第31話 唯一の勝ち筋

 火傷。

 少し前、俺が洞窟の中で付けた火傷の痕。

 もしかしてだが……


 弱点なんじゃないのか。あいつの……


「ラグナロクさん!」


「なんだ、いま物を生成中で忙しいんだが……」


「あのゴブリンの弱点がわかったかもしれません!」


「なに……話を聞かせろ。……フレイムバリア」


 一旦、ガードをはり、時間をつくった。

 俺はあいつの腕にある火傷の痕を説明する。 

 さっき攻撃したら、たまたま効いた感じがしてふと考えてみたら、火傷の痕があったといった感じのことだ。


「ふむ……なるほどな。もしかしたらの話か」


「もしかしたら……です」


「何事もやってみないことには変わりがない」


 そういって前を向くとちょうどガードが破られた。

 その瞬間、ラグナロクは槍を創った。一気に3本だ。


「ジャッジメントランス!」


 その槍は勢いよく飛んでいき、3本ともすべて火傷の痕に着弾した。

 うまくねらっている。

 いとも簡単のようにあてているが、火傷の痕は大きいかと言われればそこまで大きくない。

 俺の場合は完全に偶然見つけたのだ。そうにも関わらず、こいつはそこに当てているというのはレベルが違うと再確認させられた。

 やはり、こいつは強いのだ。

 

「…………弱っているな」


「本当ですか!?」


 当たったゴブリンの反応を見ながらいう。


「ああ、お前の見立て通りあそこが弱点なのだろうな。ほら、腕を何度も何度も凝視しているうえに走っている勢いが前とは比較にならないほど弱まった。時期に回復すると思うが……その間に削って置くか」


「はい!」


 たしかに見た感じ遅くなった気がする。

 直観だけど。


「――フレイムバースト!」


「フレイムバレット」


 俺は魔法を使い、ラグナロクがスキルを使う。

 弱点の火傷に攻撃しようとするが、流石に学んだのか違う腕でその部分を抑えながら突進してくる。

 俺たちは避けながら、体勢を整えた。

 少し痛そうにしていて、少しの間は攻撃できそうにないだろう。


「さっきの行動からも見れる通り、アイツの弱点はあそこで間違いないみたいだな。どうしてついたのか見当がつかないが、ありがたいものだ」


 そりゃ、どういたしまして!

 まあ、この原因も作ったの……俺なんだけどね!


 俺の心の中は色々と複雑な気持ちでいっぱいだった。


「だが……あの腕は厄介だな、お前じゃ、どうにかできないか? いい魔法とか」


「……俺にはないですね。フレイムバーストかエレクトロ、あとは意味ないですけどファイアーボールくらいしか魔法は使えませんし……」


「……なら仕方ないか。俺がやるしかないようだな」


 明らかに嫌そうな顔をする。

 技を使うと疲れるんだっけ。疲れるならやりたくなくても当然か。


「その代わり、30秒間だ。やつの気を引け。それくらいはできるだろ?」


「まあ……できるのか怪しいですが……」


 気を引けと言われてもなぁ。

 なにしたらいいのかわからないからあまりできない気がするんだけど……この空気的にやらざる負えないんだよなぁ。

 

 はぁ……と小さくため息をついた。


「ほら、これに乗れ」


 自分でなにやらものを創って俺にわたしてくる。

 ラグナロクから手を離し、それを受け取った。


「これは? 俺が乗っているボード、フライヤーだ。こうやって少し体を傾けると右とか左とか前とか後ろにいける。そういうものだ。俺のスキルで創ったものだからいくらでも生産できる。それに乗ってみろ」


 言われた通り、乗ってみるとたしかに体の向きを変えると曲がったり真っすぐに言ったりする。


 ……これがずっと乗っているフライヤーというものか。面白い!

