第3話 魔獣の群れ
「おいおい、マジかよ。これは現実なのか……おい……」
信じられない。自分の視力を疑うが、残念ながら目はいい方だ。
この孤児院では一番は俺だろう。つまりこれは現実ということらしい。
あんなものがこっちの方に向かってくるなんて……
まだ、相当離れているとは言ってもここから見える距離に居るんだよなぁ……
これって完全にヤバい奴だよな。
「……でも、どこかであんなのを見たような見てないような……」
自分の記憶を徐々に思い出していく。
……なんだっけあれ……どこで見たんだっけ。思い出せそうで……思い出せない……えっと、その……あ! そうだ!
「魔獣だ! あの本で見た。魔獣と同じ感じだ!」
スキルが書かれていた次のページで見た奴だ。
あの本を必死になって探し出す。
これだ!
「……人間とは違い、まがまがしい魔力をためこんだ動物の成れの果て。普通の動物よりも攻撃性や殺傷性が非常に高くなっており、素人ではまず勝てないので逃げるのが賢明である。だってさ」
探し出したページの中を読み始める。
写真も持っており、さっきのイノシシとほぼうり二つの画像が写っていた。
これで間違いないだろう。
「名前は……グータンってやつだな。変な名前だな。誰だよ名付けた奴」
「……そんなこと今はどうでもいい。本当にどうでもいいわ! なんでいつもファクトはこうなの!?」
「知ってたから説明してやったのに酷くないかその言われよう!?」
ちょっと悲しくなってきた。
こういうのみんなからはウザく見えてるのかな……
マジで結構悲しい。
「落ち込むのは後にして。あの魔獣とか言うやつにこのままじゃこの中に入って来てやられる。……さっさと逃げないと……」
「ミクお姉ちゃん。逃げるってどこに……」
心配そうに二人が見つめる。
俺たちでさえ怖いのだ。それよりも年齢の低いこいつらが怖くないはずがない。
泣いていないことですら凄いのだ。大した奴らだぜ。
「わからない。でもどうにかしないと……」
「なぁ、この辺に住んでいる人は助けに来るとかはないのか?」
少し疑問に思ったので聞いてみる。
助けにくれば、俺たちだけで解決する必要はない。
「……無理よ。ここが結構な山奥にあること知ってるでしょ。人なんか10年間生きて来てほとんど見たことがないでしょ」
「確かに。……じゃあとりあえず、爺さんと合流が先だな。これのことで知らせないといけないし。逃げれなくなる」
「そうね、そうしましょう。ほら、みんな行くわよ。私についてきて」
「ちょっと待って!」
「なに……?」
「この本、持ってく」
本を腕で抱える。
うん、重い。普通に重い。
「……いいけど、早く走ってよ」
「わかってるさ。馬鹿にするんじゃねぇよ」
そうして走り出す。
まずは爺さんと合流することにした。
結局俺たちよりも爺さんの方が年上だから判断できそうだし。これはいい策だと思う。
ミクが先頭で後ろで俺とシンとリンがついていく。
「爺さん! どこだ!」
「どこにいるの!」
「おい……聞こえてるか……爺さん! ……くそダメか。どこにいやがるあの野郎」
走っても出てこないので、声を荒げて探すことにする。
しかし、探しても見つからなかった。
なんで見つからないんだよふざけやがって。
「……っていた! なにやってんだよ、爺さん!」
さらに進んでいると自室の近くのトイレで爺さんを見つける。
少し眠そうな顔をしているようだった。
ご飯も食べ終わったから寝ようとしてて、その前にトイレに行ってたってところだろう。
それにしても見つけるのに時間をかけ過ぎた。
もしかしたらあの魔獣もすぐそこまで来ているかもしれない。
早く逃げないと……
「……ん? なんじゃそんなに急いでいる顔をしておって。どうかしたのか」
「どうかしたのかじゃないわよお父さん。今外には……魔獣とかいうバケモノが……」
「な、なに魔獣じゃと!?」
「知ってるのか爺さん!」
驚いた様子で俺たちを見る。
さっきとは違い完全に目が覚めたようだ。
「知ってるもなにも……魔獣を知らない者などいないといっていいほど有名じゃからな」
「でも私とかこの子たちとかは知らなかったけど……」
「私たち知らなかった。そうだよね、シン」
「……うん、僕も知らなかった」
「わざわざ教えないようにしていたのじゃ。こんなものを知ってても嫌な思いをするだけだと思ったからな。ファクト……ちなみにその魔獣の名前はなんだかわかるか?」
「ああ、さっき持ってた本で調べたら、グータンとかいうふざけた名前だったぞ」
「!? な、なに……グータンだと。それは……マズいな……対処のしようが……」
