第64話 番外編 テニスとかいうリア充のスポーツ

 大学生と言えばテニス。そこには誰も疑問を挟むまい。だけど大学でテニサーにやるにはいろいろと下準備がいる。ようは下手だとかっこ悪いよねってこと!いつものメンツな俺たちは大学のすぐ傍にある大きな公園のテニスコートを借りて、自主練習をすることになった。緩いテニサーに入ることは決めてるけど、やっぱりかっこはつけたいじゃん?そういうことである。


「で、君たちどれくらいテニスできるの?」


 金髪をポニテにして珍しくナチュラル系メイクをしている綾城はぱっと見だけならウィンブルドンに立てそうな貫禄があった。


「●ニスラケットはあつかったことがないから自信がないわね」


「おい、ちょっと待て!今なんて言った?」


「●ニスラケットはしごいたことないから自信がないわね」


「言い直してよ!そこはちゃんと訂正してよ!もっとひどい発言になってるよ!!」


 外見が変わろうがなんだろうが、綾城はいつもどおりであった。そして次はミランに尋ねてみる。


「ボクは結構慣れてるよ!体育でいっぱいやってた!ちょっとブランクあるけど大丈夫!」


 ミランは大丈夫そう。そして楪は…。どこか遠い目をしていた。


「皆さん。知ってますか?テニスってトリプルスっていう組み方があるんですよ」


「何それ…悲しそう…ボク聞きたくないんだけど…」


 ミランはきっと楪の過去の境遇を察してしまったのだろう。どことなく気まずそうに見える。


「わたしを除いた他の三人が楽しく組んで、わたしはコートの外からそれを見ていることしかできないんですよ…ふっ…トリプルス…」


 やっぱり悲しいボッチ話だった。


「大丈夫!ボクと!」「あたしがついてるわ!!」


 綾城とミランの二人が楪に両側からぎゅっと抱きつく。


「綾城さん!伊角さん!ありがどぅうううう!」


 女子三人仲良くて大変結構だ。ところで俺は余ってるんだけど?まあいいか、そこにツッコミ入れるほど野暮じゃない。





 そして俺たちは練習を始めた。ミランは確かに上手だった。そして綾城も普通に上手かった。というか呑み込みが超速い。滅茶苦茶器用。ドライブボレーとか一回見ただけであっさりと覚えやがった。マジで万能だな。綾城に苦手なものがますます見当たらない。友達は少なそうだけど、コミュ力は普通に高いしな。弱点ないのかな?


「えい!あれぇ?!どうして?!ボールが透けましたよ!!どういうことですか?!」


 楪がボレーに戸惑っていた。ボールが近づいてくると、思い切りラケットを振ってしまうのだ。それではいけない。


「いや透けてないからね。空ぶっただけ。これはちょっと練習必要だね」


 ミランに合図を出してボールを打ってもらった。俺は一番スタンダードなボレーを楪の前でやってみせた。


「こんなかんじ。ボレーっていうのはラケットを振るんじゃなくて、待ち構えているだけでいいんだ。野球で言えばバントみたいな感じだよ」


「ほえぇ。なるほどぉ!頑張ってみませす!」


 そしてミランのボールだしによる楪のボレー練習が始まった。


「はい!はい!はい!!」


 ボレーをするたびに楪のおっぱいが揺れる。ついでにスカートもたなびく。


「あたしね。この間までフリルついたパンツって好きじゃなかったの。履く側としては使いずらいの一言だもの」


 いつのまにやら俺の隣に綾城がやってきた。そしてしみじみと謎のトークをはじめる。

 

「なんだろう?その発言は男の夢を踏みつぶすような感じがするよね。フリフリした服とかパンツとかブラとか男の大好きなのに」


「ええ、見た目の可愛さは認めるわ。実用性がないってところが嫌いなわけで、でもね。御覧なさい。あの二人を!!」


 ボレーをする楪のスカートから白いアンスコに包まれたお尻がチラチラと見える。それには古き良き時代のフリルが見えた。


「ベリィイイエッチ!さらにぃ!」


 綾城の視線はミランのスカートに注がれる。こっちも意外なことに白いフリルのついた黒の見せパンだった。童貞のくせに!童貞のくせに!エッチじゃないですか!!


「ふっ…ステキよね。フリル。スカートの下に悩んでいる二人に勧めてよかったわ。すごくかわいいわね!」


「はーい!だめー!綾城菌バリアー!真面目にテニスしようぜ!!ひゃはー!!ミラン!俺たちにもボール出してボール!!」


 俺は綾城の背中にくっついて彼女の両手を掴む。テニスコーチが生徒にスイングを教えるやつを綾城にかましてやった。


「きゃ!なにこれ!恥ずかしいのだけど!」


「ほら!スイングはこうやるんだよ!ほれほれ!ひゃはははは!」


「きゃん!あたしの我流スイングが常盤色に染められていくぅうう!あははは!」


 端から見ればいちゃついているように見えるのかもしれない。だけど断じて違う。俺はスカートの中をのぞく悪いやつを退治しただけ。それ以外の魂胆なんてない!


「あー!ずるいです!わたしも指導してください!!」


 そう言って楪が俺の背中にくっついてきた。背中にすごく大きくて柔らかな感触がががが!


「あら?楪!さすがね!だったらあたしも!!」


 綾城は俺に向かってお尻を擦りつけてくる。この感触やばい!何がヤバいって普段パンチラしない女のお尻の形がダイレクトに体の正面に感じられてヤバい!


「あー!みんなしてズルいよ!ボクも仲間に入れてよ!!」


 ネット越しでミランがどことなく寂しそうにこっちを見ている。だけどこれ以上女子に近づかれたら俺は!!俺は!!


