第33話 覚醒

 暗い。目が覚めるとそこは暗く、なにも見えなかった。簡単にいえば絶望みたいなところだった。

 今度こそ、俺は死んだのだろうか。

 前にも同じ感覚があった気がする。


 そうだ。たしか、ラグナロクさんに負けた時だ。

 あっけなく負けて。悔しかったのを覚えている。

 あの時は夢のような感じで、爺さんが励ましてくれたんだっけ。

 でも多分、これは夢なんかじゃない。


 声もなにもかも聞こえない。

 きっと、死んだのだろう。

 

 ふぅ……とため息をつく。


 普通に考えてスキルが進化するとか思うわけないじゃん。

 ていうか初めて知ったし。

 ラグナロクさんもそれは想像してなかったんだろうな。だから全部の体力を使って殺そうとした。

 でも殺せなかった。

 そこが仇になったんだな。


 ああ、クソ。

 どうやっても詰んでたじゃねぇか。

 

 反省をしながら考える。


 ミクは……生きているんだろうか。


 あの時、俺はミクを守れなかった。逆に守られたのだ。

 そして、やられた。

 情けない話だ。

 ミクだって手も震えていたのに、俺はなにもできず、そのまま痛みに押しつぶされていただけなんて……


 だっせぇな、俺。

 

 いま自分の顔をみれるならきっと酷い顔をしているのだろう。

 不格好で、嘆かわしくて、豚のような醜い顔のはずだ。

 

 まあ、いいか。死んだんだし。ミクは生きていると願う事しかできないからな。

 それより、ここはどうなってるんだ? 天国とか地獄的な感じなのか。

 なら、どうして誰も来ない。天使とか悪魔が来て俺をどっかに案内するとかじゃないのか?


 おーいと声をかけてみる。

 返事はやってこない。 

 その代わりに空間が真っ暗闇から輝かしい白になった。


 な、なんだこれ!?

 文字がある!?


 明るくなっただけではなく、周りには文字らしきものが飛び交っていた。

 色んな文字が色んな所をずっとくるくると回っているのだ。

 なにかしらの文字列なのか、それとも違うのかもわからない。

 ただ文字という記号でしかなかった。


 急になんだ!? 

 なんか俺のスキルみたいだな! 文字が浮かび上がってくる感じで。

 

 そんな文字がまわっている中。

 5つの文字列だけはよく見えた。

 近くにある5つの文字列。

 俺はそれを興味本位で見る。


 スキル:身体の再生ライフアゲイン

 効果:失われた身体を瞬時に完全に回復する。


 スキル:空中浮遊フライ

 効果:空を自由に自分の意思によって飛ぶことができる。

 欠点:コントロールが難しい。


 スキル:詠唱破棄ドントアリア

 効果:詠唱を読まずして魔法を使えることができる。

 

 スキル:無限魔力マジックパワー

 効果:魔力が尽きることがなく無限に魔法を使用することができる。


 スキル:身体強化パワーアップ

 効果:ステータスを大幅に強化し、ほとんどダメージを受けず、攻撃が強くなる。


 なんだ、これ。スキルなのか? そう書いてあるからそうなんだと思うけど。

 でも、たしかスキルの名前ってその人自身が決めたりするからカッコよかったりするはずなんだけどなぁ……これはなんというか……機械っぽいな。


 これも俺のスキルの効果なのだろうか。

 死んでもなお、能力は続くらしい。ホント、俺と一緒でしぶとい奴だ。

 

 こんな能力が使えたらなぁ。

 

 ふとそう思った。

 もし、あの時、これが使えていれば、勝てたんじゃないのか。

 ミクもラグナロクさんも傷つかず、勝てたんじゃないのか。

 この力さえあれば誰の迷惑もかけずに圧勝できたんじゃないのか。


 気づいてしまうとその思いがどうしても抜けない。

 だって仕方ないだろう。負けてしまったんだから。

 勝ちたかったんだから。


 その刹那。突如として体が光った。

 

 な!? い……いったいなにが起こっているんだ……


 そして意識はどんどんと遠のいていった……


「はっ!?」


 目が覚める。

 今度こそ目が覚めた。 

 

「体は……大丈夫だったのか」


 ぐちゃぐちゃになった気がしたんだが、案外体の方は大丈夫だったらしい。

 よかった。まだ生きていた。


「ってことは、さっきのは夢か。変な夢ばっか見るよな、俺」


 変な夢だったよな……なんか文字が見えたりして。

 ちょっとだけ面白かったけど。

 死んでたかと思ってたし。


「まあ、こうして生きてたのか。良かったよかった……ってそんなこと考えている時間じゃない!」


 前をむく。

 そこにはやはり。


「……ゴブリン!」


 デカく、進化したスキルを持ったゴブリンがいる。


「ひぃ……逃げねぇと!」


 すると不思議と足が動く。

 あれ……おかしい。これは俺の目でも確認したはずなのに。 

 足はやられていたはずなのに。

 むしろいまは真逆で体が軽い。


「がうううううあああああああああ!」


 足が動き、離れようとするがゴブリンの方が速かった。

 思いっきりぶん殴られる。 


「ぐっ!」


 吹っ飛び、近くにあった木に頭をぶつけた。


「これは流石に死…………ってあれ、痛くない。全然痛くない」


 おかしい。

 体がおかしい。

 

「があああああああ!」


 ゴブリンにもう一度ぶん殴られる。

 今度は木をぶち破り、奥にある石に頭をぶつける。

 だが、痛くない。血も出ていない。


「…………もしかして…………もしかして」


 頭の中である結論がでる。

 それをはっきりさせるために体に力をこめる。

 いつもなら詠唱するはずの魔法を俺は使う。


「フレイムバースト!」


 炎の渦がゴブリンの腹にぶつかる。


「ぐうううああああああああ!」


 前ならば、痛くもかゆくもないといった感じだったのが、いまは少し後ずさり、腹を痛そうに押さえつける。

 ――効いている。


「やっぱりそうだ。これは……あの夢のスキル!」


 5つあったうちの3つ。身体の再生ライフアゲイン詠唱破棄ドントアリア身体強化パワーアップ

 魔力も残り少なかったはずなのに使えるということは無限魔力マジックパワーも使えているんだろう。

 

「なんかよくわからないけど、使えるんだな! 俺にあのスキルが! 覚醒したってことなのか!?」


 理由はしらないしどうでもいい。ただ、スキルが使える。それだけは理解できた。

 そうすると、不思議と力がわいてきた。いや、不思議でもなんでもなくスキルの力だろう。

 なんかこれならあいつを倒せるって感じがぶわぶわと浮かび上がる。


「空も飛べるはずだ。はっ!」


 足を浮かせようと想像する。

 すると、宙を舞った。


「うお! 凄! なにこれ!?」


 体が上に浮かぶ。

 なんか感動だ。ボードよりもこっちの方が感動がある。


 俺は空からもう一度魔法を打つ。


「フレイムバースト!」


 問題なく当たる。また痛そうにしている。いい気味だな。

 空中からでも使えるみたいだな。ちょっと扱いが難しいから止まって打たないと無理そうだけど。


「でも……これなら負けねぇ」


 手に力が入る。

 なすすべもなく、なにも出来ず敗北した俺。

 誰も守れず、悔しさだけが残った俺。


 だが、今は違う。――勝てる。


「かかってこいよ。クソ野郎。もう、俺は一方的にやられる人間じゃない。狩人だ」


 最終ラウンドの始まりだ。

 確実にここでこいつの息の根を止める。




 

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