「?」
「ごほん……まあいい。それよりも……ファクト。お前が持っているその本というのは中でも特殊でな、魔術の本という」
俺の手に持っている本を指さしながらそう言った。
これはどうやら魔術の本というものらしい。
魔法とか書いてあったしな。
でも持ってきてよかった。
重いのに我慢して走ったかいがあったぜ。
「少し貸して見なさい」
言われるがままに貸す。
「この通り、この本には魔法について書いてある」
「魔法……」
ミクが不思議そうにつぶやく。
「そう、魔法じゃ。ファクトは知っていると思うが、魔法というのは自分の中にある魔力を詠唱によって消費し、使うことができるもの。それを魔獣は使ってくる。特にこのグータンというのは非常にマズイ」
「マズいってなにが?」
「まずグータンには魔法を弾き飛ばすほどの外装でほとんどの場合魔法が聞かない。そして一番問題なのが……」
「あの攻撃か」
「その通りじゃ。あの突進を生身のまま一回でも食らえば体が残っているかすら危うい。それほど強い相手じゃ」
ごくりと固唾を飲む。
つまりあの攻撃にやられれば、死ぬという事らしい。
……怖すぎる。
「しかし……どうしてこんなところに魔獣が。意味がわからない。本来ならこんなところに出てこないはずなんじゃがな……」
「お父さん。そんなことはここで考えることじゃないわ。今はとりあえず、みんなで逃げることを優先しましょう」
「……逃げるべきか。ならば、皆で一気に逃げるのではなく二手に分かれるとしよう。一方はここからグータンを離させて、逃げるようにする方。もう一方はここから完全に離れて、どこかに逃げてしまう方じゃ。こうした方が生存率は高くなるじゃろう。わしは前者の方に行く」
「!? お父さんやれるの……?」
「もちろんじゃ。わしならグータンをお前たちが逃げれるくらいの時間は稼ぐことが出来るからの」
自信満々に言う。
できるという事らしい。
「……ってことは現実的に考えればそうした方がいいみたいだよね……でも……」
ミクでも悩んでいるようだった。簡単には決められないらしい。こんな大事なことだし仕方がない。
……ならば、俺がどうにかするか。
「じゃあ、俺と爺さんはおとり役でそれ以外は逃げる係ってことで。おい爺さん。早く行くぞ」
「「え?」」
ミクと爺さんの声が重なる。
「ちょ、ちょっと待って。ファクトもそれに行くきなの? お父さんだけじゃなくて!? 大丈夫なの?」
「そうじゃぞ。わしは元々行く気だったが、ファクトお前は止めておいた方がいいんじゃないのかい」
心配そうに俺を見つめる。二人とも予想外だったようだ。
ミクってこんな顔するんだな。いつも怒った顔ばかりだから見たことなかった気がする。
「……そんなの知らない。でも爺さん一人で行くより人が多い方が安全だろ。だから行くんだ」
「それって……危ないってことだよね!?」
「そんなの100も承知だ。そっちにだって危険はある。あとりだって言ってるけど、全ての魔獣が俺たちの方に来るとは限らないしな」
「でも……」
「……それに俺なら大丈夫だ。なんていったって俺はお前と違って頭がいいからな。余裕で戻ってこれるさ」
「あんた……ふざけてるとぶん殴るわよ……」
いつも通りのミクに戻ったようだ。
これなら大丈夫だろう。
「……お前の方も気をつけろよ」
「うるさいわね! 言われなくてもわかっているわよそれくらい!」
鬱陶しそうに言う。
うんうん、ミクはこの位うるさい方がにやってると思う。
「じゃあ、時間もないし……行くわよ。シン、リン。私についてきなさい。ここに何年もすんでるから逃げれそうな場所はわかるわ。お父さんたちが引き付けてる間に逃げるわよ」
二人はなにも言わずにうなずく。
そして俺の方を向いて。
「ファクトお兄ちゃん。帰ったら読み聞かせの続きしてね。魔法についてももっと知りたいし!」
「僕も!!」
「ああ、わかってるよ。気をつけてな」
挨拶を交わす。
「よし……じゃ行動開始!」
ミクの合図と共に俺と爺さんもを開始する。
俺たちがやるのはおとり。あいつらが遠くまで行ったのを見計らって逃げることだ。
だが、簡単には逃げれないだろう。
あの速さだ。逃げたところで追い付かれるのがオチだろう。
つまり今現在において一番効率的なのは――
――グータンとかいう野郎を倒すことだ。
そのためには弱点を見つけるしかない。
「やるしかないぞ。この能力で。どうにかするんだ!」
いよいよ戦いが始まる。
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