすごく嬉しそうに笑っていた。俺は彼女をプールまで運び。


「お前に涙は似合わない!!」


「きゃぁ!ぶはぁ!がぼがぼぼぼぼぼ」


 プールに向かって投げ捨てた。綾城はそのまま沈んでいく。こうして一人のキモイユニコーンを抹殺することに成功したのであった。





 プールからゾンビのように這い上がってきた綾城をシャワールームに放り込み、俺はすりガラス越しに綾城と話す。


「現状を整理するとスオウことエディレウザ・レイチは葉桐の反社行為の何らかの関係者であると思われる。俺はできれば彼女を葉桐から引き離せないかと思っている」


「なるほどね。ところで声がくぐもって聞こえづらいわ。あんたもこっちに来る?うふふ」


「お前は人にユニコーンしてるくせに自分はユニコーンに嫌われたいんだな。俺はユニコーンに蹴られて死にたくないから今日は遠慮しておく」


「あら残念。さて真面目に話すけど。一つ昔話をさせて頂戴。あたしがエディレウザに嫌われたのは、彼女を綾城家の養子に向える話を進めたからなの」


「養子?それってお前が望んだの?」


「そうよ。あたしはエディレウザを姉のように慕っていた。だから本当のお姉さんになってほしかった。両親もエディレウザのことは気に入ってたし、向こうのお家もエディレウザが綾城家の子になって教育を受けられるようになることを喜んだ。あたしはエディレウザと切れない絆、縁、つまり繋がりが欲しかったのよ。…それがよくなかったわ。両家は合意したんだけどエディレウザ本人が猛反発したわ。あたしはいいことづくめだと思った。エディレウザは働かなくてもよくなるし、向こうのお家にも綾城家から援助が入る。だけどダメだった。エディレウザはそれを施しとみなして拒絶した。施しじゃないわ。あたしはエディレウザのそばにずっと一緒にいたかっただけなのにね。とんだエゴよね…」


「なるほどね。ただ第三者から聞くとお前は動機はともかくいいことをしようとしてたと思うよ。実際エディレウザは金にすごく困ってるみたいだったし」


「動機が罪深かったらから行為もおのずとダメになったとあたしは思ったわ。結局近づくなと言われてそのままよ。でもまだあたし、彼女と一緒にいたいのよ…!大好きだから!」


「そっか。うん。わかったよ。それが君の罪か。でも俺は罰が釣り合っていないと思うよ。綾城に負わせるには重すぎる罰だ。なあ思うんだけど、あんなに家族思いで弟を真剣に大事にしている女の子がお前がやらかしたくらいでなんでずっと遠ざけるんだ?」


「それくらいプライドを傷つけてしまったんだと思うのだけど」


「どうかな。俺はスオウはそういうタイプじゃないと思うよ。その養子の話がでたその頃にはもう葉桐と関わってたんじゃないか?」


 俺がそう言ったとたん、シャワールームのドアが思い切り開かれて、中から綾城が出てきた。綺麗でなまめかしいラインを持つ体に水滴が流れていてすごくセクシー。


「それってまさか!?エディレウザはあたしを守るために遠ざけたってこと?!」


「おい!?せめてタオルを巻け!!」


 俺はすぐそばにあったタオルを綾城に渡す。彼女はそれを体に巻いて、俺をきっとした瞳で見詰めいる。いつもの綾城が帰ってきてくれた。そう思った。


「あんたの仮説!それなら筋が通るわ!!エディレウザは本当に優しい女の子だもの!葉桐ぃいいいい!!」


「まああくまでも仮説だけどね。ただスオウが葉桐の下で何をやってるのかはよくわかんない。五十嵐の話じゃ接待役はやってたみたいだけど、それ以外の仕事もやってるはず」


 俺はぶっちゃけスオウが葉桐のシノギである売春業に従事しているのかと思っていたが、綾城ユニコーンによってその可能性は否定された。じゃあ彼女は何をしているのか?それがどうにも嫌な予感がするのだ。俺が思考にどっぷりと嵌っていた時、綾城が俺の背中に抱き着いてきた。タオル越しの柔らかさとシャワーしたての暖かさが心地よく感じられる。


「あのね。あたしちょっと楪や美魁がちょっと羨ましかった。あの二人はあんたとは葉桐関連とはいえ必然でつながってたわ。でもあたしって本当にただの偶然だったでしょう」


「ああ。そうだね。俺たちの出会いは全くの偶然だった」


「でもね。あたしの大好きな人越しにあんたの運命にあたしも繋がっちゃった。なんかすごく素敵な気持ち。あんたと葉桐や五十嵐さんは多くの人を傷つけるために悪魔が決めた必然で、あたしとあんたの出会いはエディレウザを救うために神様が与えてくれた偶然。そう思えるのよ」


 運命という言葉に俺は戸惑う。タイムリープして過去をやり直すことになっても、破滅の未来の因縁はひたすら俺を付け回していた。そして俺だってそれに執着し続けた。だけどその中で俺が助けられた人もいた。新しい流れがきっと生まれつつある。今俺は綾城と共に大きな分岐点に立ったのではないだろうか。そう思えてならない。


「偶然なのに運命がつながったのか。なら綾城。俺と一緒に彼女を助けに行くかい?」


「ええ。もちろんよ!!」


 俺たちは拳をぶつけ合う。俺たちはこうして運命共同体となったのだ。囚われた女の子を救うために!







***作者のひとり言***


地雷系ユニコーン綾城X!!





ラブホの中で勇者パーティー結成とは新しい…。




追伸


感想欄が再オープンしました!

感想欄については活動報告の方で方針的なものを示しましたので、ご参考ください。



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