第65話 番外編 大学生に制服はないけれど…前

 放課後。下北のカラオケ屋で俺たちはとあるお祝いパーティーをやっていた。


「「「ドラマ出演おめでとう!!!」」」


「ありがとう!これもみんながいてくれたおかげだよ!!」


 クラッカーを鳴らしながら俺と綾城と楪はミランのテレビドラマデビューを祝った。


「伊角さん!どんな役なんですか?!壁ドンとかされるんですか?!」


「いやぁ。ヒロインじゃなくて、ヒロインのお友達Bってところだね。学園青春ドラマの準レギュラーって感じ。ギャルのJKってやつだね。あはは」


 ミランは照れくさそうに笑ってる。とうとう彼女は役者としてのスタートを切ったのだ。それを祝える立場に俺がいることがとても嬉しい。


「へぇ。ギャルねぇ。ある意味普段のあなたと正反対なのね。ところでオタクには優しい役なの?うふふ」


「あはは!残念だけど、オタクに優しい設定はないね。監督さんから設定メモを渡されたけど、なんかすごく凝っててね!役作りは楽しいよ!」


 満面の笑みでそう語るミランは本当に楽しそうだ。前回とは違って役作りに困ってはいなさそうだ。


「そう。よかったわ。綾城教授の出番なのかと思って冷や冷やしたわ。うふふ」


「まあ今回は大丈夫!前回ので十分経験は積んだからね!…あ、でも一つだけ困ってることがあるんだよね…ちょっとJK役でイメージしづらいことがあってね…」


 そう言ってミランは少し頬を赤く染めてモジモジし始める。そしてこう言った。


「みんなは制服デートの経験ある?」


 その言葉に俺と楪はカチコチに体の動きを止めた。


「あれ?ボクなんか不味い質問しちゃった?地雷ふんだ?」


「でしょうね。もしこの二人にそんな経験があったら、多分いまここにはいない気がするわね」


 おしゃる通りです綾城先生!楪は遠い目で語りだす。


「お友達だと思っていた子がいました。お互いに彼氏ができる気配なんてなくて、いつかカラオケに行こうって約束してました。…なのに…ある日…彼女はわたしの知らない男といっしょに学校近くの商店街でお手手つないで歩いてたんです。そして2人はカラオケ屋に入って…出てきた時には経験人数が0から1に増えてました…」


 俺にとっては都市伝説だけどカラオケで高校生はエッチするらしいね。今俺らがいる部屋も何処かの高校生カップルがエッチしてたのかなって思うとなんか鬱になってくる…。


「生々しいよ!ていうか楪ちゃん、カラオケにトラウマあり過ぎじゃない?!」


「大丈夫です!だって今のわたしには伊角さんていう筋金入りの童貞女がいますから!もうそんな経験しないっておもうと安心します!」


「あれぇ。何だろう…この歪んだ友情…?ボクは楪ちゃんが心配で心配で仕方がないよぅ!」


「まあほら。女の子って意外にそういうところあるじゃない?お友達同士で同じ人を好きになって三角関係で苦しむなら、いっそ3pする方が楽みたいな?」


 なぜ俺の周りの女子では3pが流行っているのだろう?


「例が特殊過ぎてちっともわかんねぇよ…でも俺も制服デートの経験なんてねぇわ。してみたかったよ一度くらいは…綾城はそういう経験ある?」


「あたしには制服デートをする必要性を感じなかったわね。だからしたことないわ」


 綾城はシレッとそう言い放つ。顔も涼し気だ。


「だけどデートをするのを必要性って言い換えるのなんか法学部っぽい言い訳感あるよね」


「そうね。ものはいいようよね。でも確かに今となっては少しは惜しい気もするわね。制服を着られる期間は限られてるのは事実だしね。この感じだと美魁も制服デートの経験はないのかしら?」


 話を振られたミランはどことなく困ったような顔をしている。


「うーん。その…。男の子とはないけど…女の子とならいっぱい制服デートしたよ。ボクが学ランやブレザー着てね。あはは。モテモテだったね」


「なるほど。つまり美魁は女の子とはデートできるけど、ホテルには連れ込めないタイプの童貞ね。毎回毎回チャンスがあるのに日和ってそのたびに後悔しちゃうのね。一番拗らせるタイプね」


「ボクは女の子!!ホテルに連れ込まれる側!!連れ込む側じゃないよ!!ボクは童貞じゃないんです!」


「でも処女なのよね…ぷっ」


 自分も経験ない癖にダブスタで他人を煽れる女。それが綾城Xである。


「やめて!浪人女子にとっては処女って煽られるの結構キツいんだよぅ!!ボクはモテないわけじゃないんだ!信じてぇ!」


 女の子にとってモテるモテないって男のそれより切実な感じがあるよね。さらにいうと浪人は同性の現役生が経験済みだったりすると、激しく嫉妬しがちである。ソースは俺とミラン。


