第39話 番外編・紅葉楪 アキバデート・後

 ニコニコとタピってた楪がふっと俺の方に振り返り、なぜかにやりと笑った。その笑みに俺は綾城Xの気配を感じた。


「そういえば、わたしこの間ちょっと悲しいことがあったんですよ!」


「そうなの?どんなことがあったんだい?」


 絶対悲しいことじゃない綾城菌に汚染された出来事に決まってるんだから。


「はい。この間みんなで渋谷に行った時、1人だけわたしのおっぱいテキーラチャレンジを飲まなかったチキン野郎がいたんですよ!」


「はは!それ俺だよね?しってるー!超知ってるー!あはは!」


 この間の渋谷の打ち上げで楪のおっぱいの谷間にテキーラのショットグラスを挟んで飲んだ馬鹿が二人ほどいた。綾城Xと童貞ミランって言うんだけどね。あの二人は流石にセーフですよ。俺はやったらアウトじゃね?


「だから今日は代わりにそのチキン野郎にチャンスをあげたいなって!聞いたことあるんですよ!世間にはタピオカチャレンジなる言葉があることを!!」


 そう言って楪は飲みかけのタピオカティーを自分のおっぱいの上に器用に乗せた。ストローは俺の方に向いてる。


「さあ頑張ってください!!じゃなきゃ鳥刺しにしますよ!!」


 楪さん顔を真っ赤にしてるのに、すごく楽しそうな笑みを浮かべてる。これ逃げられないやつだ!俺は覚悟を決めて。ストローに口をつけて。


「いきます!」 


「はいどうぞ!ちゅーちゅーしてくださぃい!」


 俺はおそるおそるタピオカをチューチュー吸った。


「あっ。ボトルが震えてるぅ…!んっ…あっン」


 何処か艶めかしい声が楪から聞こえる。まったくタピオカの味がわからない。ただただ彼女の甘い声とストローに繋がるボトルから伝わる柔らかな反発が俺の心を揺さぶってくるのだ。


「じゅるるる!うっし!飲み切れた!ごちそうさま!」


「はぃぃい。お粗末様ですぅ…んっ!」


 楪はどことなく頬を赤く染めて息を荒くしてるように見えた。そうかぁ。やっぱり胸の上でタピオカのボトルを維持するのって大変なんだね(すっとぼけ)!


「さ、さて!休憩できたし!パーツ探しに行こうか!!」


「はい。そうですね!楽しかったです!あはは!」


 俺たちは公園を後にして、ジャンク屋があるとおりに戻った。


「わたしパソコンは自作するんですよ。どうしても趣味の計算をすると市販品じゃスペックが足りなくて」


「なんか聞いたことはあるね。すごい計算になると凄まじく熱を放つとか」


「ええ、そうなんです。そこらの俄かどもは筐体にボードを差し込んできゃきゃと自作PC童貞捨てた気でいますけどね。わたしから言わせたらそんなの素人童貞と一緒ですよ。造ったPCで限界まで計算させて熱暴走でぶっ壊すくらいにならなきゃ。PCは消耗品なんですからね!」


「綾城菌の影響が心配になって来たなぁ!例えがひどすぎる!!」


 そしてあちらこちらの店を回っている時に、ふっとゲームセンターの前を通った。そこで楪はふっと足を止めた。


「どうかしたの?」


「あれ…?!うそでしょ?!」


 彼女が指さす先にはUFOキャッチャーがあった。その中にはジャンク品がたくさん入っていた。


「もしかしてあの中にお目当てのパーツがあるの?」


「ええ…!?なんてむごいことを?!ただでさえハードルの高いゲームセンター!その上UFOキャッチャーだなんて?!陰キャにはどっちも無理ですよ!!…カナタさぁん…わたしはどうしてこんなに運がわるいんですかぁ?!」


 楪が両手で顔を押さえて嘆いている。まあ無理もない気がする。わりとこうUFOキャッチャーってプレイするのに勇気がいるよね。だけどね。あれは男子憧れのスポットなんだよ!!


「楪!まかせてくれ!!お目当ての奴を俺がとってやる!!」


「カナタさん?!UFOキャッチャーできるんですか?!」


「ああ!できる!俺はキャッチャーのプロだ!!」


 俺はショベルカーだって運転できる。クレーン車もレッカーもだ。そして何よりUFOキャッチャーなら前の世界で散々練習した!!前の世界で妻だった五十嵐といつゲーセンに行っても恥を掻かないようにと練習したのである。だけどあの女、意外に器用で、欲しいぬいぐるみは自分でさくっと取っていく。まったく意味のない練習だった。だが今日初めて俺は輝くのだ!!俺はお目当てのUFOキャッチャーに金を入れてレバーを握る。楪は隣で手を合わせてめっちゃ祈ってる。そして


