3-3:魔法研究所
「あら、翔くんじゃない。こんなところで何してるの?」
「えっと、ラインさんに連れられて研究所に行くところなんですけど。」
「あら、そう。頑張ってね」
突然声をかけられ一言二言交わした後、そのまま私たちが来た道へ歩いていった。
「雨宮さん?どうかしましたか?」
「えっ?陛下と話してたんですけど?」
「いやいや、陛下はいなかったですよ。もしかして疲れてます?」
「あっ、いえ、大丈夫です。いきましょう」
あれれ?いま確かに陛下いたよね?そう思って振り返るが陛下の姿は見えない。ドアを開けた音も特にしなかったから部屋の中に入ったとか考えにくいけど。あとは転移したとか?でも普通に会話が出来る距離まで近づいてて他二人が気が付かないなんてことある?まぁいいや、色々あって疲れてるのかもしれない。
「さぁ!ここが私たちの研究所です!」
「えーっと、何もないですけど?」
ここが研究所と言われても、視えるのはただただ広い草原。建物のたの字だってないぞ?
「そりゃぁ国に認められた人にしか認識できないようになってますからね。ですがご安心ください!私がいれば自由に行き来できるのです!というわけで中に入りましょう!」
そしてラインさんが先に進むと、途中から空間に吸い込まれるように消えていった。結界か何かだろうか?
「雨宮さーん!どうぞ来てください!」
「雨宮様、行きましょう。」
何も見えないところから声が聞こえるのはすごい違和感があるけど、言われた通り進む。
「おぉ・・・、これは凄いですね」
「そうでしょう!なんたって世界樹の幼木ですからね!」
目の前には高さ50メートルはあろうかという巨木がそびえたち、周囲には草原が広がっている。そして右側には綺麗な湖がある。多くの動物と妖精が各々好きなように過ごしており、幻想的な景色が広がっている。研究施設は巨木の幹をくり抜いて研究施設としているらしい。しかしこれで幼木とは・・・。世界樹ってすごい。
「さぁ、中に入りましょう。魔法の試射場があるので、そこで妖術を使っていただきたく。」
「あ、はい。わかりました」
世界樹の中に入ると、まず目に入るのはやたらとデカいエントランス。ここは最上階まで吹き抜けになっているようで、
「おぉぉ・・・、外もすごかったですが、中も凄いですね。」
「そうでしょうそうでしょう。我が国自慢の研究所です。試射場は1階にあるのでこのまま歩いていきますよ。空の旅はまた今度。」
空の旅は非常に気になるが、まずは約束通り試射場に向かう。エントランスもすごかったが廊下も凄い。恐らくトレントに分類されるであろう小さな木の魔物がいきなり出てきて挨拶してきたり、本が浮いた状態で飾られていたり、壁に飾られた水槽の中で小さな妖精と美しい魚たちが泳いでいたりと見ていて飽きない。この世界有数の観光地だと言われても全然納得できる。入場料取りますっていわれても全然かまわない。むしろ入場料を取らないと怒られるくらいの価値があると思う。
そして世界樹の中を進み、試射場にたどりついた。ここもまた木の中とは思えないほど広い。そして何より空がある。
「さぁ付きましたよ。ここはダンジョンとなってるので、どれだけ効果力な魔法を使っても周囲に被害がでることはありません。地形や天候などの環境も変えることができるので、魔法の実験にはうってつけなんで すよね。今は何もない草原モードですが、妖術を使用するうえで、何か条件とかあったりしますか?」
ほう、ダンジョンとな。何気にSLAWOの時には見つかってなかった気がする。きっとここはダンジョンの中でも特殊なものだろうし、いづれちゃんとしたダンジョンに行ってみたい。
「環境に左右されるものは特には。攻撃系統の妖術があるので何かしらの的があるとわかりやすいかと」
「そうですね。では用意します。よっと」
いつの間にか手に持ってた杖を軽く振ると、地面が盛り上がって巨大な塊となり、徐々に形が変わっていって最終的に人型のゴーレムとなった。かなりデカい。3mくらいはありそうだ。
「用意できました。この子に妖術を撃ってください。この子自身に戦闘力はないですが、受けた魔法を解析して、研究所で管理してる魔導書に登録しますので。」
「その魔導書っていうのは色々な魔法の情報が載ってるんですか?」
「えぇ、それはもう大量に載ってますよ。ただ、完全に新しい魔法が登録されることは滅多にないですね。オリジナル魔法といいつつも大抵は何かしらの系統に分類されるものが多いです。完全に新規系統の魔法を登録できたら、それだけで勲章ものですよ。」
「へー、そうなんですね。私にも見せてもらう事ってできますか?例え使えなくても、どんな魔法があるのかはとても気になるので」