「だめよ!」 


「ダメでーす!」


「なんで?!」


「うふふ。残念だけどうちの常盤には二人までしか乗れないのぉ!」


「くすくす。伊角さんはお股にラケットを挟んで一人でグリップをゴシゴシしてればいいんじゃないですか?くすくす」


 最近思ったけど、もしかして楪にはSの才能があるのではないだろうか?そして悔しそうな顔でミランは言われた通りにラケットを股に挟んでグリップをごしごししはじめる。


「ち、ちくしょう…ボ、ボクもそっちに入りたいのに…ハァハァ」


 悔しさに顔を真っ赤にしながらも、どことなく緩い笑みを浮かべて俺たちの事を見詰めているミランの童貞力はヤバい。


「あらあら!寂しそうな顔でみっともないわね!このド淫乱童貞ビッチめ!!」


「童貞ビッチ!?ち、違う!ボクは!ボクは!はぁはぁはぁ」


 どんどん息が荒くなっていくミランさんまじでキモい。顔が良くなかったらこれ人に見せられないレベルのキモさである。そんなじゃれ合いを楽しんでいた時だ。


「あんたたち…何やってるの?!」


 よく知っている声が聞こえた。サバサバ真柴さんと医学部テニサーのメンバーの皆さんと、五十嵐がそこにいた。五十嵐を除く全員がドン引きな目で俺たちを見詰めている。


「や、やめろぉ!そんな目でボクを見るんじゃない!!はぁ…はァ…はぁ…」


「だからあんたたち何やってるの?マジで意味がわかんないんだけど…」


 俺だってわかんねえよ。この面子の頭の中身なんて想像もつかんわ。だけど俺以外の女子ーズは息をぴったり合わせてこう言った。


「「「3.1415P!!!」」」


「だから3.1415Pってなに?!0.1415はいったい何なの?!あーわけわかんない、ってりりどうしたの…?」


 五十嵐がニコニコ笑顔でミランに近づいていく。そしてグリップを見ながら。


「どうしてグリップごしごししてるのかわかんないけど!美魁が楽しそうだから手伝ってあげるね!!」


「や、やめろー!ボクのグリップに手を添えないでぇ!!ごしごししちゃいやだぁあ!…あっん…んん!ああーん♡」


 そして五十嵐にグリップをごしごしされて、ミランは体をびくびくと震わせる。なんでそんなに気持ちよさそうな顔してるの?…見なかったことにしよう。そうしよう。





 この間のサークル合宿から俺と五十嵐の間には微妙な空気が流れてる。無視し合ったりとか冷戦してるとかじゃない。切欠がお互いにつかめなくてだらだらとしているような感じ。こういう経験は前の世界ではなかった。カップル喧嘩や夫婦喧嘩はたまにあったけど、すぐに仲直りできていた。だからどうしても俺も行動に移しずらかった。どうすればいいのか?すごく悩んでいる。


「そう言えば!この間一緒にテニスしようって言ってたよね!どう?五十嵐さん!ボクたちとテニスしない?」


 ミランが突然そんなことを言いだした。俺が視線を向けるとウィンクをかっこよく飛ばしてきた。


「え?ちょっとまってよりりはうちらとこれからテニスしようと」


「いいじゃないですか別に!そうですよ!この間わたしあなたのところのボスに迷惑かけられたんですよ!!大学デビュー初日の朝なのに、なんか台無しな感じにされたんですよ!!お詫びにそこの幼馴染さんをこっちに置いていって仁義通すのが筋ってもんじゃないですか?!」


「え?うちのひろが何かご迷惑をかけたの?…え、そ、それはごめんなさいね…」


「まあ話はついたってことで…そちらの皆さんにはお引き取りいただけると助かりますねぇ」


 なんかいつのまにやらヤクザのような因縁の吹っ掛け方を楪がマスターしてやがった。彼女と目が合うと、可愛らしくウィンクしてくれた。


「うう。この間の借りもあるから、強く出れない…!…りり。少しの間だけそいつらの相手して貰えない?まあほら。バカだけど悪い奴らじゃないし…」


「え、うん。私はいいけど…」


 真柴たちは少し離れたコートの方へ離れていき、そこでテニスを始めた。どうやら今日はここでテニスをする日だったようだな。


「じゃあチームわけだけど、仲間外れ作るのは趣味じゃないから、2,3で別れるってことで。でもって男子のあんたはそっちのお客様のエスコートをしなさいな。いいわね」


 そう言って綾城はささっとチームわけの話を纏めてしまった。お互いのコートに別れるときに視線が合ったのだが、とても美しく俺にウィンクしてくれた。みんな俺に助け舟を出してくれた。じゃあ俺も頑張らないといけない。


「えーっと五十嵐。俺と組んでくれる?」


「う、うん。よろしくね、常盤くん…」


 五十嵐は戸惑いながらも、優し気に微笑んでくれた。その笑みに釣られて俺も笑う。俺たちの間にあったわだかまりはそれで少し消えたような気がした。


「ちゃんと組むのは初めてだね…」


「うん。そうだな。はじめてだな。でも。しっくりくるよ。俺には」


「そうだね。私も不思議とそんな気がするの。初めてなのに。慣れてるみたいな…不思議な感じ」


 そして俺たちは綾城、ミラン、楪のトリプルスと熱い試合を交わした。そしてストレートでボロ負けしたのである。だけどちっとも悔しくなかった。お互いの好プレイ珍プレイを遊び、話を弾ませて、いっぱい楽しんだのだから。そして最後に5人で写真を撮った。一枚は真面目にもう一枚は全力でふざけて。きっと今日という日のことを俺は忘れないだろう。




 なお五十嵐のホームランボールで行方不明となったボール代はすべて俺持ちであった。そこそこの出費になったけど、俺は黙って男らしく清算したのである。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る