「「ちぇすとーーーーーーーーーーーー!!!」」


 2人でなんか意味もなく叫び、俺の操るアームはあっさりとターゲットのパーツを引っかけてきたのだ。ついでになんかよく知らない謎のキャラクターのぬいぐるみも引っ付いてきたのでそれもゲットした。


「「やったあああああああああああああああああああああ!あああああああああああああああ!!」」


 俺と楪はハイタッチして互いに思い切り抱き合う。それくらいなんか嬉しかったのだ。そしてパーツと、ついでに謎のぬいぐるみを楪に渡した。


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます!カナタさん!!この子は一生大事にします!」


 楪はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて綺麗な笑みを浮かべている。


「そうか。それは良かった。パーツの方もゲットできてよかったね」


「はい!一週間後には熱でドロドロになってますけど!そっちも冷やして固めてちゃんとオブジェにして一生大事にしますね!!」


 いや、それは捨ててもいいんじゃないかなぁ?そう思ったけど口には出さない。だって楪は楽しそうにしてるもの。それだけで十分だよ。うん。




***メイド喫茶って最初の一回が怖いんだよねぇ…!***



 楪と一緒に休憩がてらメイド喫茶にやってきた。


「ふぇ。みんなお洋服可愛いですよね。それに案外メニューも普通ですね。本当に喫茶店なんですね。てっきり陰キャオタクからぼったくるような場所だと思ってました」


「だねぇ。ぶっちゃけキャバクラ的なものをイメージしてた。普通に喫茶店なんだね。でもなんかこうまったりしてていいね」


「ええ、いいですねぇ」


 俺たちは店の作りだすどこかまったりした空気感に満足していた。他のお客もまったりとお茶を楽しんでる。ゲームオタクのグループや婦女子のグループ。俺らみたいな男女二人組などなど普通の人たちが普通に楽しんでいた。だがそこでふっとメニューの隅になんか面白いモノが載ってた。


「ねぇねぇ楪。これ…」


「え?!なにこれ?!きゃー!これは…!」


「やってみてよ!俺めっちゃ見たいなぁ!」


「ええー。そうですかー!見たいんですかぁ!カナタさんが言うなら仕方ないですねぇ!うふふ」


 そのメニューの端に載っていたものを、店員さんを呼んでお願いする。楪はメイドさんに連れられて店の奥の方に行ってしまう。そしてしばらくして彼女は戻ってきた。メイド服を着てな!コスプレサービスがこの店にはあった。普段できない分こういうのはガンガン楽しんでいきたい。


「ど、どうですかぁ…」


「めっちゃかわいい。すごくかわいい。さいこーですよ!」


 楪は俺の言葉を聞いて恥ずかし気にはにかむ。メイド服を着た楪は可愛かった。膝丈くらいのスカートのメイド服はうウェスト部分で細く絞ってあって、彼女の胸の大きさをいつもよりもさらに際立たせている。普段はわりと陰な空気に包まれている楪だけど、メイド服のフリフリなフリルのおかげでなんか陽なオーラがあった。そして楪は


「えっとご、ごしゅ…じゃなかった。組長!」


「おいちょっと待て。そこは普通にご主人様でよくない?」


「そんなわたし如きセカンド風情がご主人様だなんて親し気に呼べるわけないじゃないですかぁ!タイクーンさまぁ!ご注文はなににいたしますか?!ブランデーですか?!葉巻ですかぁ?!」


 英語で実力者の事をタイクーンと呼ぶことがあるそうだ。語源は日本語で、徳川家康が使った『日本国大君』という征夷大将軍の別称らしい。なんかヤクザの雅号みたいな呼び名だな。ちなみにヤクザも英語で通じるそうだ。


「普通に茶をもってきてぇ!!お願いだから!俺は反社じゃないんです!」


「わかりました!葉っぱですね!」


「茶は確かに葉っぱだけどね!言い方!言い方ぁ!」


 そして楪は店員さんから借りてる銀皿に茶を乗せて俺の所にお茶を持ってきてくれた。


「はいどうぞ。ミルクとお砂糖は入れますか?」


「お願いするよ。くくく」


「はい!では目をみてまぜまぜします!」


 楪は俺の目を見ながらお茶を混ぜ混ぜしていたが、すぐに顔を真っ赤にしてプイッと目を逸らしてしまった。恥ずかし気に俯く顔が、申し訳ないけどとても可愛かった。


「かわいいよ楪」


「もう…いじわるぅ…うふふ」


 俺たちは秋葉原を十分に堪能できた。ニコニコと笑顔を浮かべながら帰りの電車に乗ることができた。今日合ったことを振り返り、帰りの電車の中でお喋りするのも楽しかった。平日だけの贅沢な時間を俺たちは幸せに過ごせたんだ。




番外編・完


***作者の独り言***


次は多分シーズン2です。もう少々時間がかかりますが、またお会いしましょう。では!

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