「おぉ!そうですか!えぇ、大丈夫ですよ!実際に使ってるところが見たければ私に声をかけていただければ!魔導書に登録されてる魔法は血統魔法とか先天的なものを除けば全て使用できますので!」
「それってめちゃめちゃ凄くないですか!?ところで血統魔法っていうのは?」
「そりゃもう、魔法を扱うことに関しては大陸一と自負してますからね。血統魔法とかについてはまた後程お教えします。まずは妖術を使ってみてください。」
「あ、そうですね。わかりました。」
色々と気にはなるが、先に妖術を説明していく。
最初に紫炎を使ってその説明。狐火各種を展開してそれぞれの役割の説明と実演を行っていく。次に奥義を使用して、最後に獣化を始めて使用した。すると身体は狐の姿になったが、服も都合よく消えるとかはなく、ボロボロになってしまった。そんな私に驚いて凄い剣幕で近づいてくるコチョウさん。これは怒られますね。いや、まぁ、あのほんと申し訳・・・
ボフッ
「あぁ~~~、癒されますぅぅぅ。しばらくそのままでお願いしますぅぅぅ」
・・・怒りに来たのではなく、モフりに来たらしい。いつものコチョウさんからは想像も出来ないほどだらけている。よしっ、このまま服のことは忘れてもらおう。
「そっとしておいてあげてください。これまで召喚の準備やら他国とのやり取りなどでずっと激務だったんですよ。召喚されてからは落ち着いたみたいですけど、それでも気を張ったみたいですから。」
するとラインさんがこっそりとそんなことを教えてくれた。そんな気を張ってるようには感じなかったけどなぁ。でもその言い分だと、コチョウさんめっちゃ地位の高い人なのでは?そう思って聞いてみたらなんと国の諜報部隊を率いる団長だったらしい。何でそんな人が私の侍女をやってるんだろうと思えば、仕事から逃げ出してきたらしい。それでいいのか団長。
「あっ!!えっとぉー、すいません!見なかったことにしてください!でも定期的にモフらせてください!」
なんと図々しい。そうだな。そしたらついでにブラッシングとかもしてもらおうかな。
「あっ、まぁ、構いませんよ。その代わりブラッシングしてくれると嬉しいです。」
「はい!全力で務めさせていただきます!」
そして私がボロボロにした服を手に持ち、満面の笑みを浮かべて試射場を出ていった。
「いやぁ、久しぶりにあんな崩れたコチョウさんを見ましたよ。ところでその状態でも話せるんですね。さっきの術は使えるんです?」
「えぇ、使えますよ」
そういってさっきと同じように各妖術を使用した。
「ふむ、獣化してても使える術に変わりないと。運動能力に変化はありますか?」
「んー、移動速度が上がるくらいですかね?物理攻撃の比較とかしたことないですし。」
「なるほど。ではこの試しましょうか。あ、魔力強化とかは無しでお願いしますね。」
「了解です。」
そしてゴーレム対して爪で攻撃した後、人型に戻って殴ったり蹴ったりしてみた。狐の時はゴーレムの身体を深く傷つけることに成功したが、人型の時はそれほど大きなダメージは与えられなかった。ちなみにこのゴーレム、硬いし傷をつけても直ぐ元通りになるしで敵としては絶対に戦いたくない。訓練としてならこれほどいい相手はいないだろうけど。
「なるほど。純粋な力は狐の時の方があるのですね。その分、技を使うなら人型の方がいいと。見た目通りですね。その獣化ってどれくらいの時間使えそうですか?」
「んー、獣化するときに魔力を使ってますけど、獣化した後は魔力を消費してないので多分時間制限とかはない気がします。」
「なるほど、となると獣化については妖術というより種族特性のようなものなんでしょうかね?鍛えれば変化になりそうな気もしまし、それも制限時間がないとなるとかなり強力な術になりますね」
「まぁ、それは経験を積まないことには何とも。とりあえず私が扱える妖術は今のところこれだけです。」
「わかりました。ありがとうございます。ではお礼として私も何か魔法を見せてあげたいと思うのですが、こんなのが見たいとかありますか?」
私の妖術の紹介が終わると、ラインさんからそんな提案を受けた。魔法の知識全然ないんだけどな・・・何にしよう?
「そこのあなた!何で裸なんですか!?とりあえずこれを着てください!そしてラインさん!女の子の服を脱がすとか何してるんですか!!しかもこんなに傷をつけて!!」
魔法について考えてると、突然怒声が聞こえてきて、ローブを着せられる・・・。あっ、そうじゃん服ボロボロにしちゃったしその服はコチョウさんが持ってったっから今裸じゃん。え、裸でゴーレムを殴ったり蹴ったりしてたの!?ちょっ、えっ。恥ずかしい。ラインさんも何か言ってよ。・・・とりあえずちゃんとした服が来るまで狐になっておこう。裸だったことは忘れよう。
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