 なんとか攻撃を避けきれていたのはこれのおかげなのだ。凄いものだ。


 夢中になって遊んでいると曲がりすぎて、体が落ちそうになる。

 下をみると、ここから落ちたら確実に死ぬ距離だった。

 

「ちなみにそれは安全に自分自身の体の動きによってしか動かないから体幹が良くないと普通に落ちて死ぬから気をつけろ」


「危ないじゃないですか!? それを先に言ってくださいよ!」


 危うく落ちそうだったのだ。

 面白半分でやっていたが、それを聞くとだんだん怖くなってきた。

 乗るのをやめようかなとか思っていると、どうして俺にこれを渡したのか気になる。


「それで……これをどうして俺に?」


「決まっているだろう。気を引くためだ? できると言っただろ。30秒間、俺が技をためている間、お前ひとりであのゴブリンと戦うと」


「は!?」


 いきなりヤバいことを言われた。

 

「頑張って戦ってくれ」


「言ってない言ってない! 捏造じゃないですか!? 流石に戦えないですって!」


「ダメだ、ここまで来たんだからどうにかしてやれ」

 

「いや、無理ですって!? 考え直してください!」


「……よし行くぞ」

 

「って、待って!?」


 すると俺を置いて、ラグナロクがどこかに行ってしまう。

 

「おいおい、共闘するんじゃなかったのかよ!? おい、どこに行ったんだ。返事をしてくれぇ!」


 声が聞こえない。

 隠れたのか。きっと、この30秒で奴を倒すための秘策をねっているだろう。

 だが、30秒。この変なボードと共に、奴を抑えなくてはならないのだ。


 ラグナロクが隠れたということは完全に俺一人。

 誰を狙うかといえば、隠れたラグナロクでもどこかにいるミクでもない。

 俺だ。スキルの効果でステータスが200倍になったゴブリンと戦うのは俺である。


「ゔゔうあああああああああああああああああああ!」


 俺だけになったのをみて、雄たけびを上げる。

 ひぃ。こ、怖すぎる! ラグナロクさんがいたから安心感があったのに、もういのかよ!

 

 こっちに向かってやつがやってくる。

 逃げるしかできない!


「うおおおおおおお! 覚えてろよ!」


 あのボードをギリギリ落ちない程度に後ろに引きながら逃げる。

 必死だ。


「――エレクトロ! ――フレイムバースト! ――エレクトロ! ――エレクトロ!」

 

 高速で詠唱を唱えて魔法を使うが、全く止まる感じも出さずにこっちにくる。

 

「うあああああああ!」


 そして右手で地面にたたき押さそうとされる。

 

「あぶねぇ! 左にいってよかった!」

 

 避けれた! このまま30秒経つまで避けるしかない!

 魔力もほとんど残っていないしな。これしか道はない。


「ん! ん! ん!」


 攻撃ではなく、回避だけに集中しているためさっきよりも避けやすい。

 だが、恐怖は抜けない。

 逆に増えて来た。近くでみると顔がえげつなく俺を殺そうとしているのがわかるのだ。怖くない方がおかしい。


「もう30秒経ったんじゃないか! おい、そろそろ出て来てくれよ、ラグナロク!」


 しかし、出てこない。

 ……もしかして俺を裏切ったのか。

 俺をおとりにして自分だけは逃げたんじゃないか……


「あ……!」

 

 そんなことを考えていたせいか、ボードから落ちそうになる。

 

「あ、あぶない。なんとか……耐えれた……ってあ」


 耐えることには成功したが、その分奴を見失っていた。

 気づいた時には遅く、奴の腕が俺の頭すれすれまで来ていた。

 死んだ。

 直観的にそう感じた。


 その瞬間。


「終わりだ」


 その声が聞こえて来た。

 ――ラグナロクの声だった。


「え……な……」


 腕が俺の頭をカスったところで止まっている。

 ……なにが起こったんだ。


「遅くなったな。ちょっと作るのに手間取った。見ろ、これが確実に相手を縛る鎖――インフェルノチェインだ」


 ゴブリンの体の周りに無数の鎖がかかっていて、あの怪力でさえも一歩も動けそうになかった。

 どうやらこれが、ラグナロクの秘策らしい。






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