「さて。童貞女を煽るのはここまでにしておいて。ならいっそあたしたちで制服デートしない?」


 なんかニチャニチャした笑みを浮かべて綾城がそう提案してきた。


「え?でも俺たちもう大学生だぞ?制服似合わないんじゃね?」


「赤信号をみんなで渡るならなんちゃらよ。大丈夫。恥ずかしいことなんて何もないわ!みんなで一緒に恥かきましょうよ!!うふふ」


 すごく楽し気に綾城は言い切った。すくなくとも綾城の地雷系メイクで制服を着たら、似合わないことこの上ないだろう。なら俺もセーフかも知れない。


「はい!わたし!制服デートに志願します!!JK時代にしてみたかったこといっぱいあります!!」


 楪は鼻息を荒くしている。めっちゃ興奮してる。やる気に満ち溢れているようだ。


「…ボク…女の子をやってもいいんだよね?学ランじゃなくてセーラー服を着てもいいんだよね?」


 ミランさん…ずっと男役で制服デートしてたから逆にJKって役柄に執着がありそうだな。女子ーズ三人はやる気があるようだ。


「よしじゃあ制服デートしてみよっか。おのおのやりたいことを考えてやってみるってことで!制服デート万歳!!」


「「「制服デートばんざい!!やーーー!!」」」


 こうして俺たちは無駄に気合を入れて制服デートすることになったのだ。






***制服デートした経験って、大学では言わない方がいいよ。まじで嫉妬されるからね(暗黒微笑)***





 俺は待ち合わせ場所である池袋駅東口に高校時代の学ランを着てやってきた。最初にやってきたのは楪だった。


「待ちました?」


「ううん。今来たところ」


「カナタさんの嘘つき!わたし、あそこの喫茶店からこの待ち合わせポイントを見張ってましたよ!待ち合わせ30分前から来てましたよね!!そんなに私たちとのデートを楽しみにしてたんですか!!ありがとう!!」


 そう言って楪は俺に抱き着いてくる。楪はブレザータイプの制服を着ていた。スカートの長さが膝丈より少し上くらいの真面目系。なのにおっぱいは凶悪に膨らんでる。アンバランスな魅力ににくらくらする。


「楪?!なんかテンションがおかしくない?!突っ込みどころ満載だよ!」


「だって制服ですよ!制服!いやな思い出しか染みついてない服でこれから楽しいことするんですよ!最高にテンション爆上げですよ!あはは!あははははは!!」


 楪の過去のボッチ度がマジで可哀そう。この子には死ぬまで優しくしようと俺は誓った。


「あら。2人とも早いわね。気合が入ってるのはいいことね。すばらしいわ。うふふ」


 そしてすぐに綾城がやってきた。そして俺と楪は彼女の恰好に驚きを隠せなかった。


「どう?このスタイルかわいくない?」


 綾城はブレザータイプの制服で身を包んでいるのだが、その着崩し方がかなりアレだった。


「うわぁ。都会のJKってこんな格好なんですね。薩摩ではみたことありません。かわいいけど。うん。可愛いんですけど…」


「ああ、北海道でもみたことない。というかこんな格好なやつはこいつだけだよ。まあ、かわいいはかわいいけどね」


 まず目を引くのはスカートの短さとニーソックスだろう。二次元だと珍しくないけど、現実のJKでニーソはめったにみない。綾城の美脚が映えること映えること。さらに異様なのは左の手首。なんか包帯を巻いている。さらにはフリルのついた眼帯を右目にしている。そして自慢の金髪を黒のフリフリリボンでツインテールにしていて。バチバチの地雷系メンヘラメイク。両手の黒系のネイルアートの凝り方もすごい。


「ねぇねぇ綾城さーん。そのファッションスタイルにはどんな設定が隠されてるのぉ?俺たちに教えてくれない?」


「くくく。よく聞いてくれたわね。あたしの名は綾城・X・ヒメーナ。異世界に召喚され聖女として戦い抜いたものの、倒した魔王の隠していた世界の秘密に触れてしまい、組織から追われる身となり、地球の帰還者たちが集う学園でFランクな生活を送って実は劣等生に見えるけどすごいチート異能者で悪役令嬢なのよ」


「とりあえず言えるのはお前がメンヘラ系だってことだけだな」


「ですねぇ。ていうか聖女で悪役令嬢は盛り過ぎじゃないですよ!欲張りセットじゃないですか!どっちかにしてください!」


「あたしは妥協しない女だから。どっちも諦めないわ!」


 女子って聖女と悪役令嬢好きだよね。そしてそんな他愛もない会話をしていたときだ。


「あの…。お待たせしちゃったかな…その…今日はみんなよろしくね…」


 ミランの声がして、俺たちは振り向いた。するとそこにはセーラー服を着てモジモジとするミランがいた。いつもと違って髪の毛は縛らずにストレートにしていて、左側に編み込みが入っていて綺麗な銀髪にはよく似合っている。スカートは少し短めで紺色のソックスを履いている。


「わぁ…!やればできる子なんですねぇ!」


 楪はミランの姿に見惚れている。そして綾城はニヤニヤとしつつもどこか母性的な声で俺に囁く。


「…へぇ。あらあらこれはこれは…!常盤。褒めてあげなさいな」


「わかっとるよ。ミラン。驚いちゃったよ。すごく綺麗で、なによりかわいいよ」


 俺は今のミランを心底可愛いと思った。きっとドラマのキャスティング担当はこの可愛さを知っていたから、ミランを抜擢したのだろう。


「うふふ。ありがとう!なんか制服を久しぶりに着てすごく緊張したよ。オーディションなんかがお遊びに思えるくらいに!だから褒められて嬉しいよ。すごく」


 ミランは綺麗に微笑む。こうして全員が揃った。いざゆかん若者の町!池袋!




後編に続きます!




***作者の独り言***


あと2,3話ほどやってからシーズン3に入ります。


今回の制服デートネタはアレですね。

大学生では本来できない青春イベントなんだけども、この子たちにそういう青春を経験させてやりたいなって思って書いてます。

なんかそのエモさが伝わると嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る